LINE WORKSは、これまで提供してきたチャット/グループウェアから製品の幅を拡大し、外部ソリューションとの連携やAIソリューションの拡充でサービスの価値向上に取り組んでいる。6月に社長に就任した島岡岳史氏は「フロントラインワーカーの基盤になる」との考え方を示し、パートナーエコシステムの拡大でビジネス成長を目指している。
(取材・文/大畑直悠 写真/大星直輝)
大企業でも導入が広がる
――6月に社長に就任されました。率直なお気持ちを教えてください。
これまで長くIT業界にいますが、より多くの人々にダイレクトに価値を届けられる機会に恵まれ、わくわくした気持ちです。LINE WORKSは46万社以上500万人を超えるユーザーに利用される製品です。当社には世の中を変革しようという気概を持った多くのメンバーがおり、この環境に身を置けることが楽しいです。
社内にはさまざまな高度な技術が眠っており、今後はこれらを活用して新しいことにチャレンジする企業文化を醸成したいです。当社は韓国と日本の文化がミックスした会社です。アジア発のテクノロジーを日本なりにインテグレートして顧客に貢献できる会社にします。
――ビジネスの近況を教えてください。
LINE WORKSはコミュニケーションツール「LINE」と同じUIで使えることが強みです。テクノロジーを現場の最前線に届けることで、業務を効率化したり、コミュニケーションを活発化して仕事を楽しくしたりすることを目指しています。さまざまな業界・業種で利用されていますが、例えば金融・保険業界では外回りの方などに多く利用されています。また、店舗などで顧客が利用するLINEと連携してアプローチする営業にも使われています。従来は中小企業に強いというイメージを持たれてきましたが、大企業での導入も広がっており、バックオフィスの社員が使うビジネスチャットとは別に、アルバイトを含めた、より現場に近い従業員はLINE WORKSを使うというケースが増えています。
災害の発生時に利用されるケースも広がっており、最近では南海トラフ地震の発生に備えた準備を進めています。復興の際には全国からボランティアの方が多く集まってきますが、彼らがコミュニケーションを取る時にプライベートで使うLINEを使うわけにはいきません。これと同じ使い勝手のLINE WORKSであれば、研修を必要とせず、すぐに活用できるという点で優位性があるでしょう。
――先日、有償でAPIを提供し、CRMと連携してBtoC営業を効率化するSeles tech事業の本格展開を発表されました。今後は同様に、API連携を活用したビジネスの拡大も目指していくのでしょうか。
API連携を通じたビジネスは現在、好調な領域です。LINE WORKSは使い勝手の良さからコミュニケーションツールの中心に据えられるケースが多く、営業の領域では既存の社内システムと連携し、LINEを通して1対1のマーケティングを強化したいという要望が昔からありました。これまで外部との連携には個別に対応していましたが、利用ユーザーが拡大し、ニーズが高まっている領域では、より汎用的な仕組みを用意して対応しようと考えました。この取り組みは、営業以外でも、さまざまな領域に拡大するつもりです。
外部ソリューションとの連携とともに、LINE WORKS上で動くミニアプリを開発する「WOFF(WORKS Front-end Framework)」という機能もあります。プラットフォーマーと言うとおこがましいですが、こうした機能を活用してもらいながら、フロントラインで活躍する従業員のあらゆる業務をLINE WORKS上で完結可能にすることを目指しています。
マルチプロダクトで第2章に
――2023年4月にLINE(現LINEヤフー)のAI事業「LINE CLOVA」を統合されました。
これまで、LINE WORKSと言えばグループチャット、グループウェアのイメージだったかと思います。ただ、23年にAI事業を統合したことで、マルチプロダクトの提供へとかじを切っており、当社の第2章が始まったと考えています。AIによる電話の自動対応などは既に製品化しており、直近では音声認識を活用し、テキストと音声の双方でやり取りできるトランシーバー機能や文字起こし機能のほか、チャット形式で社内情報を検索できる生成AIアシスタント機能などの提供を予定しています。今後もAIに関する製品は拡充する方針です。
AIに関しては国際学会でも採択される高い技術力を有しています。大規模言語モデルや検索拡張生成といった言葉を聞くと、どうしても難しい印象を持たれてしまいますが、これを現場の方にもできるだけ分かりやすく届けるのが当社の使命だと思っています。
――生成AIなどの最新技術は便利さが認知されてきた一方で、十分に使いこなせるかどうかが課題になっているという指摘もあります。
現場の方に生成AIなどの新しい技術を有効に使ってもらうには、顧客と会話し、ニーズを正しく把握した製品開発が重要です。これまで私はグローバルのIT企業で勤務していましたが、その時と同じように全世界的に発信するような価値を提供してもうまくいかないと考えています。現場で働く方々の業界・業種ごとのニーズに対応する必要があり、例えば、建設業の方が利用しやすいAI議事録などを展開しようとしています。
――年次イベントで、ロボットを活用したビジネスの展開にも力を入れる方針を打ち出されました。どのようなユースケースを見込んでいますか。
意外に思われるかもしれませんが、当社は数十台以上のロボットを制御する技術やロボットを動かすためのデジタルマップを簡単につくる技術を持っており、これを日本市場で展開するためのユースケースを探しているところです。既にさまざまな業界でニーズを聞いていますが、例えば高齢者向けのマンションで階段やエレベーターをロボットが移動し、宅配物などを届けるというようなものです。介護の領域や倉庫での業務の省人化など、ロボットの可能性は大きいと考えています。最先端というイメージが先行して導入されるケースもあるかと思いますが、当社がせっかく技術を持っているわけですから、社会で実際に役立つようなユースケースを探っていきたいです。
グループウェアの会社がなぜロボットなのかと思われるかもしれませんが、現場での業務効率化を支援するという意味では、当社のビジョンを達成するための一部をなすパートになり得るもので、これも当社の第2章として取り組んでいきます。
業界・業種に特化する
――AIに関するパートナー戦略について教えてください。
当社にはさまざまなパートナーがおり、LINE WORKSを扱うセールスパートナーに加え、連携するシステムを持つパートナー、APIを用いてシステム間をインテグレーションするパートナーと協業してきました。AIの領域についても、同様のパートナーを開拓しながらビジネスをスケールしたいです。
――LINE WORKSの販売パートナーの開拓にはどのように取り組みますか。
これまではキャリア系のパートナーを中心に、スマートフォンの普及とともに当社のソリューションの提供を拡大させてきました。ただ、中小企業はまだまだビジネスチャットを使っていない企業がほとんどです。普及にはきめ細かい営業が必要だと考えており、そのために販売パートナーとの協業は積極的に拡大します。特に地方への拡販のために、地域のパートナーの開拓に力を入れたいと考えており、今の2~5倍くらいの数にしたいです。
さまざまな商材を持つパートナーに、ビジネスチャットの販売に労力を割いてもらうには、より具体的な提案のストーリーを立てやすくすることが重要になると考えています。これには業界・業種ごとのオファリングをもっと拡充させていく必要があります。
眼光紙背 ~取材を終えて~
島岡社長は自社について、アジア発のテクノロジーを提供する企業として、日本だけではなくグローバルにも貢献できるポテンシャルがあるとみている。このためには「先端技術は難しいという考えを取り払い、誰でも仕事や生活の一部として使えるぐらい身近なもの」にする必要があると考える。
LINE WORKSの魅力は現場で使われるツールであることと説明し「テクノロジーは使ってもらわないと意味がない」と語る。現場で使われるツールは、社会変革を実感しやすい半面、単に導入を促進するだけではなく、実業務に即して誰でも使えるようにする工夫に力を注ぐ必要がある。このためのニーズの分析や製品開発に心血を注ぐことが会社と自身の使命であると感じている。
プロフィール
島岡岳史
(しまおか たけし)
1995年に日本IBMに入社。理事として西日本事業部長や関西支店長を歴任。2021年にアマゾン・ウェブ・サービス・ジャパンに入社し、西日本事業本部長に就任。24年5月にLINE WORKSに入社し、6月から現職。
会社紹介
【LINE WORKS】2015年6月に韓国WORKS MOBILE(ワークスモバイル)の日本法人であるワークスモバイル・ジャパンとして創業。グループウェアやAIソリューションなどを展開する。23年5月に親会社が韓国NEVER CLOUD(ネイバークラウド)に組織統合されたことを受け、24年1月に社名をLINE WORKSに変更した。