国家規模の人的リソース再配分
――マイナンバーもそうですが、デジタル化することで見えてくるものがありますよね。
学校の例で言えば、教材のデジタル化によって、理解の進捗度がリアルタイムに分かるようになります。試験の結果を待つまでもなく、つまづきそうになっている児童、生徒をその場で手助けできるようになります。学習塾や企業研修などで使うeラーニングではあたりまえのように使っている仕組みですが、公教育ではまだまだ普及してませんよね。
社会保障や税務の分野におけるマイナンバー制度に代表されるように、アナログ業務を排除することで、国全体の業務の透明度を上げていくことは、もはや避けて通れません。就労人口が減っていくことが分かっていますので、可視化によって無駄な部分や非効率な部分が見えてきたらITを使って徹底的に自動化します。「その分、雇用が失われるではないか」との声が聞こえてきそうですが、そうしたデジタルの仕組みをつくる側のスキルを身につけ、人的リソースの再配分を同時に進めていく必要があります。デジタル化と雇用は車の両輪であり、そうした国家規模のリソースの再配分するには、官民がしっかり連携しないと実現できません。
――豆蔵ホールディングスグループの業績はどうでしょうか。
上半期(2020年4-9月)はコロナ禍の混乱もあって、プロジェクトの延期、期ずれが一部に見られましたが、下期に入ってからは需要が戻ってきている手応えを感じています。08年のリーマン・ショックのように金融が痛んでいない。一時的に需要が停滞しただけであり、先が見通せない状況ではないと踏んでいます。もちろんコロナ禍で苦労しておられる業種・業態が多くあることは重々承知しています。コロナ禍が収束したあとも行動様式や価値観が変容し元に戻らない可能性が高く、変化適応に備えなければ本当の意味でコロナ禍を乗り切ることはできません。
オンラインで仕事ができたり、授業ができたりすると、「通勤、通学って本当に毎日必要なの?」と、人々は気づいてしまった。逆に顔を合わせて話すことの大切さの理解も深まり、状況によってオンラインと対面を使い分けるようになる。社会全体の変化をしっかりと捉え、経営に取り込んでいくことがビジネスチャンスを掴む近道になると考えています。
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豆蔵(現豆蔵ホールディングス)の社長に就任した日に、たまたま立ち寄ったコンビニのくじ引きで当てた民族衣装風のドラえもんのぬいぐるみ。以来、「17年にわたって職場に飾っている。験担ぎのようなもの」と話す。
眼光紙背 ~取材を終えて~
IT業界だけでは受け止められない社会変容
社会の隅々までITが浸透しているとは言われるものの、企業や行政の活動においてアナログの部分はいまだに多い。コロナ禍によって仕事や学業のオンライン化が余儀なくされると、以前にも増してそのアナログ部分が生産性を押し下げる要因として目につくようになった。業務のデジタル化を進めれば、これまで人の手作業でやっていた業務を自動化できる余地が増える。豆蔵ホールディングスの荻原紀男代表取締役会長兼社長は「多くの人が気づいてしまうと、もう後戻りはできない」と話す。
IT業界だけで社会の変容を受け止めきれるわけもなく、国や自治体、民間企業が連携して変化に適応していかなければならない。「デジタル庁」新設に象徴される中央省庁の変革はいずれ自治体にも波及し、民間企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる。
その結果として「国全体で人的リソースの再配分が起こる」と見る。コロナ禍で打撃を受けた業種の雇用環境が悪化する中、いちIT企業の経営者としてだけでなく、業界団体を通じて官民一体となった人材のスキル転換を推進したいという思いを持っている。「デジタルで新しい価値を創り出せる側の人材を増やす活動にこれまで以上に力を入れたい」と意気込む。
プロフィール
荻原紀男
(おぎわら のりお)
1958年、東京生まれ。80年、中央大学商学部卒業。83年、公認会計士試験合格。同年、アーサーヤング会計事務所(現アーンスト&ヤング)入社。88年、朝日監査法人(現あずさ監査法人)入社。96年、荻原公認会計士税理士事務所(現税理士法人プログレス)、2000年、豆蔵(現豆蔵ホールディングス)取締役。03年、代表取締役社長に就任。コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)会長、日本IT団体連盟幹事長、デジタル社会推進政治連盟会長、豆蔵柔道クラブ道場長。
会社紹介
豆蔵ホールディングスの昨年度(2020年3月期)の連結売上高は288億円。従業員数は約2000人。中核事業会社の豆蔵を含めて、主要な事業会社は10社。今年6月にMBO(経営陣による株式買い取り)によって東証一部から株式上場を廃止した。