クラウドの世界でも
Excel並みの存在感になる
――ほとんどのITベンダーが「ハイブリッドクラウド」の実現を重要な戦略としていますが、マイクロソフトはどうでしょうか。
ハイブリッドクラウドが終着点なのか通過点なのかはわからないところがあります。お客様に明確な方針があってハイブリッド環境を選ばれるのはいいことだと思います。ただ、セキュリティのことを考えると、個々の企業が対策をするよりは、当社のクラウドを利用いただいたほうがいいと思います。なぜなら、世界で最もサイバー攻撃を受けている組織は米国防総省で、2番目はマイクロソフト。その厳しい環境で日々鍛えられたテクノロジーを活用いただけるのですから。
――クラウド事業においてはオープンな環境の提供を強調していますが、一方で、近年推進している「デジタルフィードバックループ」の戦略は、マイクロソフトのテクノロジーにユーザーを囲い込む動きのようにも見えます。
個々のアプリケーションについては、お客様によっては当社の製品よりもいいものがあると思いますので、もちろんそれをお使いいただけます。ただし、
その場合インテグレーションはお客様側でやっていただく必要があります。例えば、Microsoft 365をご利用いただければ、社員がどういう働き方をしているかのデータが集まり、Power BIを使えばすぐに分析できる。インターフェースをいちいち作る必要がなくなるので、いつでもどこでもデータを活用しやすくなる。従来のITのように、インテグレーションにお金や労力をかけるのか、それともすでに用意されているものを使うのか。最適なバランスをお客様と共に考えていきたいと思います。
――社長在任中に、日本マイクロソフトをどんな会社にしていきたいとお考えですか。
日本市場で「DXといえばマイクロソフト」「クラウドといえばマイクロソフト」と言われるようになることですね。「表計算ソフト」というと、Excel以外を思い浮かべる人はいないですよね。クラウドの世界でも、マイクロソフトをExcelと同じくらいの存在感にしていきたいと考えています。
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友人からカルティエのペンをプレゼントされて以来、愛用している。友人は「吉田さんにはこれが似合う」としか言っていなかったが、吉田氏はこれを、社長としての自覚を促すアイテムと捉えた。手にする度、マインドを高く保とうという気持ちにされられる。
眼光紙背 ~取材を終えて~
世のため、人のため
「日本の変革に貢献したい」。社長就任の記者会見で、新たな活躍の場をマイクロソフトに求めた理由をこう表現した吉田仁志社長。2015年、前職である日本ヒューレット・パッカードの社長就任会見でも、同様に日本社会への貢献を自らのミッションとして語っていた。
実は、さらにその前に勤めていたSAS Instituteやケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズで日本法人のトップになったときも、吉田社長は同じことを話していたという。数字の達成はもちろん重要だ。しかしそれだけでは、価値のある仕事をしている実感にはつながらない。顧客の成功に貢献し、ひいては社会全体を良くしていくことが、企業経営者の使命だと考えている。
20年以上前から抱き続けてきたこの信念は、今のマイクロソフトのビジョンと完全と一致している。社長就任後、社員に向けては、世のため、人のために役立つ行動をせよと説いた。クラウド時代、社会への貢献は単なるスローガンではなく、ビジネスの成功と表裏一体の関係になった。
プロフィール
吉田仁志
(よしだ ひとし)
1961年生まれ。83年、米タフツ大学を卒業後、伊藤忠グループの事業会社に入社。同社を退職しハーバード大学ビジネススクールで経営学を学び、95年に経営修士号を取得後、米ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズに入社。97年、同社日本法人の社長に就任。2001年にケンブリッジと米ノベルの合併に伴い、ノベル日本法人の社長に就任。06年にSAS Institute Japan社長、15年に日本ヒューレット・パッカード社長に就任。19年10月より現職。
会社紹介
1975年、マイクロコンピューター向けBASICインタープリターの開発で創業。OSやオフィスアプリケーションで世界最大手となった後、2010年にクラウドコンピューティングサービス「Windows Azure」(現Microsoft Azure)を開始。14年、それまでクラウドおよびエンタープライズ事業を統括していたサティア・ナデラ氏がCEOに就任した。19年6月期のグローバル売上高は約1260億ドル(前年同期比14%増)で、このうちクラウド事業が約3割を占める。