ヘルスケア事業と
入れ替わりで着任
――石井社長ご自身は、着任以前から富士通九州システムズとは仕事でのつながりがあったのでしょうか。
私は富士通のヘルスケア事業の担当が長くて、富士通九州システムズのヘルスケア事業部門とは頻繁に連携をとっていました。電子カルテなどの開発の一部と、九州における病院向けのシステム構築などを富士通九州システムズに任せていたのですが、実は、私とほぼ入れ替わりで、昨年度、富士通九州システムズのヘルスケア事業は富士通本体へ移管されています。100億円規模の大きな事業だったのですが、富士通がヘルスケア事業に力を入れる流れの中で本体に集約した格好です。
――富士通のヘルスケア事業と言えば、今年2月に国内で初めて個人の健康・医療情報を共有する情報プラットフォーム「健康医療情報管理基盤」を立ち上げました。非常に先進的ですが、これらにもかかわってこられたのですか。
こちらに着任する前までは、そうです。プレセールスの段階も含めて、サンスターグループの先進予防歯科サービスやNTTドコモの母子健康手帳アプリで、この健康情報プラットフォームを使ってもらっています。先進予防歯科サービスを提供している歯科医院と日々の歯磨きの情報を共有したり、母子健康手帳アプリを通じて妊婦健診の結果を参照するサービスで使ってもらっています。私は、富士通九州システムズのヘルスケア事業と入れ替わるように着任しましたので、途中までしか担当していませんが。
――健康情報プラットフォームで培ったノウハウは、IoTなどで生かせますね。
九州は製造業や農業も盛んな地域ですので、IoTは必須です。画像認識のデバイスを使って工場の不良品の検知を行ったり、事業所に不審者や権限がない人が入り込んだときに検知したり、農業ではビニールハウスの温度管理から雌牛の発情の感知に至るまで、IoTのデータ活用は、実に幅広い用途や需要が見込まれます。
IoTデバイスで吸い上げたデータは、ネットワークで共有することになりますので、情報プラットフォームで培ったノウハウも生かせますし、AIで分析する場合は、富士通の研究所の技術を応用することも可能です。また、当社は、比較的規模が小さい顧客が多いことから、限られた予算の中でIoTを適応していくことになり、顧客の業務をよく知った上で、コストを抑えた的確な提案を行っていく力量が求められます。こうした業務分析能力は、常に顧客とともにシステムを開発するSIerとしての強みが生きてきます。
――経営的な指標をお聞きしたいのですか。
SI案件は売り上げを押し上げる効果が大きく、独自SaaSをはじめとするサービス型の商材は利益面での貢献が大きい。SaaS商材が好調で、足下の利益を見ると、サービス商材が4割ほどを占めるまでに拡大しています。これを向こう数年で5割程度まで拡大させ、将来的には逆転させていきたいですね。
Favorite Goods
B5のノートと赤インクの万年筆がお気に入り。客先でよくメモをとるが、「黒インクの万年筆だけでは分かりにくいので、重要な箇所には赤色の万年筆で印をつけている」。ボールペンより見栄えがいいこともお気に入りの理由だという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
よく怒るユーザーを大切な財産にしていく
富士通に入社以来、健康医療の事業領域を長らく担当してきた。この分野で富士通の強さを象徴するのが、電子カルテパッケージをベースとしたSIだ。当時、若手SEの一人としてSIを担ってきたが、「個人的には苦労することのほうが多かった」と振り返る。
忘れられないのが、ある病院の医師から実に11時間半にわたって怒られたこと。システムの問題点を細かく指摘され、がむしゃらになってメモをとった。最後は医師のほうから「もう終電だから明日にしよう」と折れた。
石井氏の持論は、「よく怒るユーザーは、システムのことを真剣に考えている証拠」というもの。怒っているユーザーは「腹を割って問題点を鋭く指摘してくれることが多い」からだ。
いくつもの困難を乗り越え、競争力を高めた結果としてナンバーワンの座がある。富士通の健康医療ビジネスも同様だった。その過程では、ユーザーが怒っているなら、なぜ怒っているのかを知ることで、問題解決につなげることができる。そうなれば、むしろ「怒られたことを自慢してもいい。後々大切な財産にできる」と話す。
プロフィール
石井雄一郎
(いしい ゆういちろう)
1962年、東京都生まれ。87年、日本大学大学院理工学研究科電子工学専攻卒業。同年、富士通入社。2012年、ヘルスケアソリューション事業本部パートナーシステム事業部長。15年、ヘルスケアシステム事業本部長兼医療ソリューション事業部長。17年、パブリックサービスビジネスグループ長補佐(ヘルスケアビジネス担当)。18年10月26日、富士通九州システムズ代表取締役社長に就任。
会社紹介
富士通のSE子会社である富士通九州システムズの本社は福岡市。ほかにも熊本や大分、東京、大阪に拠点を展開している。2018年度の売上高は363億円。従業員数は約1100人。富士通と連携したビジネスが売り上げの5割強、独自ビジネスが5割弱を占めている。