付加価値は高いが
価格は決して高くない
――コヒシティが高い付加価値を持つストレージであることは理解しましたが、「バックアップ環境をシンプルにしたい」という顧客の目には、逆にオーバースペックな製品と見られる恐れはないでしょうか。
スマートフォンがまずは電話としてきちんと機能しなければ使い物にならないように、私たちはバックアップの複雑性を解決するところに最大の重点を置いています。当社の製品はバックアップソリューションとして決して高価なものではなく、複数の製品を組み合わせなければならないレガシーなバックアップベンダーからは、もっと高コストなシステムが数多く販売されています。当社製品で50~80%もコストを削減したお客様の例もあります。
また、データという非常に高価な資源をどのように格納するのかは、企業にとって今後ますます重要な課題になっていきます。当社ユーザーの9割は、現時点ですでにバックアップ以外の用途にも製品を活用しています。バックアップの問題を解決した後に、このプラットフォームを使ってもっと多くのことを実現できる点を評価していただけいていると考えています。
――ソフトバンクは通信サービスとストレージプラットフォームを合わせて提供することを検討しています。日本においてはどのような提供形態が中心になると思いますか。
日本では、まだまだ伝統的なストレージ製品でバックアップを取っている企業が多いと思いますが、Backup as a Serviceの形態が求められることも十分あり得ると考えています。当社ではすでに、グーグル・クラウドを基盤として活用するバックアップサービスを提供しています。いずれにしても、オンプレミス、クラウド、サービスを問わず、お客様からの要望に応えるのが私たちの方向性です。
――今やスマートフォンの用途は、登場時点では想像もされなかったような範囲にまで広がっています。コヒシティとして将来的に、セカンダリストレージの枠を飛び出して、プライマリ領域のための製品を投入する考えはありませんか。
プライマリストレージでは多くのイノベーションが起きていますが、すでに多くのベンダーが存在し、競争は激化しています。セカンダリストレージでは、プライマリに比べると長らくイノベーションがありませんでしたが、現在そこにいるのはレガシーなベンダーばかりです。競争環境を考えると、長期的にみても当社がプライマリ領域に進出する可能性は低いと思います。それよりも、プライマリストレージのベンダーとパートナーシップを組んで、幅広い領域をカバーできるソリューションを構築していきたいと考えています。

Favorite Goods
「お気に入りのビジネスグッズ? これをいつも持ってますよ」と取り出したのは、使い込まれた財布。と思いきや、その中からボールペンが登場した。使うときは伸ばし、書き終えたら縮めれば財布のわずかなすき間に収まる。驚くべき高密度収納を実現している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
姿勢は慎重、シナリオは壮大
コヒシティのストレージ製品が描くロードマップは壮大だ。企業内で断片化していたデータを一つの基盤に集約し「効率化」を図るだけではなく、集約したデータの分析・学習といった「活用」のステップにも道を開くソリューションになり得るからだ。
しかし、モヒット・アロンCEOは、ITベンダーのマーケターが用いるような、「データ活用で新たなビジネス機会を創出する」といったフレーズを自ら口にすることは、今回のインタビュー中一度もなかった。日本市場に進出したばかりの現時点で、「データ活用」といった“意識の高い”キーワードをちりばめても、顧客の心をつかむことは難しいからだ。アロンCEOはあくまで慎重で、まずは複雑化したバックアップや共有フォルダーの整理に活用してほしい、という姿勢を崩さない。
しかし、最初はたった1台でも、それに満足した顧客は、同社の製品を買い足して容量・性能を拡張し、自ら用途を広げていくという。分散ファイルシステムというアーキテクチャーと、顧客の導入シナリオがぴたりと符合する。まさしく天才技術者が設計した製品である。
プロフィール
モヒット・アロン
(Mohit Aron)
1973年生まれ。米グーグルでソフトウェア技術者として勤務し、Google File Systemの開発に携わる。2009年に米ニュータニックスを共同創業し、CTOに就任する。13年に米セコイア・キャピタル、米アクセル・パートナーズ、米グーグル・ベンチャーズの出資を受け、コヒシティを設立。CEOに就任した(現職)。
会社紹介
2013年に米国カリフォルニア州で創業し、現在は同州サンノゼに本社を置く。15年に最初の製品となるハイパーコンバージドインフラを用いたバックアップ製品「Cohesity DataPlatform」を発売。18年6月、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが主導する資金調達ラウンドで2億5000万ドルを調達。同11月にはソフトバンクとの合弁で日本法人を設立した。