生成AIへの注目が高まり、多くの企業が投資を加速している。そうした中、生成AIの開発などに特化して計算資源を提供する事業で存在感を高めているのがハイレゾだ。石川県、香川県にGPU専用データセンター(DC)を開設。クラウド基盤の提供によってAI開発を支援している。志倉喜幸社長は「日本をアジアの計算資源の中心にしたい。日本各地にDCを置くことは地方創生にもつながる」として、全国でDCの展開を目指す。国内の生成AIビジネスの成長を見据えた、同社の戦略を聞いた。
(取材・文/堀 茜 撮影/大星直輝)
ブーム以前にGPU事業を開始
――志倉社長のキャリアを教えてください。
学生起業でキャリアをスタートしました。学生メンバーで集まり、プログラミングの受注などをしていました。スマートフォン向けのアプリケーションやソーシャルゲームの開発と事業内容が変わる中で、ゲーム開発がグラフィック系に寄っていって、そこでGPUを使い始めたのが現在の事業につながっています。そこから、プログラム受注や広告事業などを手掛けつつ、GPU事業が育つのをずっと待っていたというようなかたちです。
GPU事業にはかなり昔から着目していました。GPUを利用できる範囲は広がってきていますが、利用用途は3~4年サイクルで変わってきています。AIの前はブロックチェーン、さらにその前はゲーム用のグラフィック開発という流れでした。
多くのGPUサーバーを取り扱うようになると、社内のデータなどを管理する通常のサーバーとは全く違う、ということが分かってきました。消費電力や放熱量は桁違いですし、開発で計算する時に使うので、夜間は止まっていても問題ない点などです。GPU専用DCの事業に乗り出そうと考えた当時は、日本ではまだ誰も取り組んでいませんでした。
――生成AIブームを見通していたのでしょうか。
見通せていたかと言われると、何とも言えないです。米国や中国で画像認識が高いレベルで進んでいたのを見て、日本でもAIよりも画像認識でGPUの需要が高まるのではないかとは思っていました。ただ、いくら優れたテクノロジーでも、本当に盛り上がるかどうかは、国や環境などいろいろな要素に左右されます。「ChatGPT」が登場し、生成AIが注目されなかったら、当社は潰れていたかもしれません。会社の規模が小さいから、生き残れたのだろうと感じています。大企業にとっては、ゲーム開発もブロックチェーンもブームになった期間が短く、市場が小さすぎたと思いますが、当社は数年で終わったそれらのGPUのニーズを追いかけることができました。
低いコストで計算力を提供
――自社のGPUクラウドサービスの強みをどう考えますか。
一番の特徴はコストパフォーマンスの良さです。クラウドサービスは2階層に分かれ始めており、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)のようなハイパフォーマンスで高コストのサービスと、当社のようなGPUクラウドです。当社のサービスは、GPU以外の余計なものはついておらず、純粋にツールとして計算力を使っていただくものです。米NVIDIA(エヌビディア)は、「AIファクトリー」として機能を分けましょうという訴求をしていますが、当社もその考えに賛成です。計算力を日本で提供するためにどのかたちが一番効率が良く、安くて使いやすいのかという点を追求しています。電気や水道と同じように、インフラとして当たり前にあるものを目指しています。
当初、GPUをクラウドとして提供したいという話をエヌビディアにした際、クラウドでやるという概念がないと言われました。GPUをサービス事業者向けに使うというプログラムがなかった中、米国本社に掛け合っていただいて、何とか事業化することができました。当初は全く期待もされていなかったのですが、事業を進める中で「こういうやり方もあるよね」と思っていただけました。当社が日本でエヌビディアのエリートパートナー第1号に認定していただいたのも、そういう理由です。
――サービス価格は外資ハイパースケーラーより大幅に安いとのことですが、コストを抑えられる理由を教えてください。
生成AIなどの学習用に振り切っているサービスなので、通常のDCが備えているような設備や機能は、お客様のニーズがないだろうと判断しています。設備を削った分、コストを落としたほうが喜んでいただけるからです。学習でも推論でも、DCが停止しても問題ない部分は、当社サービスを使っていただくのが一番コストパフォーマンスが高くなりますので、用途によって使い分けることを推奨しています。
AWSの4分の1の価格なので安いですね、とよく言われるのですが、私からすると、今まで4倍の高い金額で計算力を買わされていたということなのです。われわれはこの価格でもしっかり利益が出ますので、決して無理をしているわけではありません。AWSは機能がたくさん付与されているので、用途に応じてそちらを使っていただく。使う側には選択肢があったほうがいいですし、安くて使いやすいインフラは、産業の発展のためには必要です。AIで出遅れていると言われる日本がこれから進む中で、どんどんと価格が高騰しているGPUサーバーに予算を全部使ってしまっては意味がないですし、計算力をインフラとして整備することは大事だと考えています。
今、日本は世界でトップクラスに計算力が安くなっています。ベンチマークにするのは海外の格安サービスなので、当社もそれに並ぶレベルにしていますし、国内の競合も出ており、数年前より大幅に価格競争が激しくなっています。一方で、アジアの計算センターはどこかと考えると、まだ存在していないのが現状です。これからどこに置くかと考える時、日本は優位性が高いです。いろいろな国で話を聞くと、1台1億円もするサーバーですから、環境面で安全性が高い日本に置きたいという声が多いですし、円安も追い風になっています。日本においてアジアの計算需要を広げることができる状況にあります。
現時点では国内の企業や研究者の方に当社サービスを使っていただきたいです。日本が生成AI分野の遅れを取り戻すことを目指しているからです。ただ、いずれはアジアで他国に向けて展開することを考えています。
DC建設で地方創生を
――石川県と香川県にDCを建設しています。地方に展開するのはなぜでしょうか。
まず土地の価格が安かったり、電力を確保しやすかったりといった経済的合理性があります。もう一つは、高松市に進出した際もそうだったのですが、地元のみなさんが喜んでくださる点です。これは石川県志賀町でも同様でした。地方創生で新たな産業を生むことに政府も力を入れていますが、DCの整備がそこにつながるのではないかと感じています。地域貢献をしっかりやることは一見遠回りに見えますが、結果的に当社がたどってきた道は、GPUのDC事業では最短でしたし、短期間でこの規模までこられたのは、地元の方に協力していただき、後押しをしていただけたことが大きかったです。
――今後の事業の展望をお願いします。
いろいろな地方自治体から、自分のところでもDCをつくりたいと言っていただいていて、問い合わせは大変増えています。
日本企業にとって生成AIの活用が成長のために必須だという方向に意識が変わり、計算力の需要が増えているのを肌で感じています。使いやすいインフラとしての計算力を届けるために、今後も全国各地でDCを展開していきます。どんどんDCを整備して日本から提供できる計算力が世界で一番安くなれば、日本企業のAI開発が進み、グローバルでの競争力が高まります。ハイレゾのクラウドサービスがあるから、AI分野が発展したと言われるようになりたいです。ただ、提供するサービスを使っていただける方が育っていかないと、当社の事業も先細りになってしまいます。スピード勝負の部分があり、AI開発の能力がある会社と連携し、マネタイズまで早めていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
2024年12月、高松市にハイレゾのデータセンター(DC)が開設した。現地で行われた開設記念式典を取材したが、地元政財界から多くの人が参列し、大歓迎ムードだった。
同社は、25年中に佐賀県玄海町と香川県綾川町でもGPU専用DCの開設を予定している。両DCは廃校を再利用する。志倉社長は、「工期と費用を抑えられるといった点に加えて、廃校をどう活用するかという社会課題の解決にもつながる」と意義を語る。経済産業省から補助を受けて地方にDCを展開する同社の事業は、最新テクノロジーである生成AIの開発支援と、新しい産業を生みたいと試行錯誤する地方の活性化という二つの側面があると感じた。どちらも日本が直面する喫緊の課題だ。GPUクラウド事業の伸びが二つの課題解決にどうつながっていくのか、注目したい。
プロフィール
志倉喜幸
(しくら よしゆき)
1982年生まれ、神奈川県出身。神奈川大学理学部卒業。大学在学中にスマートフォン向けアプリケーションやソーシャルゲーム開発の会社を起業。2007年、ハイレゾを創業。
会社紹介
【ハイレゾ】生成AIの開発などを目的としたGPU専用データセンター(DC)を建設し、GPUクラウドサービス「GPUSOROBAN」を提供。2019年、22年に石川県志賀町にDCを開設。24年4月、経済産業省クラウドプログラム供給確保計画に認定される。24年12月、高松市にDC開設。同市のDCは、米NVIDIA(エヌビディア)のGPU「H200」で計算資源を提供している。