クラウド会計のfreeeは2019年12月に東証マザーズに上場した。12年の創業以来、寡占化が進んでいたSMB向け基幹業務ソフト市場に現れた新興勢力として注目を集めてきたが、今期(20年6月期)の売上高は69億4100万円を見込み、ビジネス規模はもはや大手ベンダーの一角といっていいレベルに成長していることが明らかになった。一方で、SaaSビジネスの常として、営業損益はまだまだ大きい。上場後のfreeeをどう舵取りして成長を目指すのか。佐々木大輔代表取締役CEOに聞いた。
顧客数と単価が
ともに拡大
――以前から上場も資金調達の選択肢として持てるようにしておきたいとおっしゃっていましたが、ついに上場されました。
非上場も検討しましたが、ここから先は上場して成長戦略を考えたほうが、事業の加速という観点でもいいのではないかと判断しました。
――グローバルIPOだったことも注目されました。
日本企業では19年の唯一のグローバルIPOでしたし、SaaS業界で初めてのグローバルIPOでもありました。単なる翻訳ではなくて米国の規制に合った形で英文の目論見書もつくり、海外の投資家にしっかりマーケティングできる体制をつくって、対面で説明してまわったりしましたね。IPOの中で70%くらいの公募・売り出しは海外投資家に配分しています。
――どういう意図があったんでしょうか。
海外の投資家はSaaSビジネスに対してすごく造詣が深いし、いろいろな会社を比較して投資をしてきています。会計上の利益よりもユニットエコノミクス(ビジネスの最小単位=顧客あたりの収益性)をもっと重要視しないといけないとか、SaaSとかサブスクリプション特有の論点でビジネスを正しく評価する知見がある。彼らが株を持って経営をモニタリングしてくれるのは、経営力のアップにもつながると考えています。
あとは、国内のSaaS業界全体がより盛り上がる土壌づくりにもつながると感じています。海外の投資家が日本のSaaSに注目を寄せるきっかけにもなったと思いますし、国内投資家のSaaSに対する評価にも影響を与えるでしょう。freeeはAPIの公開などを通じてオープンプラットフォーム戦略を取っているので、SaaS市場全体が活性化することで、プラットフォームが育ちやすい環境ができていきます。
――19年6月期は営業損失が28億円超でしたし、今期もほぼ同額の赤字を見込んでいることなどを見ても、フロー型ビジネスの物差しでは評価が難しいということでしょうか。売上高についてはほぼ倍々で伸ばしていて、今期は70億円に迫る見込みですよね。売上高の伸びを支えている要因は。
スマートフォン向けアプリなどにも以前からしっかり投資してきましたし、パソコンを使えない人たちにも業務アプリケーションの裾野を広げてきたことが、新しい顧客層の開拓につながり、顧客数が順調に伸びています。一方で、中堅企業とか上場準備企業など単価の高いセグメントの方々も使うようになってきていて、これはこれでfreeeのビジネスのドライバーになっています。この両輪がかみ合ってきたというのが大きなポイントだと思っています。
法人でも競合からの乗り換えが
増えてきた
――上場時の会見では、「統合型クラウドERPとしてのユニークな提供価値」が武器であるというお話もされていました。
会計ソフト単体で見ても、「統合型」で「全自動型」であるというのがfreeeの設計思想で、ほかの誰もまだ実現できていないことだと自負しています。会計帳簿を直接入力することを志向しているのではなくて、いろいろな日々の業務、例えば請求書をつくる、発行した請求書の入金管理をする、受け取った請求書の支払いの管理をする、経費精算するとか、こういうことをやっていると裏側で帳簿が自動でつくれるというサービスを統合型のクラウド会計ソフトと言っています。
そして、会計と蜜に連携している必要がある部分、例えばワークフロー、稟議、あるいは債権債務管理といったところ、人事労務だと勤怠管理、給与計算といった業務もfreee上でシームレスに連携されていくという体験を提供できるのが圧倒的な強みです。
――それを統合型クラウドERPと表現しているわけですね。
統合型であるが故に実現できる自動化、データ活用、パブリックAPIによるオープンプラットフォーム戦略での拡張性などは中堅規模の企業の支持を拡大する非常に大きな要因になっていますね。
――SMB向け基幹業務ソフト市場には老舗の有力ベンダーも多いですが、彼らの製品からfreeeに乗り換える動きも出てきているんでしょうか。
マクロトレンドとして明確に出てきているとは思います。中小企業にとって特にバックオフィス向けの人材確保は非常に大変になってきていて、経営の屋台骨を人に頼らず支えられる仕組みにしていけるかが問われていると感じます。
――老舗の基幹業務ソフトはSMBの現代的なニーズに応えられていないということですか。
従来の会計ソフトは、どうしてもユーザーが自分の判断で仕訳を打っていかないといけない。そこの部分がどうしても属人化していくんですね。freeeは業務を回していれば自動で帳簿がつくれるので、業務設計の部分がより重要になるんです。そして業務設計は社内全体に浸透させなければいけないことなので明文化がどんどんされていき、属人化も起こりづらくなる。業務設計がしっかりしていれば、裏の帳簿付けはそれに対応して自動化されていくというやり方が合理的だと多くのユーザーが考える時代になりつつあると思います。
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