コンシューマライゼーションの
メリットを体現
――ドロップボックスはクラウドネイティブな比較的新しい企業ですが、五十嵐社長は老舗・大手のITベンダーでの経験も長いですよね。
最初に入社したのは東芝でした。メインフレームの導入・運用を担当して、OSやデータベースまわりをやっていました。その後に米国のソフトウェア企業に転職し、日本法人から米国本社に転籍しました。向こうの考え方や仕事の進め方を学び、日本向けのビジネスも外から見ることになったわけですが、立ち位置を変えてお客様を見る機会が得られたことで、より大胆に布石を打っていくことの大切さを学べたと思います。日本マイクロソフト在籍時はその経験を生かしてパートナー営業に携わりました。
個人的に大きな転換点となったのは2013年にApple Japanに入社したことです。当時、“コンシューマライゼーションIT”というキーワードが注目されるようになっていました。それまでテクノロジーのイノベーションはエンタープライズから生まれるのが一般的な認識だったのですが、スマートフォンが徐々に普及し始めたことからも分かるように、消費者が利用するデバイスやサービスが先進性を持つような流れに変わったんです。
私自身もこの潮流に強く影響を受けまして、法人向けITの変革を提案できないか考えるようになりました。会社からツールを与えられるのではなく、現場のたくさんのエンドユーザーが使いやすいデバイスやサービスを選び、ボトムアップ式に法人ITシステムが構築されるべきだろうと。法人領域でもボトムアップによるユーザー視点のITをもっと広げていきたいと考えたのです。
――なるほど。その流れはもともとコンシューマ向けのサービスだったDropboxのビジネス展開と似ていますね。
そうですね。アップルがiPhoneやiPadでやってきたことを、ドロップボックスはSaaSの領域で実践していると言えます。近年、当社は法人ユーザーをさらに積極的に開拓すべく管理機能などを拡充していますが、あくまでもエンドユーザーファーストの姿勢を崩さないところが私の考え方とマッチしています。それだけに、今後、もっとユーザーの裾野を広げてられると確信しています。
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ビジネスにはスマートさが必要。だから、もともとはドレッシーな薄型の腕時計が好みだった。マイクロソフト時代、勝負に果敢に打って出る局面に立ち、スマートさと大胆さを兼ね備えた相棒が欲しくなった。以来、ロレックスのヨットマスターを愛用している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
競合ではなく顧客のニーズに
愚直に向き合う
エンタープライズITの世界を長く渡り歩いてきたが、スマートフォン登場以降のコンシューマライゼーションITの潮流のど真ん中に身を置いた経験が自らの価値観を大きく変えた。個別のユーザーのニーズに愚直に向き合うことが、製品の価値を高め、市場の支持を集める基盤になる。
だからこそDropbox Japanでも、ユーザーごとの価値観や製品導入の背景を大事するという基本的な姿勢を徹底させている。「Dropboxのようなツールはエンドユーザーに受け入れてもらえなければ普及拡大の可能性はない。競合他社製品のカタログで諸元表を見て足りない機能を埋めていくようなやり方ではうまくいかない。ブレずにお客様のニーズを見て、お客様にとって意味や価値のある製品・サービスを提供していくことでのみゴールにたどり着ける」
Dropboxは大塚商会の「たよれーる」ブランドのサービスにもラインアップされるなど、パートナーエコシステムも充実の度合いを増し、顧客のニーズに向き合う体制は整いつつある。新型コロナが、多くの企業にクラウド活用を前提としたビジネスの再構築を経営課題として突き付けているのは世界共通だが、日本企業の伸びしろは特に大きいと見ており、「変革に伴走したい」と意気込む。
プロフィール
五十嵐光喜
(いがらし こうき)
1964年生まれ。87年早稲田大学教育学部卒業。同年、東芝に入社。社内システムの運用・管理を担当し、その後、複数の外資系ソフトウェア企業で日本市場向けビジネスに従事。2005年に日本マイクロソフトに入社し「Windows Server 2008」の責任者を務めたほか、08年以降は業務執行役員などを歴任。13年よりApple Japanで法人営業本部長を務めたのち、17年より現職。
会社紹介
クラウドストレージ大手の米ドロップボックスの日本法人。米本社は2007年創業で180カ国、6億人以上のユーザーを抱える。近年は単なるファイル共有ツールではなく、必要なツールやファイルを集約してチームの共同作業に適したデジタル環境を実現する「スマートワークスペース」というコンセプトを打ち出し、顧客基盤の拡大を加速させている。