サブスクリプションモデルのビジネスが、さまざまな業界で採用されるようになってきた。特にIT分野では、インターネットの普及に伴い、ソフトウェアを箱で買って導入することから、ダウンロードに変わり、さらにクラウドサービスへと変遷していく中で、サブスクリプションが自然と受け入れられてきた。ただし、購入から課金モデルへの変更という側面だけでは、サブスクリプションの本質を見誤ってしまう。藤田健治社長は「本質はビジネス革命にある」と主張する。サブスクリプションが注目される要因は、そこにある。
単体ではなくエコシステムで丸ごとサブスクリプション
――サブスクリプションは、所有から利用へという利用者側のニーズにマッチし、採用が進みました。ただ、それだけでは「サブスクリプションの本質がビジネス革命にある」には結び付きません。まずは、そこから教えていただけますか。
サブスクリプションではサービスを売り買いすることになりますが、それで終わりではありません。重要なのは、サービス単体ではなく、複数のサービスがつながっていくようなビジネスモデルです。
サービスを提供する企業には、一般的にエコシステムがあります。自社サービスの販売パートナーだったり、サービスの仕入れ先だったり。このエコシステム全体でサブスクリプションを適用することがポイントになります。
例えば、自動車会社ではサービス化の流れを受けて、MaaS(Mobility as a Service)への取り組みが始まっています。ただ、自動車会社が単独でMaaSに取り組んでもダメなんです。販売会社や部品メーカーなど、自動車会社のエコシステム全体でサブスクリプションに取り組むことで、MaaSが成り立つと考えています。
――IT業界は、サブスクリプションをどのように捉えるべきですか。
自社サービスを持っているSIerは、クラウド化により、サブスクリプションに取り組むことになります。ここで重要なのは、自社サービスの提供で終わらないことです。
クラウドの普及により、ユーザー企業は複数のサービスを利用するのが、一般的になりました。SIerは販売パートナーとして、さまざまなサービスを取り扱うことができます。そこで、ユーザーが必要とするサービスを一括で取り扱います。サービス提供だけでなく、料金も一括して管理できれば、ビジネスの幅が広がります。いわば、サブスクリプションで囲い込みです。
例えば、携帯電話のキャリアは、電力やガスの支払いも一括して請け負うことで囲い込んでいます。生命保険やローンの支払いなどにも対応できます。すると、膨大な個人情報を獲得することになります。ポイントは、こうした個人情報は新たなビジネスの展開に活用できるということ。サブスクリプションは決済や課金だけのものではなく、本質はビジネス革命にあるというのは、そのためです。
SIerのビジネスにおいても、さまざまなサービスを一括で提供することによって、囲い込みができ、新たなビジネスを展開するための情報の獲得も可能になります。ユーザーに対する価値の見せ方が変わるのです。
もちろん、サービス提供の窓口が一つになるのは、ユーザーにとっても大きなメリットであることに間違いありません。当社は、それを実現するためのプラットフォームを提供しています。
――サブスクリプションの重要性がよく理解できましたが、そもそも、なぜサブスクリプションに注目したのですか。
商社にいたときに、ソフトウェアの販売が箱に入ったパッケージから、ダウンロードに変わっていくのを目の当たりにしました。導入しやすくなった半面、メーカー側もユーザー側も、ライセンスの管理が大きな課題となります。そこで立ち上げたのが、企業のソフトウェア導入を支援するライセンスオンラインという会社です。
その後、ソフトウェアがサービス型へと変わっていくことで、ライセンス販売ではなく、課金モデルになります。そうなると、これまでの販売網では対応が困難になりました。クラウドサービスは料金が頻繁に変わりますし、いつでも利用を開始できて契約を終わらせることもできます。管理が複雑になるので、クラウドサービスの流通会社や販売会社は、ユーザー企業に料金の内訳を説明できない。サブスクリプションのためのプラットフォームは、こうした背景から必要とされると考え、取り組み始めて現在に至ります。
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