オプテージは、大阪市に5カ所目となる新しいデータセンター(DC)を開設する。既存のDCやオンプレミス型サーバーと主要なクラウドサービスをつなぐハイブリッドクラウドの拠点とし、西日本地区のビジネスインフラの強化などにつなげる方針。一方、法人向けITビジネスに加え、光固定回線やMVNOなどの個人向け通信サービスを手がけており、それらのノウハウを融合させた特色的なビジネスも成長の原動力にしたい考えだ。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
新しいDCは「従来とは役割が異なる」
──2026年1月に新しいDCとなる「オプテージ曽根崎データセンター」の運用を大阪市内で始める予定となっています。まずその狙いからお話していただけますか。
新しいDCは、主要クラウドベンダーやインターネット主要回線への接続点が集中している大阪・堂島エリアや心斎橋エリアから3キロメートル以内の立地となっており、典型的な都市型です。現在稼働している既存のDCは四つありますが、どちらかといえばサーバーを預かったり、貸し出したりするホスティング/ハウジングのサービスが中心でした。新しいDCは主要クラウドやSaaSへの接続性を重視しており、従来とは役割が異なります。
ユーザー企業は、重要なデータを運用するサーバーはオンプレミス方式で手元に置きつつも、便利なクラウドやSaaSも活用したいという需要が大きい。新しいDCは接続性を重視する設計にしていることから、オンプレミスとクラウド/SaaSを一体的に運用したいとするユーザー企業の需要を満たせると自負しています。
──大阪のDCは、首都圏のバックアップとして活用されるケースが多い印象です。
確かに事業継続計画(BCP)の一環で大阪DCを使うケースは多いですが、新しいDCでは、クラウドやインターネットへの接続点としての役割をより大きくしたことも狙いの一つです。通信の交換拠点となる巨大なハブ機構は、国内に何箇所も必要となるわけではありませんので、その一翼を大阪地区で担っていきたい。西日本全体の通信需要を呼び込み、クラウドやインターネットへの接続の集積地として機能させることで、西日本地区のビジネスインフラの強化と、東京に一極集中するリスクの分散の両方の役割を担っていきたいと考えています。
──関西電力グループのオプテージは、通信サービスを主体としたケイ・オプティコムと、SIerの関電システムソリューションズ(現関電システムズ)の外販事業などを2019年に統合して発足していますが、足元のビジネス規模はどのくらいですか。
当社は関電グループの情報通信事業セグメントに属しており、23年3月期の同セグメントのグループ外に向けた売上高は前年度比7.3%増の2260億円の見込みです。同セグメントに属するグループ会社は数社ありますが、外販を主力としているのは当社のみですので、大部分を当社の売り上げが占めていると受け取っていただいて構いません。
当社の売上高の内訳は、固定光回線サービスの「eo光(イオヒカリ)」、MVNOの携帯電話サービスの「mineo(マイネオ)」といった個人向けのサービスが半分余り、企業向けITビジネスが半分弱を占めるイメージです。コロナ禍の約3年を振り返ると、リモートワークへの対応をはじめとする緊急避難的な対策に後押しされるかたちで、回線サービスや業務デジタル化の需要が大きく伸びました。
ホームセキュリティやIoTに注力
──法人向けITビジネスでのオプテージの強みや注力領域はどのあたりですか。
SIerとしてDCや通信ネットワークなどITインフラからコンサルティング、業務アプリ、IoT、アウトソーシングまで幅広く手がけています。この中でも、関電グループという社会インフラを担う企業グループの一員として、ITインフラ回りが当社の大きな強み一つとなっています。
通信ネットワークや情報セキュリティ、DCを活用したオンプレミスとクラウドのハイブリッドサービス、これらITインフラを運用監視するサービスをコア事業として、この事業に隣接する領域を成長領域だと捉えています。先述の新しいDCへの投資も、ITインフラやハイブリッドクラウドの事業を増強し、成長領域をより大きく伸ばしていくためのものです。
──この4月1日にホームセキュリティサービスの旧関電セキュリティ・オブ・ソサイエティ(旧関電SOS)を吸収合併しましたが、その狙いは何ですか。
当社は固定光回線やMVNOといった個人向けサービスと、法人向けITビジネスの両方を手がけており、B2CとB2Bの両方で培ったノウハウをうまく融合できるのがホームセキュリティ分野だと見ています。旧関電SOSは関西地区を中心に5万件を超える警備実績があり、例えば、住居に設置したセンサーで異常を検知して、警備員が駆けつけるといったサービスを提供しています。当然、通信ネットワークを使うため当社の既存事業との親和性は高いです。
これとは別にIoTを使ったスマートホームなどを手がける東京のリンクジャパンと22年に資本業務提携しており、ハウスメーカーやマンションディベロッパーに向けてスマートホームによる付加価値の提案に力を入れています。B2BとB2Cを組み合わせたB2B2Cのビジネスモデルを手がけている当社の強みが生かせる領域です。先のホームセキュリティについても、スマートホームと相性がいいビジネスであり、B2B2C領域のビジネスに一段と弾みをつけられると期待しています。
──B2C領域のビジネスについてもお話していただけますか。
関西地区を中心に提供しているeo光は、コロナ禍のリモートワークの普及もあって手堅く伸び、直近では171万ユーザーに達しています。近年では映像配信サービスの定着で毎秒5ギガビット、同10ギガビットの高速サービスも好調です。
全国でサービスを展開しているmineoは、例えば月間のデータ容量1ギガバイトから20ギガバイトまで小刻みに区切って最適なプランを選べるようにしたり、月末に余剰になったデータ容量を蓄えておいて、足らなくなった月に引き出して使うといったオプションサービスを提供したりと、ユニークなメニューが特徴です。直近のユーザー数は123万人で、競争が激しい中でも昨年の同時期より3万人も増やしています。
3度目の赴任でトップに就任
──名部社長ご自身についても教えてください。情報通信のビジネスにはいつ頃から携わっていたのですか。
実はオプテージで仕事をするのは、前身のケイ・オプティコム時代から数えて3度目です。04年に通信サービス事業の技術部門に赴任し、11年に経営戦略グループのマネージャーとなり、21年6月にオプテージの社長を拝命しました。関電本体にいたときもオプテージのことは知っていましたし、要所でオプテージのビジネスに直接的に関わってきたこともあり、思い入れは非常に深いです。
──関電に勤めていたときも情報通信分野を担当されていたのですか。
電力会社といえば発電や送電をイメージしがちですが、大地震や大型台風などの災害が起きて、一般の電話が使えなくなっても電力網を維持できるよう、電力会社独自の通信ネットワークを構築しています。私は長らくその通信ネットワークを担当していました。
また、関電の「国内留学」の社内制度を利用して、大阪大学大学院で博士課程に進学させてもらったのですが、その研究室がまさにインターネットの最先端をいく研究をしていました。2000年代初めは大型のネットビジネスが次々と誕生していたときで、ここで学んだことが、のちの関電やオプテージの仕事に大いに役立ちました。従って私のキャリアは情報通信ネットワーク、とりわけインターネットとともに形成してきたといえるのかもしれません。
──業績面についても触れていただけますか。
売り上げについては先述した通りですが、利益面についてはB2BとB2Cの双方の領域で稼ぐ力が高まったことで、23年3月期は過去最高の経常利益400億円超を達成する見込みです。今後も強みを生かしてビジネスを伸ばしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
名部社長は、既存の収益を支える「コア領域」と「成長領域」「探索領域」の三つに事業領域を分ける。
コア領域のビジネスの柱の一つにITインフラを位置づけ、成長領域はその隣接する領域を念頭に置く。長年にわたって通信サービスを手がけてきた実績と、社会インフラを支える関電グループのDNAを掛け合わせた強みが生かせるとみている。
さらに、業務アプリ層を得意とするSIerやIoT関連ベンダーだけでなく、異業種の企業との連携も積極的に進めていくことで、成長領域のビジネスの伸長に弾みをつける。
探索領域は、今は飛び地のような存在であっても「将来の成長の可能性を見いだせる領域」と位置づける。コアと成長、探索の三つの領域にバランスよく経営資源を配分することで、持続的に成長できる体制を構築する。
プロフィール
名部正彦
(なべ まさひこ)
1965年、兵庫県生まれ。90年、神戸大学大学院システム工学修了。同年、関西電力入社。99年、大阪大学大学院基礎工学研究科で博士号(工学)を取得。2011年、ケイ・オプティコム(現オプテージ)経営本部経営戦略グループマネージャー。14年、関西電力経営改革・IT本部IT企画部長。20年、執行役員IT戦略室長。21年6月25日、オプテージ代表取締役社長に就任。
会社紹介
【オプテージ】1988年に関西通信設備サービスとして設立し、2000年にケイ・オプティコムに社名変更。通信サービスを主力としたケイ・オプティコムとSIerの関電システムソリューションズ(現関電システムズ)の外販事業などを統合し、19年4月にオプテージに社名変更。法人向けITビジネスに加えて、関西地区を対象とした固定光回線サービスや、全国区のMVNOの携帯電話サービスを手がける。従業員数約2800人