NTTコムウェアはNTTドコモとNTTコミュニケーションズと密に連携し、法人向けITビジネスを強化する。NTTコムウェアのソフト開発力とNTTコミュニケーションズの持つ固定回線と法人営業力を活用することでドコモを総合ICT企業へ変革させるNTTグループの戦略の一翼を担う。今年6月にトップに就任した黒岩真人社長は、すぐさま組織改編に着手。ドコモとの連携をもとに新しい商材を生み出す「ビジネスインキュベーション本部」と、NTTグループとの連携を強化するための「NTT IT戦略事業本部」を立ち上げた。持ち前の大規模アジャイル開発の能力をフルに生かしてビジネスを伸ばす。
ドコモを総合ICT企業へと変える
――NTTドコモの完全子会社化を受けて、NTTコムウェアとNTTコミュニケーションズとの連携を深めていく方針をNTT持ち株が打ち出していますが、具体的にどう変わるのでしょうか。
NTT持ち株の澤田さん(澤田純社長)の狙いは、ドコモを総合ICT企業へと変えることにあります。そのなかでNTTコムウェアが持つ強力なソフト開発の能力を生かし、新しいサービスの創出や顧客体験を向上させることが求められています。
ご存じの通りドコモは長らく無線回線サービスに特化しており、ライバル各社が無線と有線を組み合わせたサービスを展開するなかで、とりわけ法人向けビジネスで不利な状況にありました。そこで、法人向けの固定回線ビジネスに強いNTTコミュニケーションズとドコモを連携させるとともに、付加価値を生み出すソフト開発に強い当社が両社のビジネスを支える布陣にしたという経緯です。
――黒岩さんは今年6月に社長に就任されましたが、新しい布陣に向けてどのような施策を打っていくお考えですか。
まずは、この7月から新しい組織を二つ立ち上げました。一つは「ビジネスインキュベーション本部」で、その名の通りビジネス(営業部門)の一部とインキュベーション(事業創造)機能を担う組織を統合して、製販一体で動く本部を立ち上げました。ユーザー企業が何をやろうとしているのか、どういう需要があるのかを探るとともに、当社が持つ技術やノウハウで新しい商材をつくる役割を担っています。マーケットインとプロダクトアウトの両方を合わせたようなイメージですね。
もう一つは「NTT IT戦略事業本部」で、ここも組織名にある通りNTTグループのIT戦略に沿ったビジネスを遂行する本部です。当社は1997年の設立以来、NTTグループ向けのシステム開発を手がけており、社内にはテレコムやデータ通信ネットワーク、技術企画など分野ごとの事業部門が存在します。新設のNTT IT戦略事業本部では、これら社内のリソースを取りまとめ、NTTグループの法人営業の強化や新サービス創出に直結する動きをしていきます。
――つまり、ドコモやNTTコミュニケーションズとの連携強化にビジネスインキュベーション本部やNTT IT戦略事業本部が一役買うという意味ですか。
そうです。ドコモやNTTコミュニケーションズが連携して、例えば持ち前の無線や固定の回線を融合したような新しいサービスを立ち上げるとき、必ずといっていいほどソフト開発が伴います。ソフトの出来栄えがよければ顧客体験や満足度が高まり、それだけ付加価値も大きなものになります。当社はそのソフト開発を担うに当たって、まずはビジネスインキュベーション本部が社内を技術やノウハウを取りまとめ、NTT IT戦略事業本部がドコモやNTTコミュニケーションズの事業戦略に沿ったかたちで商材の提供、NTTグループ内における販路開拓まで担います。
大規模アジャイル本格化を主導
――NTTグループ内における“販路開拓”とは、どういう意味ですか。
NTTグループのなかで法人ビジネスを手がけているのは、ドコモやNTTコミュニケーションズ、NTTデータ、ほかにも英国に拠点を置くNTTリミテッドなど多数あります。製品をただつくって終わりではなく、国内外のNTTグループの販売リソースをしっかり把握し、顧客業種や地域など販路の特性を踏まえた売り方を提案していくという意味です。これとは別に当社自身もNTTグループ以外の法人顧客に向けた直販部門も持っており、NTTグループの販売チャネルと直販チャネルをクルマの両輪と位置づけて、販売増につなげていきます。
――NTTグループの販売チャネルを活用する点で、ソフト商材を開発するNTTテクノクロスやNTTアドバンステクノロジと似た位置づけになるのですか。
NTTテクノクロスやNTTアドバンステクノロジは、NTTの研究所の成果物をベースとした製品化を主力としていますので、若干立ち位置が異なります。もちろん当社もNTT研究所の成果は活用しますが、どちらかと言えば法人顧客のニーズやドコモ、NTTコミュニケーションズをはじめとするNTTグループ事業会社の戦略に沿った商材開発に注力しています。また、大規模システムのアジャイル開発ではNTTグループ随一の力量があると自負しています。この領域ではNTTデータと一部重複するように見えますが、NTTデータの主力はSIであるのに対して、当社はソフト開発を最大の強みとしている点が大きく異なります。
――強みとする大規模アジャイルの知見は、いつごろから習得を始めたのですか。
アジャイル開発は、プロジェクトごとに個別に取り組んできたのですが、大規模化するプロジェクトに対応していくためには、より体系立った施策が必要だと考え、私が副社長に就いた17年から全社を挙げての知見やノウハウの習得に力を入れてきました。法人顧客に向けての大規模アジャイル開発は、技術面はもとより契約上の責任分界点をどうするかや、そもそもアジャイル開発の手法ではあらかじめ決められた成果物を納品する請負契約が成り立つかどうかなど、実務面での課題も無視できませんでした。
大規模アジャイル開発を実践するに当たっては、開発部門だけでなく品質管理部門や法務部門が“自分ごと”と捉えて智恵を出してくれたり、同じような課題を抱えるNTTデータやNTT研究所の担当者とも突っ込んだ議論を交わしました。その集大成として19年にアジャイル開発拠点を開設し、その関連技術の開発と運用を一体的に行うDevOps、デザイン思考の活用も進めています。コロナ禍が始まってからは開発拠点の主力をオンラインへ移行し、一段と完成度の高い大規模アジャイルの開発を推進しています。
“ノンテレコム”を軸に伸ばす
――業績についてですが、直近の売り上げでNTTグループ向けと一般顧客向けの構成比率はどのような状況ですか。
「NTTグループ向けと外部向け」という捉え方はしておらず、「テレコム」と「ノンテレコム」の比率でみると前者が6割弱、後者が4割強となっています。テレコムは昔ながらの電信電話の分野で、ノンテレコムはそれ以外の分野のことを指します。昨年度(21年3月期)の連結売上高は1729億円。ここ数年のトレンドを振り返ると、テレコム向けの売り上げが漸減していくなかでノンテレコムを堅実に伸ばし、結果として売り上げはほぼ横ばいで推移するイメージです。
――24年1月にNTT東西地域会社の固定電話網がIP網へ移行することで、いわゆる従来型の電話交換機の運用が終わります。そうなったとき、もはや従来の「テレコム」の概念も変わりそうですね。
まさにそうです。チャットアプリで自由に会話ができて、ZoomやTeamsでのビデオ会議が当たり前になった今、電話交換機の役割が終わり、人と人との音声やビデオによるコミュニケーションとデータ通信が一体化する時代です。すべてがノンテレコムになっていくと解釈することもできるわけで、当社のビジネスもノンテレコムを軸に伸ばしていく方向に間違いはないと考えています。
ノンテレコムの一例として、米国ラスベガス市でのスマートシティ案件が挙げられます。当社とNTT持ち株、NTTデータ、NTTコミュニケーションズ、英NTTリミテッドのグループ連携で数年前から参画しているもので、交通情報をリアルタイムに収集、分析することで逆走件数の減少などの改善成果があったと評価していただいています。今は市内の公園設備の安全状態や保全状況をリアルタイムに把握するといった応用分野に広げています。NTTグループ戦略の一翼を担いつつ、ノンテレコム分野のビジネスを国内外で一層伸ばしていきます。
Favorite Goods
東日本大震災で自宅が被災。一時避難先として神奈川県の義理の弟の家に滞在したことがきっかけで意気投合。副社長に昇進したときの記念に義理の弟から贈られた鮮やかな青色の「CIMABUE(チマブエ)」の名刺入れが大のお気に入り。
眼光紙背 ~取材を終えて~
技術に貪欲、スピード重視で臨む
NTT(当時は日本電信電話公社)の局舎から家庭や企業につなぐ電話線や電信柱の管理システムの開発で、キャリアをスタートした。電力会社から借りている分も含め、全国約3500万本ある電信柱に何個の接続口があるのか、足りなければ電話線を増やす手配をするなどの役割を担うシステムだ。ほかにも関西国際空港への連絡橋に敷設するケーブル設計にも携わってきた。
黒岩氏が入社した80年代は、まだ紙の図面が残っていたが、その後、メインフレーム、UNIX、クラサバでの管理へと変遷し、プログラミング言語もCOBOLからJavaへと大きく変化した。「新しい技術を取り入れると、これまでできなかったサービスが可能になる」ことを実体験として学んできた。
そして今、NTTグループのIT戦略を具現化するため、黒岩氏主導で大規模アジャイルの開発手法を全社的に実践できるよう体制を整えた。従来のウォーターフォール式の開発では実現が困難だったスピード感あるサービス創出がアジャイルによって可能になる。「われわれの世代が現場にいたのときとは比較にならないほど技術の進歩は速い」と、今後も新しい技術を貪欲に取り込み、スピード重視で経営に臨む。
プロフィール
黒岩真人
(くろいわ まさと)
1958年、鹿児島県生まれ。81年、九州大学工学部卒業。同年、日本電信電話公社(現日本電信電話)入社。97年、NTTコムウェアの設立に伴い転籍。2000年、NTT営業本部担当部長。09年、経営企画部長。11年、取締役経営企画部長。15年、常務取締役ネットワーク事業本部長。17年、代表取締役副社長テレコムビジネス事業本部長。21年6月18日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
NTTコムウェアの昨年度(21年3月期)連結売上高は1729億円。単体売上高は1666億円。単体の従業員数は約5700人。売上高全体のうち6割弱が従来の電信電話の分野を中心とするテレコム向けのソフト開発で、4割強をテレコム以外が占める。テレコムの売り上げが漸減するなか、ノンテレコム分野を重点的に伸ばしている。