独立系SIer大手として知られるインテックは2024年1月、創業60周年を迎えた。誰もが、いつでも、どこでもコンピューティングの恩恵を受けられる「コンピュータ・ユーティリティ社会」の実現を掲げ、新技術を通じて社会に価値を提供し続けている。4月に就任した疋田秀三社長は、さらなるイノベーションへの挑戦を通じてビジネスの発展を目指す。歴史の中で積み上げてきたコアな部分を「進化」させるとともに、社内外での「融合」を通じて事業領域を拡大し、新たな未来を描く気概だ。
(取材・文/藤岡 堯 写真/大星直輝)
イノベーションに挑み続けた60年
──就任間もない時期ですが、現在の心境をお聞かせください。
1月に当社は創業60周年を迎えました。社長就任のタイミングに加え、私がちょうど還暦となることもあり、これも何かの縁と考え、あらためて会社の歴史やこれまでのチャレンジを振り返ってみました。その中で、本当にたくさんのお客様に支えていただいて、ここまでやってこられたと実感しました。それと同時に、先輩の皆さんが今でいう「イノベーション」に挑み続けてきたことも感じています。環境変化のスピードが非常に激しい現代において、これまで以上にイノベーションを起こすための挑戦を進め、社業発展に努めなければならないという思いでいっぱいです。
創業の時点で「コンピュータ・ユーティリティ社会の実現」というビジョンを掲げていました。現在は「社会課題の解決」「社会貢献」というキーワードがよく出てきますが、60年前に掲げたことはそれと同じです。将来を見越して考えていたことはとてもすごいと感じています。今はスマートフォンなどで誰でも情報を得られるようになりました。社会が大きく変化した中で、コンピュータ・ユーティリティ社会を実現するために、私たちがどうあるべきかを考えるターニングポイントになっているのではないでしょうか。
──ビジネスの現状は24年3月期の単体決算で過去最高の売上高となるなど、好調のようです。
過去最高の売上高ということは、市場において私たちのビジネスがしっかり成長していることだと捉えています。ただ、成長の過程には課題も付き物であり、それは改善・改良しなければなりません。しかし、改善にこだわりすぎると、チャレンジが小さくなる面もあります。未来に向けたチャレンジがどうあるべきかという点も社員一人一人に伝え、それぞれが考える土壌をつくりあげたいです。
課題としては、まず就労人口減少への対応があります。AIをはじめとしたテクノロジーの進化はありますが、主役は人であり、仕事が全て置き換わることはありません。そこで社員のレベルアップ、バリューアップが必要でしょう。また60年にわたる成長の過程で蓄積したノウハウがありますが、会社として大きくなったがゆえに、そのノウハウを社内横断的に融合する部分が不足しているのではないかと考えています。業務の特性に応じたノウハウには磨きをかけていますが、横断的な発想、アイデアをもっと生み出せるのではないでしょうか。その観点から、われわれの積み上げてきたことのさらなる進化と融合をしっかりしていこうということを社員に伝えています。
顧客との共創に手応え
──4月から新しい中期経営計画が始まっています。前期計画の振り返りとともに、新計画の要点をお聞きします。
前期の3カ年については、事業構造の転換に関する施策に力を入れてきました。収益力、生産性、稼働率などあらゆる角度からKPIマネジメントを徹底し、全社共通で取り組んできました。この部分では一定の成果を感じており、それが売上高などにつながったのでしょう。また、当社ならではの独自のソリューション、サービスを数多く立ち上げることができました。それぞれ伸長はしていますが、さらなる価値やプレゼンスの向上といった点ではもっとできる余地があり、新しい計画に向けたテーマだと考えています。
そのためには、技術力の強化、最新テクノロジーの導入など、さまざまな角度から取り組んでいかなければいけませんが、一つ一つの案件を個別に進めていくというよりも、いろいろな業界に展開しているのが当社の強みでもあるので、共通プラットフォームのようなかたちで広げていくことも重要です。市場、お客様から求められる事項が複雑・多様化しており、ずっと同じサービスでいいはずがなく、どう高度化するかが求められています。
これに加え、新しい領域にも進んでいかなければなりません。テクノロジー&マーケティング本部が、ほかの本部らと伴走するかたちで新規創造のチャレンジに取り組んでおり、お客様との共創プログラムにも力を入れてきました。まだ大きな事業化はできていませんが、芽がいくつも出始めている手応えはあります。これを次の3カ年で確実なものにしていくことが目標の一つになります。
──既存事業と新規領域の両輪による成長が不可欠とのことですね。実現への具体的な戦略を教えてください。
事業のほぼ9割を占める現状のコアビジネスを高度化するためには、やはり生成AIをはじめとする最新のテクノロジーをどう取り入れ、生産性を高める動きを早期に実現できるかが重要です。SIのプロセスは要件定義からカットオーバー、保守と長きにわたりますが、これが全てAIに置き換わることはありません。どのプロセスに最新テクノロジーを入れると、生産性が上がり、お客様にも提供できるような技術を生み出せるかという点を追い求めたいです。
それに向け、4月に「技術戦略本部」を設置しました。お客様の具体的なプロジェクトと伴走しながら、新たなテクノロジーの検証や成功モデルづくりに注力し、それを横展開する方法を探っています。
新規領域に関しては、広げていくことももちろん重要なのですが、新規領域で得たものをコア業務に取り入れ、進化させるという循環をつくりたいです。また、融合の部分については、それぞれの持ち場で方針として取り組むのはもちろんですが、それだけでは視野が限られてしまいます。業界を超えたプログラム、例えば産学官共同のコミュニティーで情報交換からビジネスを起こすといった事業などから、手法やノウハウを自然に身に付け、お客様に提案するといった方法があるでしょう。私たちが単独でできることには限りがあるので、パートナーやベンダー、お客様と一緒になった取り組みを積極的に進める必要性を感じています。
存在意義を問い続ける
──社内マネジメントの面で注力したいことはありますか。
技術力のアップももちろんですが、それを支える人、社員一人一人がもっと魅力的になるために、“人間力”を高めてほしいです。そのために最初に私が宣言したのは「社員との対話を増やす」ことでした。人間力を高める取り組みはこれまでも実施してきましたが、「それをさらに」ということであれば、トップ自らがメッセージとして発信しなければなりません。教育制度、人事プログラムなども重要ですが、一人一人が視座を上げ、一つ上の取り組みに挑戦する土壌をつくることが大切です。新しい発想や企画を、社員が自発的にどんどんと手を上げられる風土にしたい。トップとして「もっとやっていいんだよ」と呼びかけています。
──改めて今後の抱負を伺います。
今、社員に強く伝えたいのは、今日的なコンピュータ・ユーテリティ社会を実現するために、私たちの存在意義は何かということです。社員の成長や最新テクノロジーの導入はもちろんですが、創業から掲げてきたこのビジョンを次にどう生かすかを考えることで、会社全体の成長につながるはずです。
ITは常に新しいものが生まれ、可能性は無限大にあります。これを探求し続ければ、感動が生まれます。これを社員だけでなく、お客様、取引先、関係者と一緒に感じる。そういう会社にしたい。これを実現するのは社員全員だと訴えたいです。
また、この富山の地で自治体や民間のお客様とずっといろいろなことを取り組んでいます。富山県はスマートシティーに力を入れており、話を聞きたいという他地域の行政のお客様もいます。地域に根付くDXをどう生み出すか。富山で得た知見を参考にしながら、新たな発想を入れる。そのためには、各地域に入り込んでいる企業などと一緒にアイデアを出すことが望ましいでしょう。
例えば、先日、富山県で「エリアデータ利活用サービス」の運用を開始しました。センサーデータやオープンデータなどを集約・可視化・共有し、国や県、自治体の境界を意識せずシームレスに利用できる仕組みで、災害情報の発信などに活用できます。このアイデアをそれぞれの地域がどう使うか。連携のあり方は数多くあるでしょう。こういった連携の広げ方を、私たちの得意技として育てていきたいです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
疋田社長の考える「インテックらしさ」を尋ねてみると「いろいろな失敗、苦難を乗り越えてやってきたDNA」と返ってきた。地域の中堅企業や自治体の共同計算センターとして、いち早くコンピューティングの可能性を社会にもたらすために、さまざまな挑戦を積み重ねてきた。言い換えれば、失敗を恐れない心こそが、インテックの強みなのかもしれない。
ただ、会社の規模が大きくなるにつれ、社会や顧客からの要請、環境や規則の変化もあり、ひたすらに挑戦を続けていくのは難しくなった面もある。その中で「社員の思いもちょっとずつ変わってきている」と感じている。挑戦心を失ったわけではないが、ほかに取り組まなければならないことが増え、ややもすると動きにくさがあるようだ。
時代や社会に適応するかたちで、いかにアップデートできるか。自身の課題として感じている。「それが『インテックらしさ』にたどり着く方法になるのではないか。若い世代にどう伝え、(会社の姿を)どうつくってもらえるか。今が転換点にある。インテックの良さを忘れず、もっと伸ばしていこう」。その先に新しい歴史が生まれるだろう。
プロフィール
疋田秀三
(ひきだ しゅうぞう)
1964年生まれ。88年に同志社大学工学部化学工学科卒業後、インテックに入社。2012年4月にネットワーク&アウトソーシング事業本部クラウドインテグレーション部長、18年4月に執行役員。常務執行役員、専務執行役員を経て、23年4月、取締役副社長執行役員。24年4月から現職。TIS取締役も兼ねる。
会社紹介
【インテック】1964年に富山計算センターとして設立。TISインテックグループの中核事業会社の1社。2024年3月期の単体売上高は前期比8.0%増の1222億3400万円で過去最高となった。同年3月1日時点の従業員数は3791人。