日本電子計算(JIP)は、自社パッケージソフトなどの知財を駆使したアズ・ア・サービス化を推進していく。金融や証券、自治体などの多様な業種向けのパッケージソフトやSIコアを自社開発する中、「業界横断的なアズ・ア・サービスの領域への進出によってビジネスの幅を広げていく」(茅原英徳社長)方針だ。業際ビジネスの推進に当たってはNTTデータグループとの連携をより深めつつ、2030年度をめどに足元の連結売上高に100億円を上乗せした年商500億円への成長を視野に入れる。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
夢のある人は、よく目標を立てる
――今年6月19日の社長就任から4カ月が過ぎました。これまでにどのような経営指針を打ち出してきましたか。
「夢のある人は、よく目標を立てる」といいますので、まずは区切りのよい「2030年にありたい姿」を役員や社員と再確認しました。当社はSIerであるものの、自社開発のパッケージソフトやSIコア化を積極的に進めており、自社のソフトウェア知財をベースとした売り上げがITソリューション事業全体の7割を占めています。
例えば、証券業向け総合システム「OmegaFS(オメガエフエス)シリーズ」や自治体向け総合行政システム「WizLIFE(ウィズライフ)」、大学入試・教務システム「CampusLink」など多岐にわたり、これらのパッケージやSIコアのアズ・ア・サービス化を推進していきます。システム同士をオンラインで連携させることで、利便性の高い連携といった新しい需要や市場創出をしていきます。
――業際的なビジネスを増やすという意味でしょうか。
当社は金融や証券、自治体などの幅広い業種向けにITサービスを提供しているのが強みです。それぞれの業種向けのパッケージソフトやSIコアを開発しており、前述のOmegaFSシリーズは全国53社のユーザー、WizLIFEは95団体、CampusLinkは42大学と多くのユーザーを抱えています。強みの業種を深掘りしてビジネスを伸ばしてきましたが、アズ・ア・サービスやマイクロサービスの設計思想を積極的に取り入れることで、業界横断的なビジネス領域へ進出していきます。
特定業種から業際的な領域へとビジネスの幅が広げられるアズ・ア・サービス商材やITソリューションの拡大、さらには社会課題を解決するビジネス領域へと進んでいくのが狙いです。1962年の創業から60年余り、業種に強いSIerとして約600社のユーザーを持つに至り、中には数十年にわたって取引させていただいている企業もあり、ユーザーが抱える課題に長年にわたって真摯に向き合ってきた自負があります。一方でこうした姿勢によって、業際的なビジネスを伸ばす機会を見過ごしてきた可能性もあります。30年を見据え、当社独自のサービスによって業種の垣根を越えた常に新しいことに挑戦する土壌を育んでいきます。
私が社長に就任してからは役員合宿や社員向けのメッセージで、「できない理由を、できる理由に変えていく大切さ」を説いてきました。新しい技術の登場によって、昨日まで不可能だったことが可能になる時代です。柔軟な発想で独創性あるビジネスを創出することが成長のかぎになります。
グループ連携の加速に期待高める
――前任社長のインタビューでお聞きしていた21年3月期の連結売上高は336億円でしたが、直近の業績はいかがですか。
自治体向けの大型案件や、コロナ禍期間中の制約がほぼ解消されたことを受けて中堅製造業のIT投資が増え、昨年度(23年3月期)の連結売上高は401億円と大きく伸びました。製造業向けでは当社が開発している中堅プロセス製造業向け統合管理パッケージ「JIPROS(ジプロス)」の販売が好調に推移しました。昨年度は自治体と産業、文教の三つの事業セグメントで売り上げの半分余りを占めるまでに拡大しました。
――NTTデータグループとの連携について教えてください。
当社がNTTデータグループに入ったのは12年と比較的新しいこともあり、グループ連携はまだ道半ばです。個人的には、NTTデータ九州の社長を務めていた14年頃、CampusLinkや、全国40大学に採用していただいている当社のインターネット出願システム「SakSak出願」などと連携できるのではないかと感じました。NTTデータ九州では大学向け教育プラットフォーム「LiveCampusU」や、大学図書館向け情報システム「NALIS」を開発しており、こうした同一業種向けアプリでの連携は比較的容易だと考えたからです。
当社は、売り上げの大半をNTTデータグループ外向けの自主独立のビジネスが占めていますが、NTTデータグループ内でのアプリやサービスの連携を進めることで、新しいビジネスチャンスが生まれるとみています。
――NTTデータグループの再編で国内事業に専従する事業会社NTTデータが7月1日付で発足しましたが、JIPのビジネスに影響はありそうですか。
親会社の施策をどうこうと言いにくい部分はありますが、NTTデータ本体が大手ユーザーを主軸とし、当社が中堅・中小ユーザーをメインとする大きな枠組みに変化はないとみています。国内事業に特化した事業会社が立ち上がったことで、例えばIoTや組み込みソフトに強いNTTデータMSEや、NTTデータと日本総合研究所の折半出資のJSOLなど特色ある数多くのグループ企業との連携により弾みがつくことに期待したいですね。JIPグループにビジネスが閉じる必要は全くなく、冒頭のアズ・ア・サービス化の促進によってアプリやサービスの横の連携を進めていきます。
二つ以上の専門スキルを身につける
――茅原社長のこれまでのキャリアについて教えていただけますか。
私は健康医療の分野で22年ほど技術開発に従事してきました。NTTデータに入社した90年代は、病院や診療所に不可欠なレセプト(診療報酬明細書)がまだ圧倒的に紙でやりとりされていた時代でした。00年代に入ると電子化が進み、電子化率が3割ほどに高まってからは一気に100%電子化へと切り替わったのが印象的でした。
おそらくマイナンバーの利用シーンや、企業でいまだに多く残っている紙の請求書のデジタル化なども利用率や電子化率が3割を超えると、あっという間に普及するでしょう。社会の仕組みが変わるときのスピードは、想像以上に速い。「これまでこうだったから、これからも変わらない」という考え方は通用せず、自身のスキル転換も含めて柔軟に変わっていくことが大切です。
――IT業界では周期的に基礎となる技術が大きく変化し、個人や組織が勝ち残るためのスキル転換が求められますね。
スキル転換は言うは易しで、とても大変です。健康医療の技術畑を長年歩んできた私も全く畑違いの人事部長を12年に仰せつかり、悶え苦しんだことを今でもよく覚えています。その後は、NTTデータ九州の経営を任され、さらにNTTデータの公共・社会基盤分野を担当するなど何度かスキル転換を経験しました。
私の場合は途中から技術を離れましたが、同じ技術分野でもオープン系への移行からクラウドの登場、これからはAIの分野へと必要とされる技術はどんどん変わっていますので、世の中の変化に適応して新しいスキルを習得できる人こそ優れた人材ではないでしょうか。専門分野を絞った“I(アイ)型”よりも二つ以上の専門スキルを持った“π(パイ)型”にすることで、個人のキャリアだけでなく会社の人的資本も、より成長する可能性が高くなります。
――業績目標について教えてください。
「2030年にありたい姿」として年商500億円をイメージしています。大きな数字ではあるものの不可能ではありませんし、この水準を超えればSIerのなかで準大手の仲間入りを果たすことができます。持ち前の業種の強みを生かしつつ、業際的なビジネスなど新分野を伸ばすことで実現していきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
インタビュー冒頭に茅原社長が言及した「夢のある人は目標を立てる」には続きがあり、「目標を立てる人はシナリオを書いて行動する。行動する人は夢に近づく」という。日々の仕事に追われるなかで夢を見つけ、追いかけるのは意外に難しいかもしれないが、「夢がなければ行動計画を立てて実践することもできず、成長もできない」と話す。
JIPは独自の業種パッケージやSIコアをベースとしたITソリューション事業を展開するSIerで、自社の知財をテコにユーザーの業務に深く入り込んでいる。これまで獲得してきた多様なユーザーの課題を聞き込むのに加え、業界の垣根を越えてビジネス領域を伸ばし、将来的には「社会全体の課題解決にも挑戦していきたい」と夢を語る。同時に30年の“ありたい姿”に到達するシナリオを描き、実際に行動に移していくことで夢を夢で終わらせないビジネスを創り出していく。
プロフィール
茅原英徳
(ちはら ひでのり)
1965年、長野県生まれ。90年、東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年、NTTデータ通信(現NTTデータ)入社。2008年、ヘルスケアシステム事業本部医療ITビジネスユニット長。12年、人事部長兼ダイバーシティ推進室長。14年、NTTデータ九州代表取締役社長。16年、NTTデータ公共・社会基盤事業推進部長。17年、執行役員第二公共事業本部長。20年、常務執行役員第二公共事業本部長。23年6月19日、日本電子計算(JIP)代表取締役社長に就任。
会社紹介
COMPANY DATA
【日本電子計算(JIP)】1962年設立。2012年にNTTデータグループに入り、中堅・中小規模ユーザーを担当。金融や証券、自治体などに強みを持ち、ビジネスプロセス・アウトソーシング(BPO)も手掛ける。昨年度(2023年3月期)連結売上高は401億円、連結従業員数は約2000人。