日本情報通信(NI+C)は、NTTグループとのクロスセルを含めた連携の一段の深化を打ち出す。同社は長らくNTTと日本IBMが50%ずつ折半出資する合弁会社だったが、2020年1月にNTTが65%、日本IBMが35%へと資本比率を変更。NTTの連結子会社のSIerとして新しいスタートを切った。新体制に移行後の2020年6月にトップに就任した桜井伝治社長に、NTTコミュニケーションズやNTT東西地域会社、今後法人分野により力を入れようとしているNTTドコモなどとの連携をどう深めていくのかを聞いた。
要所要所で重要な役割を果たす
――資本構成の変更やトップ交代、事業環境の変化などSIerとしての日本情報通信(NI+C)の位置づけが大きく変わろうとしています。
私は、前任の廣瀬(廣瀬雄二郎・前社長)の後任として、20年6月、NTTコミュニケーションズグループからNI+Cの社長に就きました。
NI+Cの位置づけについてですが、年商約470億円、従業員数で約1100人の当社は、NTTデータや日本IBMほど規模は大きくなく、NTTコミュニケーションズやNTTドコモのような通信キャリアでもない。では、NTTグループのSIerとしてどのような立ち位置であるのかを考えたとき、私は港湾で大型船の離着岸を支援する「タグボート」、あるいは「水先案内人」のような役割を果たしていると捉えています。当社はデータ分析や活用といった分野で、非常に尖った技術を持っており、NTTグループのビジネスの要所要所で重要な働きをするSIerです。
――具体的にはどのような強みでしょうか。
1985年にNTTと日本IBMの合弁会社として設立されてから今年で36年。IBM由来の技術を多く取り入れてきました。当社の顧客をみると、UNIX系のサーバーの旧RS/6000(現Power Systems)を使った比較的大規模な業務アプリケーションを使うユーザーが多いのも特徴の一つです。近年では、IBMの「Watson」やNTTの「corevo(コレボ)」のAI技術をふんだんに取り入れたデータ分析の領域でビジネスを伸ばしています。データ分析の分野で有名なSASインスティテュートの製品もよく活用しています。
当社のこうした強みは、近年のDX(デジタルトランスフォーメーション)と呼ばれるビジネスや業務のデジタル変革にも大いに役立つものです。コロナ禍で人々の行動変容は、企業活動にとって重大な関心事となっています。自社商品やサービスの販売データや、外部から調達するソーシャルメディアのデータなどを統合し、さまざまな分析ツールを駆使して最新の市場動向を分析したり、顧客企業が最終ユーザーへの最適なアプローチ方法を導き出す分野で、当社のデータ分析能力を生かせます。
農業IoT、デジタル変革に強みあり
――前任社長の廣瀬さんがNTT西日本のご出身ということもあり、NTT東西地域会社の法人ビジネスと連携する動きがありました。
NTT東西地域会社は、農業や再生エネルギーなど非通信の分野に進出しており、例えば農業なら各社のセンサーから集めたデータを分析するIoT/AIの分野で当社のノウハウを生かせます。ただ、NTT東西の一般法人向けのビジネスは、地域密着の中堅・中小企業、文教、自治体などが多い印象で、今後すり合わせていく必要があると感じています。地域ビジネスはNI+Cが手薄な部分でもあり、協業を深めていくことでNTTグループとしての相乗効果を出せる。
一方、NTTコミュニケーションズの法人ビジネスは、顧客の規模感で当社と親和性が高く、またNTTドコモも、法人ビジネスに力を入れていくと聞いていますので連携できる領域は少なくないと見ています。農業や再エネなどデータ分析を応用することで価値を高められる分野や、比較的規模の大きい企業のデータ活用型のデジタル変革の分野で、NTTグループとの連携を一段と深化させていく方針です。
――NTTグループの製品をNI+Cが販売するパターンはどうでしょうか。
クロスセルは積極的にやっていきたいですね。この1月にはNTTコミュニケーションズが開発している経費・交通費精算サービス「SmartGo Staple」の運用を当社が行うマネージドサービスを始めました。「モバイルSuica」や、法人プリペイドカード「Stapleカード」と連携して、電車賃の精算を自動化したり、領収書の写真を撮ってアプリで送信しての精算、従業員の交通費の立て替えをなくすといったサービスの運用を行うものです。ただ仕入れて売るのではなく、運用サービスの付加価値をつけて販売することで、収益力、ユーザー企業の顧客体験の一層の向上の両立を重視しています。
――長引くコロナ禍で事業環境は大きく変わっていますが、どう対処していきますか。
NTT(持株会社)の澤田(澤田純社長)が「リモートワールド(分散型社会)」というキーワードを出していますが、まさにいまの状況をよく言い当てていると思います。二度目の緊急事態宣言を受けて、依然として三密の回避、対人距離を確保しつつ、経済はしっかり回していかなければならない。私たちNTTグループに求められているのは、リモート環境においても対面型と遜色なく仕事ができるよう支援するとともに、むしろ従来より生産性を高められるような仕組みを提供していくことです。
NI+Cはコロナ禍が始まって以降、ならして見ると従業員の8割方がリモートワークで仕事をしています。最初のうちは立ち話をする機会がないとか、表情が読み取れないとかの課題や違和感がありましたが、リモートでの意思疎通を円滑にするさまざまなツールや手法を採り入れることで仮想オフィスの環境を構築。今年10月には、4月入社予定30人ほどの内定式をフルリモートで問題なくできるようになるまで完成度を高めています。
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