誰よりAWSのすごさを知っていた
――2000年に創業されていますから、AWSが登場するのはその後しばらく経ってからですよね。AWSに着目したきっかけは?
創業当初はEC機能をASPで提供するサービスをやっていました。アイデアは今でもよかったと思うんですが、なかなかうまくいかず、その後、それを携帯電話向けに焼き直して提供しました。これは大学に結構売れて、そこから派生して大学の合格・不合格を携帯電話で見られるサービスを提供するようになりました。これがAWSにつながっていきます。
大学の合格・不合格の案内って、2月の特定の日の朝10時から10時15分の間に集中するんです。そのためだけにサーバーが200台くらい必要で、何とかできないかね、ということでいろいろ探していたら、うちのエンジニアが「どうもアマゾンが仮想のコンピューターをネット上で1時間10円で貸してくれるらしいですよ」という話をキャッチして。それで触ってみたら、これはすごいということになりました。
――ユーザーとして最初は触れたわけですね。
時間課金というのは当時非常に新しくて、ITの世界がまるっきり変わっちゃうぞと思いました。08年にサーバー購入禁止令を出して本格的に社内でEC2を使い始めて、09年からは完全にAWS事業に舵を切ったという流れです。
――結構大きなビジネスの転換ですよね。
実はそうでもないんです。過去に、インフラの技術を持っていないとサービスをスケールさせられないと投資家に指摘されたことがあって、それまでのサービスでもインフラの技術はすごく重視して、エンジニアの体制も整備していたんです。AWSの可能性を確信して、そちらにシフトしたのは半ば必然だったところがあります。
――AWS一本に賭けるという判断ができたのはなぜでしょうか。
それは、AWSを本気でパクろうとしたからですよ(笑)。触ってみたら便利だったから、同じサービスをつくったら売れると思っていろいろ調べてみたんですよ。そうしたら、とんでもない化け物みたいなサービスだと分かった。当時のS3なんかでも、あのサービスを実現して維持していくのに、軽く30億円以上はかかる計算でした。これは絶対にAWSと戦っちゃダメだと思いました。本気でAWSのコピーをやろうとしたからこそ、彼らのすごさが身をもって理解できた。
――今やサーバーワークスは、AWSの国内市場開拓のまさに重要パートナーとしての地位を確立されている印象ですが、現在のAWSについてはどうご覧になっていますか。
いい意味で正常進化していると思っています。あの規模(18年12月期の通期売上高は前期比47%増の257億ドル)になっても、痒いところに手が届く新機能やサービスの提供をどんどん加速させているのはすごい。
――注目しているAWSのサービスは?
メインストリームかどうかは置いて、機械学習関連のサービスは大きな可能性を持っていると思います。日本の社会的課題でもある生産性向上という観点でも、ユーザーに提供できるメリットは大きい。クラウドベースのコンタクトセンターである「Amazon Connect」やクラウドデスクトップサービスの「WorkSpaces」なども日本の旧態依然とした働き方を変えていく可能性があります。
――オンプレでAWSのサービスを活用できる「Outposts」も登場し、ハイブリッドクラウドのアプローチも出てきました。
あれは中間解で、AWSが最終的に目指している世界ではないと思いますが、エンタープライズITの市場を総取りするためのものと考えると、野心的ではありますよね。
――今後もAWS一本でやっていく方針ですか。
クラウドはまだまだ伸びている市場ですから、今はいろいろ手を出す方がリスクが高いと思っています。AWSは年間1000回を超えるバージョンアップをしていて、それを全部キャッチアップするのが難しくなるからです。
それに、AWS以外のクラウドにも手を付けるとなると、技術や知識の習得にかかるコストはユーザーに転嫁することになってしまいます。日本が競争力を取り戻すためには、エンタープライズITの世界こそ変革が必要で、そのキモはもっと有効にクラウドを活用していくことです。そして、そういう変革を進めるためにも、優れたクラウドサービスを扱うパートナーが暴利を貪るのではなく、適正なマージンでしっかりユーザーにデリバリーすることが大事だと思っていますから。

Favorite Goods
クラウドエバンジェリストの先駆け的存在である大石社長は、その価値を伝えるべく、プレゼンの質を高めることに注力しているという。プレゼンの相棒であるポインターも試行錯誤してきたが、ロジクールR500に落ち着いた。手になじみ、BluetoothとUSBの両方に対応する点がお気に入りポイント。
眼光紙背 ~取材を終えて~
カエサルの轍は踏まない
法人向けクラウドビジネス市場をけん引してきたクラウドインテグレーターの1社であるサーバーワークス。同社には、新興ベンダーにありがちな「Tシャツ組」と「スーツ組」のコンフリクトのような課題は存在しないという。
「顧客とプロトコルを合わせようというのが、社内の共通認識。お客様のところに行くときは、ちゃんと背広で行きます」と笑う大石社長。
日本の社会を再成長の軌道に乗せるには、エンタープライズITの世界を変える必要があるという問題意識は強い。顧客側の事情も理解しながら、その情報システム子会社などともスムーズに連携し、現実解としてのクラウド活用を提案して実績を積み重ねてきたという自負がある。
大石社長は、塩野七生の「ローマ人の物語」の愛読者だ。目指す姿は、ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥス。「彼は従来の元老院のやり方に最初は合わせつつ、ゆっくりと社会を変えていった。一方で、急進的なカエサルは志半ばで暗殺されてしまった」。賢者は歴史に学ぶ。リアリストとして、変革の“結果”を出すことを追求する。
プロフィール
大石 良
(おおいし りょう)
1973年、新潟市生まれ。96年、東北大学経済学部を卒業し、丸紅に入社。通信関連子会社の設立、インターネット関連ビジネスの企画、営業などに従事。2000年、有限会社としてウェブ専科(現在のサーバーワークス)を創業。代表取締役に就任。
会社紹介
2000年2月に創業。当初はECパッケージの提供などを手掛ける。09年よりAWS事業に着手。国内のクラウド市場を開拓する有力クラウドインテグレーターとして成長してきた。AWSパートナー制度の最上位である「APNプレミアコンサルティングパートナー」に2014年以降5年連続で選定されている。AWSの導入実績は700社以上。19年3月に東証マザーズに上場。19年2月期の売上高は44億7700万円、営業利益は3億3500万円。今期(20年2月期)は売上高60億円、営業利益3億7200万円を見込む。従業員数は19年3月現在で127人。