国産クラウドのない国は
負け組になる
――クラウド市場では、AWSとAzureの2強がさらにそれ以外の事業者との差を広げていますが、ニフクラのサービスにはどういった需要があるのでしょうか。
今非常に大きく伸びているのが、社内で「プライベートリージョン」と呼んでいるサービスです。これは、当社がお客様のデータセンター(DC)内にハードウェアを設置し、そこにニフクラのコントロールパネルを導入して、使った分だけ従量制で料金をいただくというサービスです。現在はお客様ごとに相談ベースで提供していますが、近日中に正式なサービスメニューとして公開する予定です。
――ユーザー企業にとってのメリットは。
パブリッククラウドに出すことができず、自社のDCに収容しなければならないシステムがあるけど、オンプレミスのインフラ運用はもうしたくない、というお客様が増えています。企業の自社DCでは監視・運用の部分がコスト高となっており、ハードウェアの運用がなくなれば、30%くらいはコストを削減できると思います。プライベートリージョンでは、ハードウェアからクラウド基盤までの監視・運用をすべて当社で行い、お客様はニフクラと同じ使い勝手でご利用いだたけます。
――先ほど、販売チャネルは富士通とそれ以外で半々というお話がありましたが、今後はどのように推移していく見込みですか。
富士通グループが、中堅・中小企業向けのクラウドとしてニフクラを積極的に提案してくれる方向にありますので、一時的には富士通グループを通じた販売比率が上がると思います。ただ、基本的な考え方としては、50:50に近い比率でいきたいと思っています。これまでの当社の成長はお客様とパートナー各社からもたらされたものですし、だからこそベンチャー精神でいろいろ挑戦できる文化が生まれている。今後は富士通のチャネルで売り上げが立つからもういいです、なんてことには絶対にしません。そこはグループ内外関係なく、フェアにやっていきます。
――富士通グループの事業であると同時に、エンジニアが自分の思うようにスキルを発揮できる環境にあることが、結果としてサービスを強くしているということですね。
これは私の持論ですが、国産のクラウドを育てられない国は、ビジネスで他国に抜かれると思います。例えば、日本の製造業は工場の海外移転をずっと進めてきましたが、ロボットを使った生産自動化やスマートファクトリーがこれだけ進んできたら、日本国内で組み立てたほうが付加価値を出せるという面もあります。公共分野を中心に、絶対に国産の基盤で守ったほうがいいシステムもあります。
夕方からビール片手に技術ミートアップなどのイベントもよく開催していますが、競合とか関係なく、他社のエンジニアの方にも広くお声がけしています。国産クラウドに携わるエンジニアたちが、当社をサロン……じゃないな、“たまり場”にしてくれたらいいと思っています。うちをやめた人も、いつでも戻ってきてくれていい。それくらいオープンでありたい。当社には国産クラウドを作る使命がある、そう自負しています。
Favorite Goods
持ち歩く小物一つ一つにエピソードのある愛川社長。2台持つスマートフォンのカバーは、右手前のカバーがゴルフをともにプレイする機会のあった高島早百合プロ(女子の飛距離日本記録保持)のサイン。左のカバーには、宴席の料理にのっていた金箔をワンポイントとしてあしらっている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
あらゆる境界を取り払う
「富士通グループの大きな経営リソースを生かしながら、小規模な企業体ならではのスピード感、チャレンジ精神を引き続き伸ばしていく」。2017年4月に始まった現体制の戦略だが、言葉で表現するのはたやすくとも、現実の企業経営として形にするのは難しい。実際に、17年度は会社を去る社員も少なくなかったという。
そこで、18年度に打ち出したコーポレートメッセージが「No Boundary(境界をなくす)」。ユーザーに対しては、障壁を感じることなく柔軟に使えるサービスを提供するというアピールとなるが、社員に向けては、部署間の壁をなくそう、一度会社から離れた仲間もあたたかく迎えよう、他社の技術も積極的に取り入れよう、といった意味が込められている。
愛川社長はSE出身。顧客やパートナーがニフクラをどのように使っているのか、自分の目で見ないと気が済まない。境界を取り払って、外に出れば出るほど、自社のクラウドが日本企業のビジネスに大きな意味を持っていることを知り、事業に対する熱がますます高まった。今では逆に、多くの経営者や技術者が、話を聞きたいと愛川社長のもとへやってくる。
プロフィール
愛川義政
(あいかわ よしまさ)
1955年1月生まれ、佐賀県出身。佐賀県立佐賀西高等学校卒。82年3月に、富士通九州システムエンジニアリングに入社。2009年に富士通九州システムズ執行役員、13年に同社取締役。17年4月より、富士通クラウドテクノロジーズ代表取締役社長に就任。06年からは、富士通でも新規事業開発や海外ビジネスも兼務で担当し、AsiaリージョンVPなどを務めた。
会社紹介
1986年、日商岩井と富士通の共同出資により、パソコン通信サービス「ニフティサーブ」の運営会社エヌ・アイ・エフとして創業。その後、富士通の完全子会社となり、2010年よりVMwareベースのクラウドサービスを法人向けに提供している。17年4月にコンシューマー事業のニフティとクラウド事業の富士通クラウドテクノロジーズに分社し、ニフティは家電量販店のノジマへ譲渡された。社員数は267人(今年4月1日現在)。