リモートワークの普及によって顕在化した境界防御型セキュリティの限界。それに代わる概念として「ゼロトラストセキュリティ」がにわかに脚光を浴び、バズワード化している。そのゼロトラストの重要機能の一角を担う「認証」のトップベンダー、米Okta(オクタ)が日本法人を設立し、本格的に国内ビジネス拡大に乗り出した。渡邉崇社長に、日本市場でのビジネスの現在と今後について聞いた。
「日本法人がない」
弱点を克服
――昨年7月、Okta Japanの社長に就任されました。さまざまな外資系IT企業での経験をお持ちですが、次のキャリアとしてセキュリティベンダーであるOktaを選んだ決め手は何だったのでしょうか。
特にセキュリティベンダーを選ぼうという意識があったわけではなく、素晴らしい企業文化を持っていることや、製品開発にしっかり投資している会社が良いと思っていました。加えて言うと、直前にいたアピリオで実際にOktaを使っていたことがあり、良い製品だと実感していましたが、「Oktaには日本法人がないな」ということが何となく頭の片隅にありました。狙い撃ちして入りたいと思っていたわけではないですが、そうしたときに声を掛けられて、一昨年の春頃に今の上司であるアジアの責任者が来日した際に話をしたというのが始まりです。
――日本法人を立ち上げ、社長に就任されてからはどのようなことに力を入れましたか。
まず取り組んだのは、Webサイトやホワイトペーパーなど各種コンテンツの日本語化です。日本法人立ち上げの記者発表を行ったのが昨年9月2日ですが、その前日までOkta JapanのWebサイトに日本語のページは4ページしかありませんでした。それを発表当日に200ページまで拡大、製品情報やブログ、お客様事例などを一気に日本語化しました。また、「Okta Essentials」というオンラインのトレーニンングコースも日本語化し、定期開催の第1回目を今年2月に実施することができました。
――これまでの国内ビジネスの進捗はいかがでしょうか。
ビジネスは順調に推移しています。加速度的に伸びていて、まだまだチャンスがあると思っていますね。
当社では「ワークフォースアイデンティティ」と「カスタマーアイデンティティ」という、大きく2種類の製品カテゴリーを持っています。これまではワークフォースという、会社の従業員の人たちが朝オフィスに来てログインする側のアイデンティティが中心でしたが、もう一つのカスタマーアイデンティティという、お客様企業がその先の顧客に提供する認証・認可においても市場のポテンシャルがあると見ています。
また、日本法人設立をアナウンスする直前に、日本の市場の声を集めました。そのフィードバックとして最も大きかったのが、「さまざまな世界的な調査機関のレポートでOktaが優れているのは明確であるけれども、日本法人がないという点で、他のベンダーに劣っている」ということでした。サポートが英語でないとダメだったり、いつか日本から突然撤退してしまうのではないかという不安があったりなど、日本に対するコミットメントがないというところが、Oktaを選択する上で躊躇させる唯一のネガティブなポイントだったという声がよく聞かれたんです。それから日本法人の立ち上げを発表し、多くのメディアにも取り上げていただいたことで、問い合わせがかなり増えました。導入企業の業種は幅広く、規模も数人から数十万人のところまで、ありとあらゆるところに利用いただいています。
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