アバナードのビジネスが好調だ。FY(会計年度)2022(21年9月~22年8月)は、新型コロナ禍におけるデジタル変革の需要拡大を追い風に過去最高益を記録するなど、大きく飛躍。このタイミングで代表取締役のバトンを受けた鈴木淳一氏は、社内のダイバーシティを高めるとともに、すでに強みとしている技術力に業界特化の知見を組み合わせ、さらなる高みを目指す考えだ。
(取材・文/藤岡 堯 写真/大星直輝)
──代表取締役に就任されて約4カ月が過ぎました。
この数カ月、私が何を考え、何をしようとしているか、という点をお客様や内部のメンバーに伝えることに多くの時間を割いてきました。同時に、お客様や社員がアバナードという会社に何を求めているのかということも集めました。私はずっとクラウドビジネスの責任者を務めてきましたが、ERPやワークプレース系のソリューションの現場の意見も聞き、何をどのように進めていけばいいか、しっかり理解したいと考えています。
その結果として、新たなお客様や同業他社の皆さんと、新しい協業の仕組みのようなお話も出ています。特に同業の皆さんと話すと、やはり「日本のDXをもっと加速させなきゃいけないよね」という部分で思いが一致します。どこのベンダーが勝つとか負けるとかではなく、われわれが本当に一丸となって、日本のビジネスをもっと加速させていく必要があると感じているところです。
──FY2022は過去最高益を記録したとのことですが、要因はどのように考えていますか。
新型コロナ禍で一気に進んだクラウドへのトランスフォーメーション、リモートワークに対応する基幹システム・業務システム(の整備)、そしてセキュリティの文脈も含めたワークプレースの刷新が要因になっています。従来の日本企業にとって比較的取り組みが遅れていた領域であり、急ピッチで進めなければならないこともあって、需要は急激に伸びています。
加えて、企業変革の観点で言いますと、これからは社員一人一人が、DXを他人事ではなく自分で取り組まなければなりません。ローコード、ノーコードでアプリケーションを作り、自分の生産性を上げていく。これには意識改革が当然必要であり「IT部門がやってくれるよね」ではなく、自分でDXを実現する必要があります。われわれはお客様と一緒にセンターオブエクセレンスをつくり、社内の啓発を進めており、この部分での声掛けが非常に多く寄せられたことも好業績につながりました。
FY23は22年9月に始まりましたが、クラウド、メインフレーム(のモダナイズ)、ERPの三つに関しては、全く人手が足りていない状況が続いています。少なくとも国内では採用活動を進めていますが、案件のほうがはるかに多い状況です。
女性のIT人口を増やす
──人手でいうと、「アカデミープログラム」(異業種・異職種からの人材獲得を目的に、入社後から2カ月間の特別トレーニングをセットとした採用プログラム)を開始していますね。
9月にスタートし、すでにFY23の募集定員に達しました。プログラムは基本的にはマイクロソフト系ではない技術者、またはテクノロジー未経験者を対象としています。これまでの採用はパイの奪い合いでしたが、プログラムはエンジニア人口を拡大していく取り組みです。DXの加速にはエンジニアは絶対に必要な存在です。その裾野を広げていく一助になっているのではないでしょうか。
──未経験から2カ月で成長させるというのは大変なように感じます。
まず、ITに興味がある人に応募していただいているので、教育を受けることに対してものすごく意欲的です。受動的ではなく、自ら学ぶ姿勢があります。また、未経験の人に何をどう伝えればいいかというのは、新卒向けのトレーニングと一緒です。これから実際にトレーニングが終わり、現場に出ることで、私たちも振り返るところがあると思います。毎年アップデートしながら、プログラムをよりよいものにしていきたいです。
プログラムを通じて、特に女性のIT人口をもっと増やせないかと考えています。理系男性が比較的多いとは思いますが、そこにダイバーシティを入れていかなければ変化は生まれません。短期的なアプローチではなく、5年、10年という時間の中で、どのような成果を挙げられるかという取り組みになるでしょう。
ダイバーシティは必ずしも性別の話だけではありませんが、女性比率が非常に低いと、男性ばかりのプロジェクトが多くなってきます。女性の視点が入れば、新たな発想が生まれていただろうプロジェクトが少なからずあったはずです。もちろん、これは女性だけではなく、日本国籍以外の人についても同じです。いろいろな視点、さまざまな発想を有した人が一つのプロジェクトを遂行できることがアバナードの強みの一つであり、そこをもっと伸ばしていかなければなりません。
「専門家」の知見を共有
──就任時の会見では、成長戦略として、産業ごとのニーズに応える組織体制の拡充や顧客のビジネス全体をカバーするクロスソリューションの提供などを掲げていました。競合も同様の取り組みを進める中で、どう差別化していきますか。
昔から、われわれの強みとしてお伝えしているのは「マイクロソフト専業のベンダーとして世界最大である」ことです。世界全体では7万人の専門家が存在しています。国内にもマイクロソフトのビジネスを手掛けているベンダーはありますが、規模の観点でいえば、われわれが圧倒的に知識も経験も有しています。各国ごとに(組織が)閉じているわけではなく、各地域が何をしているのかという部分までリアルタイムに共有しています。私たちが知らないこと、できないことがあるとすれば、それはおそらく他のベンダーでも実現は難しいはずです。
例えば、国内の製造業向けにソリューションを提供するとして、日本だけでつくるのではなく、グローバルのメンバーを巻き込み、その知見を生かして提供することができます。DXは多能工の人材、要するに、スーパーマンが一人いればなんとかなるものではなく、専門家が集まり、それぞれの知見を持ち寄って一つのソリューションをつくっていくことが必須となっています。そう考えれば、各地の専門家が集まり、国内のお客様に対して「何ができるのか」と議論できる環境は世界でも少ないのではないでしょうか。
ただ、これまでは汎用性の高いソリューションが中心であり、金融や製造、小売りといった業界に特化したものではありませんでした。われわれはテクノロジーの会社と言ってきたので、いわゆる業界の専門家はまだまだ少なく、これからも採用や育成に努めていかなければなりません。「技術」と「業界特化」の組み合わせによってわれわれはさらに強くなっていくでしょう。
グローバルで働く人材を育てる
──社内向けに取り組みたいことはありますか。
社員が最優先という精神は世界全体で言っています。一番大事にすべきなのは社員だということは変わりません。一方で、日本法人でいうと、これまで国内で成長する人が多い傾向にありました。つまり、グローバルな会社でありながら、国外の拠点で働く機会が比較的少なかったのでしょう。日本は居心地がよく、コンフォートゾーンからの脱却は難しい面もありますが、やはりグローバルに出ていき、海外のカルチャーを学び、日本に持ち帰って生かしてもらってこそのグローバルカンパニーです。
そこで、22年9月から、グローバルでのローテーションプログラムを開始しました。これが非常に反響が大きく、数十人の単位で応募が寄せられています。優秀な人ほど、海外に行ってしまう面もあり、短期的には人材の喪失になってしまいますが、長い目で見れば、日本に帰ってきたときにもたらす影響は非常に大きいはずです。どのような効果があるか、また、どのような問題が起きるかはやってみなければわかりませんが、力強く推進していきたいです。アバナードの差別化要因として、市場で生き残るために必要な取り組みだと思いますし、これに魅力を感じてもらい、いい人材が集まることも少し期待しています。
現在、社員は900人を超え、1000人も達成できるぐらいになっています。優秀な人材が集まる魅力的な会社でありたいです。2000人、3000人にするといった定量的な目標はありませんが、優秀な人が集まるのであれば、さらに組織を大きくし、結果的にお客様の価値につながればと考えています。お客様のニーズがある限り、ビジネスを拡大したいですね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
アバナードといえば「マイクロソフト専業」という点に目が向きがちだが、「『Amazon Web Services』を手掛けるときもあるし、『Google Cloud Platform』を勉強しているメンバーも社内にいる」という。
「多くのお客様がマルチクラウドになっている以上、『Azureしかできません』と言っていても受け入れられない」。顧客に最適な環境を提供するために、幅広いソリューションへの理解を深めることにためらいはない。
ダイバーシティがなぜ大切なのかをたずねたところ、「新しいものを提供し続けるために、われわれは積極的に変化する必要がある」と返ってきた。変化なくして成長は望めない。これはテクノロジーについても同じことだろう。
社名は「avenue」と「promenade」を合わせた造語だ。どちらも「道」を意味する言葉である。常に変化し、新しい存在であり続けることは、道なき道を進むようなものかもしれない。同社が築く道は、日本企業のビジネスをどのような場所に導いてくれるだろうか。
プロフィール
鈴木淳一
(すずき じゅんいち)
1978年生まれ、長岡技術科学大学卒。国内系SIを経て2008年にアバナードに入社。日本での四つのソリューションエリア(アプリケーション&インフラストラクチャ、モダンワークプレース、ビジネスアプリケーション、データ&AI)を統括し、ビジネス戦略とデリバリーを主導。通信・ハイテク業界、パブリックセクターを中心とする複数の業界で、ITプランニングやエンタープライズアーキテクチャデザイン、プロジェクトマネジメントを手掛けてきた。22年9月1日付で現職。
会社紹介
【アバナード】Accenture(アクセンチュア)と米Microsoft(マイクロソフト)のジョイントベンチャーである米Avanade(アバナード)の日本法人。米アバナードは2000年4月に設立、日本法人は05年7月設立。両者の技術・ノウハウを融合させ、マイクロソフト・プラットフォームに特化したテクノロジーコンサルティングとデリバリーを手掛ける。