日鉄ソリューションズの業績が堅調だ。2024年3月期の業績予想では、連結売上収益で前期比4.6%増の3050億円を見込み、国内の旺盛な需要を着実に取り込んでいる。23年4月に就任した玉置和彦社長は「市場の成長率を超えた成長が目標」と述べ、より高みを目指す方針を示す。リード役となる日本製鉄グループ向けや金融向けのビジネスに加え、ITインフラ領域でも技術力を発揮し、存在感を示したい考えだ。
(取材・文/大向琴音 写真/大星直輝)
魅力的な会社であり続けたい
――23年4月の社長就任から、1年を迎えようとしています。長らく日鉄ソリューションズのビジネスに携わっていますが、社長になったことで気持ちの変化はありましたか。
今おっしゃった通り、私はずっと日鉄ソリューションズの事業に関わってきました。ある意味、自分のサラリーマン人生そのものなんです。以前から「この会社に貢献したい」「いい会社にしたい」との思いで仕事に取り組んできましたが、社長という立場になった今、いい会社を目指すのは当たり前のことです。そこからもう一歩進んで、いい会社とは具体的にどんな会社なのか、自分が実現したい会社のゴールがどこにあるのかを考えるようになりました。
いい会社がどのようなものかについてはさまざまな見方があります。具体的に私が考えるいい会社とは、成長力があり、外側から見て魅力のある会社です。魅力を皆さんに伝えられるような中身のある会社といえます。それから、働いている社員がみんな生き生きと元気でいることも重要です。
――その三つの観点から見ると、「いい会社」はどの程度実現できていると感じますか。
就任して1年も経っていないので、まだまだこれからというところです。ただ、今お話ししたようなことは、実はこの会社がすでに持っている要素でもあります。それゆえに、いかにそこに火をつけられるか、エネルギーを注入できるかが大切です。社長に就任してからは、「自分たちがどこで差別化していくのか、なにが強みなのかを見つめ直していこう」とずっと訴えかけてきたつもりですし、手応えも感じています。
――ここ数年の国内市場はIT需要が堅調に推移し、事業は好調のようにみえます。
市場全体はとても堅調です。これは短期的な話ではなく、継続的な成長が続くでしょう。その中で、当社は確かに成長していますが、同業他社と比較して当社だけが伸びているかといえば、そうではありません。市場の成長に合わせた着実な成長はできてはいるものの、もっとできるだろうと感じています。現在動いている25年までの中期事業方針でも、市場の成長率を上回る成長を目標に、重点分野を定めて取り組んでいます。生成AIなどの大きな技術革新の波によって、これから業界は大きく変化していくでしょう。このような潮流の中で、マーケットの中でいいポジションを取り、魅力ある会社であり続けるために、もう一段エンジンをふかしていきたいです。
日本製鉄向けと金融の領域がリード役
――日本製鉄向けの領域が大きく成長しています。
日本製鉄グループの需要は極めて旺盛です。新型コロナ禍によって国内全体でデジタル化が進み、経営改革や業務改革をしようとの意識を皆さんが持つようになりました。今まで取り組めていなかった企業に課題が残ってしまっているのは事実ですが、「不退転の覚悟でやっていくんだ」と、(デジタル化に)強い意欲を持って取り組みはじめている企業は多いです。日本製鉄グループもそのような企業の代表でしょう。製造業には設備があるので、設備への投資を優先しがちでした。しかし現在は徐々にITのほうにも目が向くようになり、経営における重要な課題の一つとして位置付けるようになっています。
金融の領域も非常に調子がいいですね。今後、われわれの強みをアセット化してお客様に展開しようとしているのですが、金融の部隊がこの部分を先導してくれている結果が表れつつあると分析しています。
日本製鉄グループ向けと金融の二つがリード役になっている一方で、ITインフラの領域も伸びています。米Oracle(オラクル)がマーケットで存在感を強めている点が大きいです。当社は元々(オラクルとの)連携が深いことから、いい影響が出ています。また、官公庁向けのインフラ関連事業も好調です。インフラの事業は技術で勝負する領域であり、当社の技術力を発揮できるフィールドだと捉えています。
――社内向けには、業務改善やリスキリングに取り組んでいると聞きました。これらの施策にはどんな狙いがありますか。
「紺屋の白袴」と言えますが、お客様にさまざまなDXの提案をしている中で優先順位がお客様のほうに傾き、自社に関する対応が遅れてしまった面があります。社内システムを個別最適でつくってしまっている部分もあり、「一貫最適」をしっかりつくり込んでいかなければなりません。会社の規模も大きくなっていますから、この機会に自社のIT基幹システムにしっかり投資する必要があります。とはいえ、既存の業務の仕組みがあるので、どのように変えていくのかも含めて、23年1月に発足した「トランスフォーメーション推進センター」を中心に議論を進めています。今後は優先度の高いところからどんどん施策を実現したいです。
リスキリングに関しては、われわれはITを生業にしているSEの集団なので、スキルのベースがある人たちが、新しい技術をより短い時間で身につけるというやり方で進めます。例えば、DX案件を取りにいこうとしている各事業部門から人員を募集し、一定期間、学習や実践を通じてスキルを身につけてもらいます。リスキリングした後は所属先に戻ってもらうわけですが、その人を中心に新しいチームが構築され、共に仕事する仲間も一緒に育ちます。これを繰り返していくことで、深い知見や高い技術を持った強い集団が会社のあちこちにできることを想定しています。
「部品」を組み合わせて顧客に提案する
――社内体制の強化を図る中、会社としての展望を教えてください。玉置社長の就任前から、顧客のDXパートナーとして「NSSOL4.0」モデルを目指す方針を掲げています。進捗はいかがでしょうか。
NSSOL4.0の実現はだいぶ先のことになると思っていたら、意外と早く訪れたという印象です。ビジネスのスピードは速くなりましたし、DX案件などでお客様との接点領域もかなり増えています。
現在、新しいアーキテクチャーができていくと言われています。これは「部品化」が進んでいくということだと捉えています。つまり、特定のお客様だけが扱えるシステムを一からつくるというより、ある程度できあがった標準部品を用意しておいて、お客様ごとに部品を組み合わせて提案することになるでしょう。
実際にお客様からも、世の中の変化に対応しやすいよう、必要に応じてつくり変えることができる柔軟な仕組みにしていきたいとの声を聞いています。もちろん、コアとなる競争領域については個別につくりこむ部分もありますが、それ以外の領域に関してはできるだけ標準化することになるでしょう。そうなったときには、個別の機能単体をパッケージとして提供するだけでなく、パッケージ間を全部つないで、業務機能を実現させるためのプラットフォームとして提供できるようになるといいですよね。
――従来のSIerとは異なる姿に変化していく中で、これまでのSI事業で築いてきたパートナーとしての役割は変わるのでしょうか。
われわれSIerは、世の中にある最適な技術を組み合わせて、インテグレートして提供するのがミッションです。今まではお客様ごとにプログラムをつくるなど、たくさんのカスタマイズの仕事がありましたが、部品化が進むことや生成AIなどの登場によって、インテグレートする際のカスタマイズのボリュームが減ってくる可能性は確かにあると思います。一方で、さまざまなものが部品化しても、技術を組み合わせて提供するとの意味では、本質的にはあまり変わらないと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
玉置社長は、常に謙虚に人の話を聞くよう心がけているという。先日、大学時代の友人から「社長にはさまざまな仕事があるが、その中でも社長にしかできない仕事に集中したほうがいい」とアドバイスを受けた。日々の仕事に臨む中で、周囲から「社長に意見を聞きたい」との要望は絶えない。友人の言葉は、物事にある程度優先順位をつけて、やるべきことにこそ時間をかけて大事に取り組むよう意識しなければならないと気づくきっかけになった。
「私にしかできないことは多分ないが、社長の椅子に座っているからこそできることがある」
最近は生成AIをはじめとした最新技術が台頭し、市場の動きが極めて速い。これまで会社が成長する姿を社内から見てきたが、今は会社の先頭に立つ。激しい変化に合わせて社長としてなすべきことを選び、さらなる成長を目指していく。
プロフィール
玉置和彦
(たまおき かずひこ)
1985年、新日本製鐵(現日本製鉄)に入社。2001年に新日鉄ソリューションズ(当時)に出向し、03年に新日本製鐵を退職。15年4月に新日鉄住金ソリューションズ(同)の執行役員、18年6月に取締役執行役員。19年4月に日鉄ソリューションズ取締役上席執行役員、21年4月に取締役常務執行役員。23年4月から現職。
会社紹介
【日鉄ソリューションズ】日本製鉄グループのSIer。2021~25年の中期事業方針では「デジタル製造業」「プラットフォーマー支援」「デジタルワークプレースソリューション」「ITアウトソーシング」の4領域に注力し、これらの領域における売上高成長率を10%以上、連結売上高成長率を5~6%と設定している。23年3月期の連結売上収益は前期比7.9%増の2916億8800万円。