オンライン化できたのはまだ一部
――テレワークの環境がそろいつつある中、その旗振り役としてのブイキューブの存在感もますます高まりそうです。
「テレワークで日本を変える」と言ってきましたが、このコロナ禍においては、Web会議の需要が増えたこと自体よりも、先ほど申し上げたように文化が変わって、仕事や生活の中にオンラインのコミュニケーションを取り込むことに抵抗がなくなったことのほうが、当社にとっての意味は大きいです。医療でも教育でも金融でも、あらゆる産業でオンラインを活用できる素地ができあがった。ジムでやっていたトレーニングまでリモートになるとは、今までは考えられなかったですよね。逆にWeb会議はどんどんコモディティー化が進んでいるので、無償のものでもいいよねという話も出てくる。私たちは、セキュリティやプライバシー、品質に対する要求の厳しいお客様に対して有償のサービスを提供していますが、世の中には無償で使える著名なツールがたくさんあります。ビジネスの観点では、Web会議の先を見据えていかなければいけないと考えています。
――となると、今後はどのような分野に力を入れていくのでしょうか。
足元で一番力を入れているのは、セミナーなどのイベントの配信です。これまで全国では年間何百万回というイベントが開催されていたはずですが、それらの多くがオンライン化、もしくはリアルとのハイブリッド化をしています。この需要に対して、当社はライブ配信ツールをSaaSで提供しています。さらに、SaaSだけだと運用しきれないお客様に対して、配信支援サービスやスタジオを用意しているのが特徴です。Web会議なら、もしうまくいかなくても最悪の場合、再スケジュールすることができますが、何百人何千人が参加するイベントとなるとそうはいかないので、失敗しないよう配信業務をプロにアウトソースしたいというお客様は多い。このサービスは今急拡大しており、今年は既に1万回を超える勢いで利用いただいています。
――中長期的には、サービスをどう発展させていかれますか。
完全テレワークの勤務において何が課題と感じているか、当社の社員にアンケートを取りました。その中で一番大きかったのは、固定のインターネット回線がないとか、仕事用の机やイスがないといった一般的なものでしたが、次に挙がるのが、(Web会議以外の)コミュニケーションがなくなるということでした。会議や商談はかなりの部分をオンラインで完結することができますが、今まで社内で無意識的に発生していた、決まった目的がない会話のようなコミュニケーションが全部なくなったことで、違和感やストレスを覚えている。
――今はオンラインでなんとかなっていても、人と人ですから、この状態が長期にわたるとやはりどこかに無理が生じてきますね。
“オンライン飲み会”のような交流はある程度広がりましたが、オフィスに来たり、どこかの会場に集まったりしていたことの価値をすべてはオンライン化できていません。もともと当社は「すべてがオンラインになるべき」とは思っておらず、リアルとオンラインを使い分ける考え方でしたので、あらゆるコミュニケーションをオンラインで提供しようとは考えていなかったのです。しかしこういう状況になると、リアルでは当たり前に行われていた何気ないコミュニケーションを、どうオンラインで実現していくかも考えなければいけない。
移動がしにくくなる、人と会いにくくなるという状況に置かれ、コミュニケーションの本質って何だったんだろう、何で人と会わなければいけなかったんだろう、ということを見つめなおすタイミングが来たのだと思います。具体的にどう形にしていくかはまだお話しできないのですが、今後は現在のWeb会議ではできていないコミュニケーションのすき間をどう埋めていくか、それが私たちの重要な役割の一つになると考えています。
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Goods
2年ほど前から料理をするようになった。「料理はビジネスと同じく段取り」と話すが、在宅勤務やワーケーション期間中の料理は、あまり神経を尖らせずリラックスしながら楽しみたい。材料をセットしたらのんびりと待つだけでおいしい料理ができる低温調理器が最近のお気に入り。
眼光紙背 ~取材を終えて~
コミュニケーションのDXは始まったばかり
この春以降、多くの対面コミュニケーションがWeb会議などのデジタルツールに置き換えられた。ネット越しの映像コミュニケーションを長年手掛けてきたブイキューブは「コミュニケーションのDX(デジタルトランスフォーメーション)」を掲げており、まさにそんな時代がやってきたかのように思える。
しかし間下直晃社長は「従業員が1年、2年と長期にわたって在宅勤務を続けて、本当に成果を最大化できるかというと、ハードルは高い。テレワークが制度としてもきちんと機能している会社も決して多くはない」と指摘する。Web会議ツールで代替できるのはあくまでコミュニケーションの一部であり、リアルに顔を合わせたり、大勢で一カ所に集まったりしなければ通じ合えないことはまだまだ多いと考えている。
ただ、テクノロジーの力でコミュニケーションの機会や形が格段に広がるという事実を多くの人が知ったことは、同社にとって大きな追い風となる。Web会議の先にあるコミュニケーションのDXに向けて、ようやく道が開かれた。
プロフィール
間下直晃
(ました なおあき)
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学理工学部在学中の98年、ブイキューブインターネット(現ブイキューブ)を設立。その後ビジュアルコミュニケーション事業をコアビジネスとし、2015年にはドローンなどロボティクス事業を営むブイキューブロボティクス(現センシンロボティクス)を設立するなど、テクノロジーを活用したさまざまなサービスを手掛ける。経済同友会の20年度副代表幹事を務める。
会社紹介
1998年、Webソリューション事業を目的としたブイキューブインターネットとして設立。2002年にブイキューブに社名変更。04年ビジュアルコミュニケーションサービスを提供するブイキューブブロードコミュニケーションが設立され、その後同事業の強化のため、ブイキューブブロードコミュニケーションがブイキューブを吸収合併、現体制に至る。開発や営業拠点として、米国、シンガポール、タイに現地法人を構える。