米ネットオークションの大手、eBay(イーベイ)は、マイクロソフトの個人認証サービス「パスポート」の利用を正式に打ち切った。これで同サービスを通じてネット上の覇権を握るというマイクロソフトの戦略は消え去った。今後はオープンな取り組みが成功するのか、それとも新しい覇者が登場するのか。ネットビジネスの根幹問題だけに注目される。

 イーベイはこのほど、同社のオークション会員向けに対し、マイクロソフトの「パスポート」を利用してイーベイのオークションにサインオンできないようになると通達した。

 「パスポート」は、1組のIDとパスワードを1度入力すればウェブ上のあらゆるサイトでのサインオンが不要になるという個人認証の仕組みを目指したもの。

 イーベイの直近の業績が予想を下回るものであったことから、経費削減目的でサービスを打ち切ったものとみられている。

 就職情報大手の米モンスター・ドットコムも昨年10月に「パスポート」のサービスを打ち切っている。有力企業の「パスポート」離れが加速しているわけだ。

 マイクロソフト自体、「パスポート」の開発計画を一時中断し、自社および一部パートナー企業の「パスポート」サービスのサポートのみを続ける考えを明らかにしている。ネット上の個人認証のデファクトスタンダード(事実上の業界標準)を勝ち取る夢は、はかなくも消え去ったというわけだ。

 この原因はいくつかある。まず個人情報をマイクロソフトという1つの企業が集中管理するというスキームに対し、IT業界および多くの消費者が反発したということ。そして昨年見つかった脆弱性などの技術的問題や、欧州連合からサービス内容の変更を求められるなどの法的問題も、「パスポート」プロジェクトの行く手を阻んだ。

 個人認証を複数の企業で分担する仕組みを提案する企業連合「リバティアライアンス」が対抗馬として浮上してきたことも、「パスポート」の普及を妨げた原因となった。

 それではネット上の個人認証は今後どのようになるのだろうか。

 考えられる1つのシナリオはオープン化だ。権力が1社に集中するのではなく、業界全体が協力して技術革新を推進していくという予測だ。

 リバティアライアンスはまさにそうした動きで、サン・マイクロシステムズなどが中心になって2001年に設立した。これまでに150社以上が参加、日本からはNECやソニー、NTTドコモなどがメンバーになっている。

 最近ではインテルやIBMなどの有力企業の参加が続いている。IBMはこれまで、WS-Federation(フェデレーション)と呼ばれる別の標準化団体で同様のスキーム作りに向け積極的に活動してきたが、同社の顧客である欧州の移動体通信事業者オレンジの要請を受けて昨年10月にリバティアライアンスに参加した。IBMは今後、リバティアライアンスの有力メンバーになりWS-フェデレーションとの協業の可能性を模索し、最終的には個人情報スキームを1つに統合したい考えという。

 こうしたオープン化の問題点は、参加企業同士の利害が衝突して標準化に時間がかかったり、結局意味のある標準化が達成できないことがあるということ。また1社が独占的な力を持つことがない半面、参加企業でさえ大きく儲ける可能性が低いという問題もある。

 そこでオープン化の流れに逆らいネット時代の覇権取りを目指す企業が出てくる。米有力技術出版社の創業者で著名技術評論家のティム・オライリー氏は、「次の10年の本当の戦いは、インターネットOSをだれが構築できるか、ということだ」と指摘する。

 パソコンOSの役割が、搭載するソフトと周辺機器をスムーズにつなぎ合わせることであるように、インターネットOSの役割は、ネット上のデータベース同士の通訳。あらゆるドライバを搭載したパソコンOSが必要なように、あらゆるデータベースのAPIを搭載するインターネットOSが必要になるというわけだ。

 だれがインターネットOSを構築する可能性が高いか。最も有望視されているのはアマゾン、イーベイ、グーグル。電子商取引、オークション、検索などの単体サービスの枠を超え、これら3社はプラットフォーム企業への進化の道を進み始めているからだ。

 大きな流れとしてオープン化の傾向は確かにあるにしても、隙あらば覇権を目指すという企業はなくならないということなのだろうか。(湯川鶴章)