RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の概念を世界で最も早く打ち出した英ブループリズム。大手金融機関をはじめ世界各国・地域で納入実績を積み上げており、競争が激しいRPA市場でトップ集団の一角を占める。「RPAは単純作業の自動化ツールだけにとどまらない」と、来日した英ブループリズム共同創業者のアレスター・バスゲートCEOは話す。IT統制や情報セキュリティを担保しつつ、外部の優れたAIエンジンなどと効果的に連携する「コネクティッドRPA」を推進。より複雑でインテリジェントな業務の自動化を通じて、RPAの可能性の最大化を目指す。
「RPA」の言葉を世界に浸透させる
――世界で最も早いタイミングで「RPA」という概念と言葉を生み出したそうですが、何がきっかけでしたか。
ブループリズムを創業した2001年ごろは、ビジネスの変化に業務システムを機敏に対応させるという意味で、RPAのことを「オペレーショナル・アジリティ」などと呼んでいました。ただ、「ちょっと分かりにくいよね」となって、エバンジェリストのパット(パット・ギアリー・チーフエバンジェリスト)が、「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)だったらどうか」と言い出したのが始まりです。
――バスゲートさんは、何がきっかけで、後のRPAとなる「オペレーショナル・アジリティ」を考えたのですか。
起業する前はシステム会社に勤めていて、大手銀行のシステム開発に従事していました。当時、その銀行の情報システム部門は250件くらいのITプロジェクトを抱えていたのですが、向こう12カ月でこなせる件数は、どう見積もっても5件くらいなんです。事業部門から「システムをこのように改善してほしい」と要望を受けても、情シス部門の予算や人員の制限で対応するまでにやたらと時間がかかる。
だったらシステムに手を加えることなく、業務のオペレーションを自動化して、生産性を高めたり、ビジネスの変化に機敏に対応できる仕組みがあったら売れるのではないかと考え、ブループリズムを起業することにしました。
――では、最初は末端の業務アプリケーションの運用を、システムに手を加えることなく自動化するデスクトップ型のコンセプトだったのですか。
私が最初に思いついたのは、いわゆるオフィスソフトで言うところの“マクロ”のようなスクリプト型の自動化ツールでした。それをユーザー企業に持っていったところ、ユーザーの情シス部門からITガバナンス(統制)がきかなくなると厳しい指摘を受けてしまい、「確かにその通り」だと考えが大きく変わりました。それ以来、ビジネスの変化に迅速に適応して生産性を高めたい事業部門と、情報セキュリティやIT統制に責任を負っている情シス部門の双方の要求を満たすバランスのとれたRPAの開発に向けて、大きく前進していくことになります。
――どのような手法でバランスをとることにしたのですか。
まず、IT統制やセキュリティの観点から、しっかりとしたルールを決めました。情シス部門のあずかり知らないところでロボットが勝手に動いて、ITシステムがアナーキー(無秩序)にならないようにするためです。ユーザー企業が全社的に決めたルールに基づいてロボットが理路整然と動く。IT統制やセキュリティと、ロボットによる生産性向上を両立させたことが、ユーザー企業から高く評価していただくことにつながりました。
AI活用で非定型の業務領域に進出
――ここ数年、ブループリズムのRPAに対する考え方が、より大きく変化したとうかがっています。
RPAはもっと賢くなければならないと考えています。「ロボット」という響きそのものが、指示された通りにしか動かないイメージがあって、実際、旧世代のRPAにできることは限られていました。そこで、ブループリズムでは、「コネクティッドRPA」を提唱しています。外部のシステムと連携して、もっと賢い自動化「インテリジェント・オートメーション」を実現するものです。
――具体的には、どのようなものでしょう。
現行のRPAの多くは、定型業務の自動化のレベルにとどまっています。そこで外部の優れたAIエンジンと連携させることで、非定型業務の領域まで踏み込んで自動化させます。今、IT業界では、画像認識や自然言語処理、汎用的な機械学習といった優れたAIエンジンが続々と開発されています。そうしたAIエンジンを初めとする外部サービスとRPAをつなげる「コネクティッドRPA」を実現。旧来のRPA単独では実現が難しかった非定型業務の一部を自動化することができるようになりました。
例えば、ある倉庫に複数台の監視カメラが設置してあるとします。カメラに写った人物がちゃんと権限のある社員かどうか、あるいは不審人物かを見分けるのに学習済みのAIを使用します。不審人物や権限のない社員がカメラに写ったら、即時に担当者のスマートフォンにメッセージを送ったり、問題の画像を保存してグループウェアや社内SNSで共有したりといった一連の作業をRPAで自動化します。
――これまで、人の目で確認しなければならない“非定型”の部分を自動化して、しかるべき部門に連絡する“定型”部分もしっかりこなすと。
ポイントはAIエンジンで、マイクロソフトやグーグル、IBM Watsonといったクラウド上で提供されているサービスをブループリズムのRPAから利用できる点にあります。特定のベンダーに依存するのではなく、クラウド上にある優れたAIサービスとつないで、RPAの機能を拡張することができる。当社では「ブループリズム・デジタルエクスチェンジ」の名称で、マーケットプレイスを提供しており、AIを含むさまざまなビジネスパートナーのサービスとも広く連携できるようになっています。
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