安心して長期間働けるようになる
――出発点が、自社社員のスキルアップ、つまり「働く人を活性化させる」だったわけですね。
そうです。客先に常駐した開発形態では、どうしても「今どきの技術に詳しい若い技術者に常駐してほしい」というニーズが根強くあります。ベテランは需要がなくなり仕事を続けられない。これではモチベーションが上がりません。キャリアを積み重ね安心して長く働ける環境でなければ、ベテランが去って結局は企業の活力も削がれてしまいます。
――受託ソフト開発からTeamSpiritによるSaaSモデルにはスムーズに移行できたのでしょうか。
そんなわけはありません。試行錯誤の連続でしたよ(苦笑)。「働く人と企業がともに活気あるものになるためにはどうしたらいいのか」を考えたとき、「まずは分析に欠かせないデータが必要だね」となって、勤怠管理システムをSaaS方式でつくりました。もともと、金融業向けのリスク管理システムを受託開発するなど統計的な知識があったため、データさえあれば分析するのはむしろ得意領域でした。
データを集める仕組みとして勤怠に続いて、就業、工数といった各種の管理システムや経費精算、電子稟議の開発を進めていくことになります。データが揃ってくると、より有用な分析や可視化が可能となり、これにワークフロー機能を付け加えることで働きやすい環境整備に役立てられる。
SaaS方式へと舵を切ったのが09年です。受託開発を止めてTeamSpiritの事業に経営資源を集中することを決めたのが11年ですので、3年ほど試行錯誤が続いたことになりますね。
――国内での地歩を固めつつある今、世界市場への進出はどう取り組んでいきますか。
すでにTeamSpiritの開発のおよそ半分はシンガポールの開発拠点で行っています。今はまだ内部取引の割合が多いのですが、いずれASEAN市場での売上拡大を見越して、連結子会社としています。
――どうしたら「働く人を活性化させる」提案が、ASEAN市場で受け入れられるとお考えですか。
ERPパッケージやセールスフォースのユーザー企業、これらの製品やサービスを販売しているITベンダーの販路を味方につけることができれば十分に商機はあります。ERPとフロントウェアは相互に補完し合う関係にあり、すでにセールスフォース基盤を使っているユーザーとの相性もいい。
ERPはよく記録型のシステムと呼ばれますが、そのフロントウェアであるTeamSpiritはゲーム的な要素も取り入れて、誰でも使いやすい操作性にしてあります。その上でデータをリアルタイムに分析し、働く人や企業の活性化につなげる。向こう3年で新規顧客のうち2割程度を海外から受注できるよう取り組んでいきます。
Favorite Goods
背負い式のビジネスバッグ「STARTTS」と携行品一式。バッグはある程度の雨にも耐えられる防水機能付き。「旅行鞄の上に乗せて海外にもよく出かける」。行動的な荻島社長に欠かせないツールとして愛用している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
6年間の赤字に耐え、働き方を変えた
小規模な受託ソフト会社が完全サブスクリプションの事業モデルに転換。今や向こう3年で年商100億円を目指すまでに成長した。「人手に依存した収益モデル」から、「人が寝ている間も稼げるモデル」に移行。働き方が大きく変わるとともに、「当時の何倍も稼げるようになった」と、荻島浩司社長は胸を張る。
ただ、ここまでの道のりは険しいものがあった。SaaSは「高く仕入れて安く売る」モデルだ。100万円かけて開発したものを1カ月100円で使ってもらうようなもの。損益分岐点を超えるまでは、すべて持ち出しとなる。資金調達をしながら、実に6年間の赤字に耐えた。
預金残高はいつも低空飛行、資金ショートを常に気にしながら、できる限りの販促活動に取り組んだ。
米国の会社に目を向けると、潤沢な資金を確保しつつ、赤字どころか債務超過でも「ユーザー数を大きく伸ばしてさえいれば評価される」姿を見て、歯がゆい思いもした。
稼ぐスタイルを変えるということは、働き方そのものを変えていくことにつながる。働き方を変革し、働く人を活性化させるサービスとして、新規顧客のより一層の開拓に力を注いでいく。
プロフィール
荻島浩司
(おぎしま こうじ)
1960年、埼玉県生まれ。83年、アイ・エヌ・エス(現コムテック)入社。96年、デジタルコースト設立。代表取締役に就任。12年、チームスピリットに社名変更。18年8月、東証マザーズ市場に株式上場
会社紹介
チームスピリットの今年度(2020年8月期)連結売上高は26億円、営業利益2億5000万円の見込み。今年度計画を達成すれば直近5年間のCAGR(年平均成長率)は50%になる。22年度(23年8月期)までに年商100億円、契約ライセンス数を直近の23万件余りから100万件に増やすことを視野に入れている。