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SaaS管理市場は完全にブルーオーシャン
メタップス 代表取締役社長
山崎祐一郎
取材・文/齋藤秀平 撮影/大星直輝
2021/12/10 09:00
週刊BCN 2021年12月06日vol.1902掲載
(取材・文/齋藤秀平 写真/大星直輝)
自社の「てんやわんや」が起点
――2018年11月の社長就任から丸3年となりました。これまでのビジネスの状況を振り返っていただけますか。社長に就任したころは、会社としては転換期でした。20くらいの事業をやっていましたが、方向性を絞って事業をやっていこうということで、それまでのBtoCの事業は全部売却・撤退、海外事業も縮小し、BtoBの領域にフォーカスすることを決めました。当時はマーケティング事業がメインで、お客様のほとんどはゲーム会社でした。いわゆるソーシャルゲームバブルのころに一気に伸びてきた事業でしたが、各ゲーム会社が広告予算を含めて投資を絞り出したという変化があったので、われわれとしても国内の決済事業に寄せていこうという方針を立てていました。そういった時に新型コロナウイルスの感染が拡大し、先行きが不透明な状況になったので、コア事業であるファイナンスとマーケティングについては国内に絞り、中長期で投資ができるメタップスクラウドを新しいサービスとして立ち上げ、事業の方向性をこの3本に絞るという方針を明確にしました。
――メタップスクラウドは中長期で投資できる事業ということですが、リリースの理由や背景をもう少し詳しく教えてください。
われわれ自身が相当な数のSaaSを使っていたことが起点になっています。メタップスグループでは、おそらく200近くのSaaSを使っている状況で、IT部門のメンバーがてんやわんやな状態となっていました。特にコロナ禍では、リモートワークが多くなり、「あれに入れない」とか「このPCからログインできない」といった問い合わせがたくさんありました。そういう状況を見て、これはニーズがありそうだと考えました。ただ、われわれだけの問題かもしれませんでしたので、大手企業を含めて30社ぐらいの情報システム部門の方々に協力してもらい、インタビューをしてからプロジェクトをスタートさせました。
――主力とするファイナンスやマーケティングとは少し方向性が違う製品ですが、これまでの知見はどのように生かしているのでしょうか。
以前、われわれはアプリの分析・解析ツールを出していました。これは、複数タイトルのゲームアプリを出しているゲーム会社が、それぞれのアプリの中身の分析結果を横軸で比較できるようなツールです。メタップスクラウドは、一つのプラットフォーム上でまとめてSaaSを管理できるプロダクトと位置づけているので、概念としてはアプリの分析・解析ツールと近いところがあります。
――開発の面ではいかがでしょうか。
われわれが把握している限りでは、国内で1000以上のSaaSがあり、グローバルでは国内分を除いて3000超あるとみています。メタップスクラウドと連携するのに必要なAPIはSaaSごとに細かく分かれているので、開発は相当地道な作業になります。ただ、中長期でそれをやることによって、差別化が図れると思っています。アプリの分析・解析ツールでは、アプリとの連携は土管工事のように一つずつ対応していました。そういったことから、われわれはシステム連携を非常に得意としており、開発の面では当時の経験を生かすことができています。もう一つは、グーグルに売却したモバイル金融サービス「pring(プリン)」のノウハウもあります。プリンは、日本全国の地銀やメガバンクの銀行APIを接続することによって、リアルタイムの入出金ができるサービスです。銀行の口座接続を含めた外部システムとの連携は非常に重要で、メタップスクラウドの開発に似ている部分があります。
実は開発メンバーは、元々はマーケティング事業の開発を担当していました。そこに退職者にも集まってもらってチームを結成しました。エンジニアはプロダクトを見てキャリアチェンジをすることが多いので、エンジニアから見ても、メタップスクラウドは面白いプロダクトになっていると思っています。

新たにシャドーITの管理機能をリリースへ
――メタップスクラウドの導入企業の状況を教えてください。有償・無償を合わせて100社くらいの企業に使っていただいています。導入企業は、数十人規模から大企業まで幅広い状況です。
――どのような点が導入の決め手になっているのでしょうか。
われわれは昔からUIとUXの部分に力を入れており、デザインを含めた使いやすさが選ばれる理由の一つになっています。それと、SaaSを連携するスピードが他社以上に速いことも強みになっています。例えば、クライアントからリクエストがあれば、即座に対応し、早い場合だと1週間くらいで対応を終えるようなスピード感でやっています。それと、われわれがベンチマークにしている企業が米国のベンチャー企業で何社かありますが、日本のニッチなSaaSについては、連携が遅れたり、対応できなかったりする場合がありますので、こうした部分ではわれわれのほうが有利だと思っています。
――少し前に連携SaaS数が100を突破したとの発表がありました。連携数の目標と、今後の開発の方向性についてお話しいただけますか。
今は年末に向けて200を目指しています。新しいSaaSはどんどん増えていて、いたちごっこのような状態になっていますが、現時点では1000への対応を目指しています。開発の方向性としては、年末から年明けにかけて、シャドーITの管理機能をリリースすることを計画しています。他社とは違う独自のやり方を採用しているので、従業員が勝手に導入しているSaaSについて、無料プランも含めて検知できることが特徴になります。あとはSaaSの管理機能のみの販売を今月から始めました。これについては、ニーズがあるSaaS管理をいったん使ってもらい、どこかのタイミングでIDaaSの機能についても使ってもらうことを戦略として考えています。
――今年6月に開始したメタップスクラウドのパートナープログラムの進ちょく状況を教えてください。
今、SIerやDX支援を展開するベンチャー企業など、2ケタくらいのパートナーがいます。今のところ、われわれとしてはプロダクトのクオリティを上げていくところにフォーカスしたいので、パートナーが売りやすい状態にした上で、パートナーの数を増やしていくことを計画しています。現状は直販がほとんどですが、エンタープライズ向けの導入が増えていかないと収益が大きく拡大しないので、どこかのタイミングでパートナー経由の比率を高めていきたいと思っています。
――SaaS管理は注目されていて、他社から競合製品も出ています。市場の動きについてはどのように分析されていますか。
日本でもSaaS管理のプレイヤーが出ていることを考えると、ニーズはあると言えると思います。とはいえ、まだ市場はない状態だと思っているので、市場をつくっていくということを考えると、いくつかプレイヤーがいることはウェルカムです。各社の製品を見ると、われわれのようにIDaaSとSaaS管理の両方ができるプレイヤーはいないので、完全な競合はない状況です。
――まだ市場はないとのことですが、メタップスクラウド事業の見通しについてはどのように考えていますか。
日本はクラウド化が遅れていると言われていますが、市場のポテンシャルは非常に大きいとみています。日本の企業が導入しているSaaSは平均10個で、米国は平均100個となっています。米国は15年のタイミングでは10個だったので、5年で10倍になっています。日本もそれと同じくらいのスピード感でSaaSを利用する状況になると予想しているので、メタップスクラウドは5年後を見据えたプロダクトと位置づけています。ただ、プロダクトとしては、まだ私の中の構想の10%くらいしか実現できていません。メタップスクラウドは、管理部門の自動化やDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援することをビジョンとしています。今はSaaS管理が中心になっていますが、将来的にバックオフィス業務のマニュアル作業を減らしてロータッチで管理できるようにして、SaaSの管理も、PCなどの端末の管理も、ワンダッシュボードでできるようなことを実現したいと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
山崎社長の行動原理を形成した原点は、新卒で入社した外資系の投資銀行での仕事だ。顧客へのプレゼン資料を作成し、完成版を当時の上司に見せたが、反応は「普通だね」と渋かった。指示を受けて何度も作り直したが、あっと驚くような内容が出ない。そこで上司にこんなことを言われた。「セレンディピティを探せ」
セレンディピティとは「偶然の大発見をする幸運」との意。山崎社長は「言葉で決めたゴールよりも、突然の出会いや案件によって、別のもっといい方向にたどり着くことがある」と解釈し、「とりあえず動きまわると新しい何かが見つかるし、動かないと何も起こらない」との姿勢を大切にする。
世の中を変えられるのは政治とテクノロジーと信じるほど、IT業界には可能性を感じている。メタップスクラウドについても偶然の出会いを探していく考えで、「SaaS管理で始めたものの、最終的に行き着く先は何になるかわからないというふうにしたい」と話す。
プロフィール
山崎祐一郎
(やまざき ゆういちろう)
1981年、東京生まれ。2006年、カリフォルニア大学バークレー校卒。同年ドイツ証券に入社し、テクノロジー業界におけるM&Aおよび資金調達業務を行う。09年、京都にてテクノロジー企業を創業し、代表取締役に就任。11年、京都大学経営管理大学院修了。同年、メタップスに取締役CFOとして参画。16年から取締役副社長を務め、18年11月から現職。
会社紹介
【メタップス】 2007年9月に設立。「テクノロジーでお金と経済のあり方を変える」をミッションとし、「世界を解き放つ」とのビジョンを掲げる。決済サービスを軸とする「ファイナンス事業」と、データを活用した支援サービスを展開する「マーケティング事業」、SaaS一元管理ツール「メタップスクラウド」などを提供する「DX支援事業」をグループの中核事業とし、社会のDX化とフィンテックの発展を推進している。21年6月末の従業員数は260人。
(取材・文/齋藤秀平 写真/大星直輝)
自社の「てんやわんや」が起点
――2018年11月の社長就任から丸3年となりました。これまでのビジネスの状況を振り返っていただけますか。社長に就任したころは、会社としては転換期でした。20くらいの事業をやっていましたが、方向性を絞って事業をやっていこうということで、それまでのBtoCの事業は全部売却・撤退、海外事業も縮小し、BtoBの領域にフォーカスすることを決めました。当時はマーケティング事業がメインで、お客様のほとんどはゲーム会社でした。いわゆるソーシャルゲームバブルのころに一気に伸びてきた事業でしたが、各ゲーム会社が広告予算を含めて投資を絞り出したという変化があったので、われわれとしても国内の決済事業に寄せていこうという方針を立てていました。そういった時に新型コロナウイルスの感染が拡大し、先行きが不透明な状況になったので、コア事業であるファイナンスとマーケティングについては国内に絞り、中長期で投資ができるメタップスクラウドを新しいサービスとして立ち上げ、事業の方向性をこの3本に絞るという方針を明確にしました。
――メタップスクラウドは中長期で投資できる事業ということですが、リリースの理由や背景をもう少し詳しく教えてください。
われわれ自身が相当な数のSaaSを使っていたことが起点になっています。メタップスグループでは、おそらく200近くのSaaSを使っている状況で、IT部門のメンバーがてんやわんやな状態となっていました。特にコロナ禍では、リモートワークが多くなり、「あれに入れない」とか「このPCからログインできない」といった問い合わせがたくさんありました。そういう状況を見て、これはニーズがありそうだと考えました。ただ、われわれだけの問題かもしれませんでしたので、大手企業を含めて30社ぐらいの情報システム部門の方々に協力してもらい、インタビューをしてからプロジェクトをスタートさせました。
――主力とするファイナンスやマーケティングとは少し方向性が違う製品ですが、これまでの知見はどのように生かしているのでしょうか。
以前、われわれはアプリの分析・解析ツールを出していました。これは、複数タイトルのゲームアプリを出しているゲーム会社が、それぞれのアプリの中身の分析結果を横軸で比較できるようなツールです。メタップスクラウドは、一つのプラットフォーム上でまとめてSaaSを管理できるプロダクトと位置づけているので、概念としてはアプリの分析・解析ツールと近いところがあります。
――開発の面ではいかがでしょうか。
われわれが把握している限りでは、国内で1000以上のSaaSがあり、グローバルでは国内分を除いて3000超あるとみています。メタップスクラウドと連携するのに必要なAPIはSaaSごとに細かく分かれているので、開発は相当地道な作業になります。ただ、中長期でそれをやることによって、差別化が図れると思っています。アプリの分析・解析ツールでは、アプリとの連携は土管工事のように一つずつ対応していました。そういったことから、われわれはシステム連携を非常に得意としており、開発の面では当時の経験を生かすことができています。もう一つは、グーグルに売却したモバイル金融サービス「pring(プリン)」のノウハウもあります。プリンは、日本全国の地銀やメガバンクの銀行APIを接続することによって、リアルタイムの入出金ができるサービスです。銀行の口座接続を含めた外部システムとの連携は非常に重要で、メタップスクラウドの開発に似ている部分があります。
実は開発メンバーは、元々はマーケティング事業の開発を担当していました。そこに退職者にも集まってもらってチームを結成しました。エンジニアはプロダクトを見てキャリアチェンジをすることが多いので、エンジニアから見ても、メタップスクラウドは面白いプロダクトになっていると思っています。
- メタップスクラウドの導入企業の状況、導入の決め手は?
- 今後の開発の方向性 新たにシャドーITの管理機能をリリースへ
- SaaS管理市場の動き、メタップスクラウド事業の見通しについて
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