生活者との距離が一気に縮まる
――德永さんご自身のことについてお聞きしたいのですが、これまでのキャリアの転機になったことは何でしょう。
日立アプライアンス(現日立グローバルライフソリューションズ)の社長を務めたときですね。冷蔵庫や掃除機などの家電を扱うことで、生活者との距離が一気に縮まったことは、とても新鮮に感じました。もちろん、金融や鉄道、製造といった企業向けビジネスでも、最終的にその商品やサービスによる便益を享受するにはエンドユーザーや生活者であることは頭ではちゃんと理解しています。ですが、そこには一定の距離があったことは否めません。家電のビジネスを経験することで、エンドユーザーのことをより強く意識するよい転機になりました。
デジタル技術によって、企業と生活者の距離はかつてないほど近くなっています。エンドユーザーや市場の動向に関するデータを集める仕組みをつくることで、リアルタイムで把握することが可能だし、データを分析、活用してビジネスを素早く変えてていく企業が勝ち残る時代です。日立グループがLumadaやITとOTの融合でやろうとしていることは、まさにデジタル技術やデータによってビジネスを変革することですので、私の企業向けビジネスを大いに補強してくれたのが家電ビジネスでの経験でした。
――当面の課題と、初代CEOとして「これだけはやりたい」と思うことを教えてください。
スケール・バイ・デジタルができる領域は、ほぼ無限に広がっているのに対して、発足したばかりの新体制は、まだこれからやるべきことが山のようにあります。世界に展開している日立グループの事業セクターを見渡すと、EMEA(欧州・中東・アフリカ地域)は鉄道分野でリードしているし、北米は産業分野に強い。APAC(アジア・太平洋地域)は成長市場におけるスマートシティが有望です。一方、当社の売上構成比を地域別で見ると、北米とEMEAが大きく、APACはこれから伸ばしていくイメージです。
当社単独でというより、日立グループと足並みをそろえ、LumadaやIT×OTの融合を切り口として、これらデジタル技術によってビジネスをより大きくスケールさせていくことが課題であり、私のやりたいことでもあります。
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ペリカンの万年筆。家電の日立アプライアンス(現日立グローバルライフソリューションズ)の社長に就いた記念に購入。生活者視点の重要性を改めて知る転機となった時期と重なることもあって、「思い出深い品」だと話す。
眼光紙背 ~取材を終えて~
顧客に寄り添うスタイルを大切にする
新生・日立ヴァンタラは世界最大のIT市場である北米でビジネスを伸ばすとともに、欧州市場にも積極的に出て行く。欧米のシステムビジネスは、標準化を推し進めてグローバルで横展開(スケール)させることで大きく伸びた。ERPはその典型であるし、クラウドに代表されるITプラットフォームもスケールする手法がとても巧妙だ。
一方、日本のシステムビジネスのよさは、「顧客の属する業種や、その特色のある業務まで、顧客のことを深く知ろうとするビジネススタイルにある」と、德永俊昭CEOは話す。
日立ヴァンタラの主力商材の一つにデジタルビジネスの知見や技術を体系化した「Lumada」がある。Lumadaによって欧米流にスケールしていくビジネスの手法を取り込みながらも、顧客にもしっかりと寄り添う、和洋折衷のスタイルも大切にしていく考え。
日立の各事業セクターと密接に連携。産業や交通、金融、エネルギー、健康といった日立グループが取り組む幅広い領域で、「デジタルを切り口に、顧客の心に刺さる提案」をしていくことでビジネスを伸ばしていく。
プロフィール
德永俊昭
(とくなが としあき)
1967年、茨城県生まれ。90年、東京大学工学部卒業。同年、日立製作所入社。14年、情報・通信システム社サービス事業本部スマート情報システム統括本部長。17年、日立アプライアンス取締役社長。2019年、サービス&プラットフォームビジネスユニットCOO執行役常務。日立グローバルデジタルホールディングス取締役会長。日立ヴァンタラ取締役会長を兼務。20年1月、日立ヴァンタラ取締役会長兼CEOに就任(日立製作所サービス&プラットフォームビジネスユニットCOO執行役常務を兼務)。
会社紹介
日立ヴァンタラは、日立グループのIT事業セグメントの海外事業を担う中核事業会社で、旧日立ヴァンタラと旧日立コンサルティングが2020年1月に合併して発足した。従業員数約1万2000人。本社は米国カリフォルニア州。欧米や中国、ASEAN、インドなど世界およそ40カ国・地域に拠点を展開している。