仏Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)が、AIデータセンター(DC)などへの需要の増加に後押しされてビジネスを成長させている。日本法人の青柳亮子・代表取締役は「組織間の連携で顧客への提案を拡大する」と語り、電力制御やUPS(無停電電源装置)といった製品を、事業部門の垣根を越えて提供する体制の構築を進めている。
(取材・文/大畑直悠 撮影/大星直輝)
AIDCが事業をけん引
――ビジネスの近況を教えてください。
DC関連のビジネスなど、あらゆる領域で堅調に推移しています。要因としては、外資系のハイパースケーラーによる国内市場でのDC建設が加速したことで、当社製品にも機会が生まれています。加えて、昨今の生成AI需要の増加に伴い、AIDCへの引き合いも高まっています。
高性能なGPUサーバーを利用するAIDCは、従来のCPUを主体としたDCと比較して、電力消費量や発熱量が膨大です。こうしたAIDC特有のニーズを満たす上で、当社製品が強みを発揮していることがビジネスをけん引しています。
――具体的にはどのような強みがありますか。
AIDCでは特に、GPUチップに電力を供給するまでの一連のプロセスを指す「Grid to Chip」と、冷却システム(チラー)を活用するプロセスを表す「Chip to Chiller」が重要になり、当社はどちらのソリューションも持っている、世界で見てもまれな企業です。冷却システムに関しては、2024年に液冷技術を持つ米Motivair(モティベア)を買収してポートフォリオを強化し、プロセスの全てをカバーできるようになりました。
当社では顧客のDC構築に設計段階から関わり、全てわれわれの製品でそろえるのがいいのか、他社の製品も利用するのか、すでに顧客が利用している製品を活用したいのかといった、要望に応じて最適な選択肢を提供できるようにしています。国内市場ではAIDCの設計段階から顧客を支援する部隊の拡充を進めているところです。
米NVIDIA(エヌビディア)と連携したAIDCのリファレンスデザインの策定もしています。エヌビディアのチップと連携する当社のGrid to Chip、Chip to Chillerを担うソリューションを使えば、効率化されたAIDCを短期間で構築できる点も強みです。
UPSの新規市場を開拓
――市場では、サーバーの需要は横ばいの傾向にあります。コア事業の一つであるUPSのビジネスへの影響をどう考えていますか。
確かにサーバーの需要は横ばい傾向ですが、AIが台頭する中、サーバーやネットワーク機器にも新しい要件が要求されてくると考えていますので、それに伴いUPSの需要は今後も伸びるでしょう。また、パートナー各社と会話していても、クラウドとオンプレミスにはそれぞれ利点があり、ハイブリッドが志向されるケースは少なくないと感じます。長引く円安の影響でクラウドの利用料が上がっている事情もあるため、リスクとコストを鑑みて、バランス良く利用されていくでしょう。実際、当社が提供するIoT基盤「EcoStruxure Platform」では、アプリケーションレイヤーはクラウド、IoTをリアルタイムで制御するレイヤーはオンプレミスで運用され、ここにUPSが活用されることが多いです。
UPSに関しては、24年末に新しい営業の責任者が入社し、販売体制を強化しています。製品の面でも今後、新モデルを出していく予定になっています。日本が災害大国であることもあり底堅い需要がありますが、新しい市場の開拓も重要です。さまざまな機器を活用する製造業のDXなどにもUPSは必要になりますので、IT系だけではない顧客の獲得を進めます。
今後ますます工場のDXは増加し、ファクトリーオートメーションを進める需要は高まると見ています。少子高齢化や労働人口の減少が大きな課題となっており、これまで普通にできていたことができなくなるという危機感が高まっているからです。
当社も製造業の一社であり、世界経済フォーラムが定める、サステナビリティーやDXが進展している工場である「ライトハウス」に認定されているものが八つあります。これはグローバルでトップクラスの数値です。こうした実体験を元に顧客を支援できることは、専業のコンサルティング企業と比較しても引けを取らない当社の大きな特徴だと考えています。
――UPSを扱うセキュアパワー事業部と、ファクトリーオートメーションなどを手がけるシュナイダーエレクトリックホールディングスのインダストリアルオートメーション事業部には組織間の隔たりもあります。
製造業向けの部隊とUPSなどを扱う部隊が、バラバラに動いてしまっているのが現状ですが、連携するケースも増えています。組織間のサイロをなくし、一緒に動けるようにすることを目指しています。
DCに関しても、先日の展示会では、従来であればUPSだけを展示していたところを、今年は担当する部門を横断した製品を展示し、電力の制御や効率化などDC全体を最適化するためのソリューションを提供できることを強調しました。サステナビリティーへの意識の高まりなど顧客からの要望が複雑化していることを受け、一つの事業部だけで対応できない領域も出てきているので、そこに対しては部門間の連携が今後重要になります。
――パートナーとはどのように連携していきますか。
やはりAI関連の設備を構築したいというパートナーは多いので、ここに対してのサポートをしていきたいです。一方で、当社が注力したい事業に関しては、パートナーに対してUPSだけではなくソフトウェアなども含めたソリューションとしてのビジネスを展開してもらい、かつ取引のスピードを加速できるように支援していきます。
若い人材が変革を進める
――組織間の連携はどのように進めますか。
日本法人のトップに就任してから、当社のビジョンを「日本の未来に貢献するインパクトメーカー」と定めました。「インパクト(IMPACT)」には「インクルージョン(Inclusion)」「マスタリー(Mastery)」「パーパス(Purpose)」「アクション(Action)」「キュリオシティー(Curiosity)」「チームワーク(Teamwork) 」の頭文字を込めており、当社が今後、成長していくために重視する価値観となっています。中でも注力したいのが「チームワーク」です。繰り返しになりますが、ある事業部の顧客はその事業部だけの顧客とは限りません。
チームワークを推進する上で期待しているのは新人の活躍です。新卒採用の人材に対しては、2年間で三つの事業部を経験してもらいながら成長できるアグレッシブなプログラムを用意し、早めに昇進してもらえるようにしています。新人だからこそ、事業部間のしがらみを受けず組織間の連携を主導していけるでしょう。
――最後に今後の意気込みをお願いします。
日本法人の組織としての強みは多様な人材がいることです。次のイノベーションをつくるためには多様な視点があることが重要です。同じ価値観を持つ人で固めれば、一つの方向に向かう際の推進力は強くなるでしょうが、先が見えない世の中でインパクトを生み出すことは難しくなります。その点、日本法人にはさまざまな専門領域やルーツを持つ人材が集まっていることが強みです。
シュナイダーエレクトリックの外資企業としての大きな魅力は、ローカルに大きな権限を与えていることです。権限が与えられている分、当然責任も伴いますが、顧客の一番近いところで柔軟性を発揮しながら支援をしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
日本法人の組織マネジメントでは、チームワークとともに「キュリオシティー(好奇心)」の醸成を目下の注力領域に据える。「人は本当に興味を持ったことでなければ、頭に入ってこない」と考えるからだ。
市場ではAIといった技術が隆盛を迎えるなど変化が著しい。社内にはさまざまな学習の機会が整っているといい、新しい技術に対する好奇心を満たせる体制を整えている。従業員がさまざまな領域に興味を持ち、自身の可能性を広げられれば、「顧客やパートナーの課題解決はますます進むだろう」。好奇心をてることが自社の新しい成長機会を切り開くと信じている。
プロフィール
青柳亮子
(あおやぎ りょうこ)
1998年に慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、カルチュア・コンビニエンス・クラブに入社。その後、米General Electric Company(ゼネラル・エレクトリック・カンパニー)で、同社グループの国内におけるエネルギー関連事業の要職を歴任。2018年に仏Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)日本法人に入社。24年10月からシュナイダーエレクトリック日本法人およびシュナイダーエレクトリックホールディングスの代表取締役に就任し、国内市場における全ての事業を統括する。
会社紹介
【シュナイダーエレクトリック】仏Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)は1836年創業の電機メーカー。2024年のグローバルの売上高は380億ユーロ。エネルギー管理や受配電機器などを展開。07年には、UPSなどを手がける米APC(エーピーシー)を買収し、IT関連ビジネスを強化している。国内では1962年に事業を開始した。