NTTコミュニケーションズ(NTTコム)は、通信キャリアとしての強固なネットワーク基盤を強みとしつつも、音声・データ通信以外のサービス事業の拡大にも力を入れる。設立20周年の節目で、海外事業の拠点を英国ロンドンに移すとともに、国内ではデータ活用プラットフォーム「Smart Data Platform(スマートデータプラットフォーム、SDPF)」を構築した。自社のクラウドサービスもこのSDPFのサービス体系の中に組み入れている。海外事業の一段の強化や、SDPFをはじめとする非音声・データ通信系のサービス事業の拡充への取り組みについて、庄司哲也社長に話を聞いた。
東京とロンドンの二軸体制が本格化
――NTTコム設立20周年の今年、グローバル戦略の一段の強化、音声・データ通信以外のサービス商材の拡充など、大きく動きました。まずは、一連の変革の狙いや期待する効果についてお話しください。
今年7月のNTTグループ海外事業の再編で、当社と英国ロンドンに本社を置くNTTリミテッド、そしてNTTデータと横並びの事業会社となりました。当社は国内事業と海外に進出する日系企業を担い、NTTリミテッドはそれ以外のグローバル市場を担当する体制です。
――では、庄司社長は国内市場と海外日系企業のみを見ているイメージでしょうか。
組織的にはそうなりますが、実態としてはNTTリミテッドと一体となって経営の舵取りをしています。NTTリミテッドは欧州や南アフリカに多くの顧客を持つ旧ディメンション・データと旧NTTコミュニケーションズの海外事業を統合した会社で、旧ディメンションのトップだったジェイソン・グッドールがCEOに就任。そして、当社副社長の森林(正彰・取締役副社長)がNTTリミテッドの経営を補佐するかたちで、すでに渡英してもらっています。
ネットワークやデータセンターの設計、これらインフラを活用したサービス開発の多くはNTTコムで担っていますし、NTTグループの研究所の成果をもとにした先端技術も日本発が多くを占める。海外事業の本社機構はロンドンに置いていますが、日本発のサービスや技術で世界市場に挑んでいくという流れに変わりはありません。そういう意味で、実質的には私とNTTリミテッドのジェイソンがタッグを組んで、グローバル事業に取り組む体制になっています。
――英国にグローバル事業の本社を置いた理由はなぜでしょうか。
端的に言えば旧ディメンションの本拠地があったからで、さらに付け加えれば南アフリカをはじめとする英連邦や欧州大陸の市場にアクセスがよく、大西洋を挟んで同じ英語圏の北米市場との意思疎通も円滑にできるからです。
日本で売れている商材だからといって、そのまま欧米市場で受け入れられるとも限りません。世界の主要市場のニーズに柔軟に応えられるようにするには、欧米市場にアクセスしやすいところに拠点を置き、そこから地域ごとの拠点を支援していく体制が不可欠だと考えています。
長距離電話から「SDPF」へ軸足
――音声・データ通信以外のサービス商材の拡充を推し進めていますが、詳しく説明していただけますか。
当社の直近の売上構成は、音声・データ通信が6割弱、それ以外のサービス商材が4割強を占めています。当社の既存ビジネスの柱である長距離電話の需要はほぼ頭打ちの状況ですし、25年にはNTTグループの従来型の電話回線がIP網に移行します。今のインターネットを見て分かるように、IP網は距離の概念がどんどん希薄になることから、長距離電話に代わる新しいサービス事業を立ち上げていくことが当社の成長にとって非常に重要になります。
そこで、この9月に投入したのが「Smart Data Platform(SDPF)」です。
SDPFは、「四つのONE」を基本コンセプトとしており、まずはデータの収集、蓄積、統合、応用までを階層的に体系化した「オールインワン」のサービスであること。次に「ワンクリック」の簡単な操作で、当社企業向けクラウドサービスの「Enterprise Cloud」や海外のメジャーなパブリッククラウド、NTTドコモの5G(第5世代移動通信)ネットワーク、NTT東西の地域ネットワークなどのサービスを組み合わせて利用できることです。
そして、こうした複数のプラットフォームやネットワークをハイブリッドで使う状況にあっても、安全なデータ通信経路の確保、データ保管場所の指定、データの匿名化などによって、一貫した情報セキュリティポリシーで運用できる「ワンポリシー」。さらに、高度なマネージドサービスによってユーザー企業を日々の繁雑な保守運用の業務負担を軽減する「ワンストップ」の四つの「ONE」を特徴としています。ここまで統合されたプラットフォームを構築したのは、世界の通信キャリアを見渡しても当社が初めてだと自負しています。
――四つのONEを前面に持ってきた理由はなんでしょうか。
例えば、近年のデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みは、まだ混沌としていますよね。経営層はデジタルでビジネスモデルを全面的に刷新することを考え、情報システム部門は既存システムの延長線上での議論を想定し、事業部門は各自バラバラでDXに挑戦するケースが多い。SDPFを使えば、データの統合や複数プラットフォームのハイブリッド、セキュリティ、運用を一気通貫で行える。デジタルでビジネスを転換する移行期にあって非常に役立つプラットフォームであることを四つのONEに集約しました。
――SDPFのビジネス規模はどのくらいを想定しておられますか。
SDPF関連では、向こう3~5年の時間軸で1000億円規模の売り上げ押し上げ効果を見込んでいます。SDPFは、音声・データ通信以外のサービス事業が主体となるため、このプラットフォームビジネスをテコに、非通信系のサービス事業の売上比率を今の4割強から過半を占めるまでに持っていきたいと考えています。
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