日立製作所は、統合システム運用管理「JP1」の4年ぶりのメジャーバージョンアップとなるバージョン13の販売を6月30日から始めた。同等の機能を実装したSaaS版「JP1 Cloud Service」は9月29日から売り出す。最新版では、オブザーバビリティ(可観測性)を担うモジュールを全面的に刷新し、JP1の強みとするジョブ管理や障害対応と一体的に使うことを可能にした。オブザーバビリティを主力とする専業ベンダーの存在感が増すなか、日立は既存のジョブ管理などとシームレスに使える点を前面に押し出すことで競争優位性を高める考え。
(安藤章司)
JP1はジョブ管理を軸にシステム運用や障害対応などさまざまな機能を実装しており、最新バージョンでは、オブザーバビリティの機能を全面的に刷新して「JP1/Integrated Management 3(IM3)」の名称で販売を始めた。オブザーバビリティはシステムの状態を観測、把握する機能で、実際にアプリを使っているユーザーや顧客がどのような使用感なのかを可視化するツールとして活用されている。
横山卓三 主任技師
従前であれば自社内のシステム管理だけでおおよそのシステム負荷を把握できたが、近年では第三者が運営するパブリッククラウドやさまざまな外部SaaSを多用するなど複雑化しており、エンドユーザーの使用感や顧客満足度を推し測ることが難しくなっている。今回、全面刷新したIM3ではアプリやサービスの使用感、ITリソースの負荷状況、何らかの問題や事象の発生状況と影響の把握について「多角的な視点から観測できるよう機能を抜本的に強化した」と、運用管理プロダクト&サービス部グループリーダーの横山卓三・主任技師は話す。
オブザーバビリティを巡っては、新興ベンダーが競い合う成長市場となっており、IM3の前バージョンのIM2のときから「ユーザーからの問い合わせや関心が非常に高い機能」(横山主任技師)だったという。IM3の投入によってより高性能で使いやすいオブザーバビリティの機能を提供するとともに、JP1の既存機能であるジョブ管理の「JP1/Automatic Job Management System(AJS)」や障害発生時の対応手順の管理、人的リソースの最適化を支援する運用統合「Operations Integration(Ops I)」などと一体的に使えるようにした。
津田真希氏
メインフレームをはじめとするレガシーシステムから最新のクラウドネイティブなサービスまでのジョブ管理や運用統合に幅広く対応するJP1の既存機能と一体的に運用。「アプリやサービスの使用感、顧客体験の可視化から、障害発生の兆候、実際に障害が発生したときの対応までオールインワンで使える強みを前面に押し出していく」(運用管理プロダクト&サービス部の津田真希氏)ことで、市場競争力を高め、販売数を伸ばしていく方針だ。
JP1の今後の開発ロードマップについては、データ起点の運用や、最新の生成AIの技術の応用を検討している。前者は従来の運用担当者の知識や経験に依存した運用ではなく、データに基づいた運用に移行させ、「運用に関する洞察を誰がいつどこでもリアルタイムで得られるようにする」(津田氏)。後者は「AIアシスタントに運用の一部を任せる手法を取り入れる」(同)ことで運用担当者の負担軽減を目指すとしている。