電通国際情報サービス(ISID)は「X Innovation(クロスイノベーション)」というキーワードを次なる成長戦略の中心に位置付ける。既存ビジネス同士、自社と親会社のリソースなどあらゆるアセットを“クロス”させることで新規事業創出へと動き出す。常に変化を続けるビジネス環境の中、19年1月1日から同社の舵取りを担う名和亮一社長は「揺らいではいけないビジネスの幹と変容させるべき領域の見極めが肝要」と説く。
強力な収益構造が
新規事業創出を支える
――社長に就任されて約1年ほど経ったことになります。就任された際、前任の釜井節生会長から何か引き継がれたものはありますか。
少し答えづらい質問ですね(笑)。改めて考えてみると、これといったものはないかもしれません。もちろん細かな業務内容などはきちんと引き継いでいますし、毎日のように会話していますけど、こうしろと言った指示のようなはものは特別ありませんね。
ただ、釜井さんの時代は収益基盤の厚みが非常に良くなりました。それまでは余裕がなかったといいますか、融通を利かせる余地や遊びがなかった。収益面で定量的に積み上げられる体制を引き継げているからこそ、現在は新たなことにチャレンジできるようになっていると思います。すぐにはお金にならなくても今後を見据えた投資というのは必要ですから、この収益基盤は大きいです。
――就任されてからまずどんなことに取り組まれてきましたか。
直近の業績は非常に順調に推移しています。売上高・利益ともに過去最高の数値になる見込みです。ただ一方で、ユーザー企業を取り巻くリスク要因はいまだに多い。生き残りをかけてITを駆使した業務改革に乗り出す動きはますます加速していくでしょう。
当社としても、今後の市場環境を生き抜いていくために、変えていくべきところと変えてはいけないところを見極め、その上で市場の変化に体制を適応させていくことに注力します。長年培ってきたノウハウやお付き合いしているパートナーやユーザーがありますが、そういったコアの部分を変えることなく、売り物や売り方、売り先といったところを増やしていく。この1年間は企業の“幹”をそのままにビジネスを変容させるための下地を作ってきました。
変えるべきと
変えないべきを見極める
――就任後すぐに新しい中期経営計画も発表されています。
そうですね。この新中計では「X Innovation」というキーワードを掲げているんですが、これこそ“変容”をつかさどる施策だと考えています。具体的にはわれわれがもともと得意としてきたFinTechやものづくりの革新などといった領域において、その枠を飛び越えた連携で新規ビジネスの創出を目指しています。
昨年7月には推進母体となる「X Innovation本部」を設置し、各部署から人材を集中させ新規事業開発の旗振り役として動きだしました。規模でいうと、だいたい70人ほどになります。また、全ての事業部門の部門長を中心に構成したタスクフォース部隊「プロジェクトX」もスタートさせました。AIやAR/VR、MaaSといった分野でそれぞれのプロジェクトの成果が徐々に出てきていますが、それとは別に自発的に部署を越えて行動するマインドが形成されつつあることも感じています。
一方で、部署単位でも少しずつ変化が生まれています。それぞれで変化の中身は異なるのですが、例えば製造分野ではこれまでCAD/CAMを中心としたビジネスが多かったのですが、最近はMBSE(Model Based Systems Engineering)のようなより上流工程を担えるようになりました。昨年は多くの業務提携も実現できましたし、これによってスマートファクトリーの構築をトータルで受注できるようになっています。
また、金融分野ではFinTech関連の合弁会社をいくつか設立しています。FinTechの盛り上がりは数年前から起きていますが、その影響でさまざまなプレーヤーが参入しています。従来の金融業を相手にしたビジネスに加え事業会社の案件が増加していて、新たに設立した合弁企業は大きく広がっている裾野をしっかりと捉えていくためのものでもあると言えます。
――近年では金融業界のクラウドシフトの機運が高まっていますが、この辺りも追い風になりそうです。
もともと当社は、かなり早い段階からクラウドインテグレーションに取り組んできた実績があります。各メガクラウドベンダーともそのタイミングでパートナーになっているからこそ、マルチクラウドでソリューションを展開できる。そしてそれ以上に重要なのは、各業界の業務アプリケーションに対するノウハウも持っていることでしょう。この業界知識は、長い間お客様とのコミュニケーションを続けてきたからこその強みではないでしょうか。
――いくつかの取り組みをうかがってきましたが、これら“変容”の施策の背景には市場環境の変化に対する危機感のようなものがあるということでしょうか。
すでにお客様のビジネスは現在進行形で変わってきているのです。デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性がいたるところで指摘されていますが、今後われわれに求められるのはその変化を後押しすること。ITベンダーにはこれまで以上にテクノロジーや分野など垣根を越えたユニークな提案力と実装力が求められるようになります。そんな中で私たち自身も変わっていかなければ生き残ることはできません。
われわれには金融、製造、ビジネスソリューションやコミュニケーションITといった各領域で長年ビジネスを展開してきた自負があります。これらを掛け合わせることで、競争が激化する市場においても着実に成長していきたいと考えています。
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