週刊BCNは、5月に福岡市で開催したセミナー「全国キャラバン2023 in 福岡『有力商材が切り拓く、新たなビジネスの世界』」のオンデマンド配信を、九州地方でITビジネスを展開する事業者に向けて開始した。セキュリティソリューションを提供するベンダー3社による注力商材と販売戦略の解説に加え、テクノロジーの最新トレンドをテーマにした基調講演や週刊BCN編集部によるセッションが視聴できる。
配信期間は8月24日まで。九州地方に在勤のSIerやパッケージソフト開発事業者(ISV)、IT関連製品販売・卸販売会社、サービスプロバイダーなどが対象。セミナーの概要は以下の通り。
「現実空間の拡張」で新たなビジネスが生まれる
基調講演には、事業構想大学院大学教授で、現実空間とメタバース技術を組み合わせたビジネスを展開するPsychic VR Labで取締役COOを務める渡邊信彦氏が登壇。「リアルメタバースがやってくる」をテーマに、メタバースの活用の方向性や、地域社会で新たな価値を生み出す可能性について展望した。
渡邊信彦
事業構想大学院大学教授
Psychic VR Lab取締役COO
3Dグラフィックスで構築されたオンラインの仮想空間コンテンツは、2003年に登場して大きな話題となり、その後、ブームが収束した「Second Life」のように、期待を集めながらも人気を維持できないものが少なくない。メタバースについても近く幻滅期を迎えるのではないかとする厳しい見方があるが、渡邊教授は「現在のメタバースはイベント会場のようなもの。イベントが行われていない日だけに注目すれば“過疎”のように見えることもあるが、現実のコンサートホールなどには収容できない大勢の参加者を集め、巨大な収益を得ているイベントもある」と話し、事業として成功を収めている例は数々あると紹介した。
渡邊教授は、メタバースは仮想空間上でコンテンツを消費・取引する形態から、今後は現実空間と仮想空間を組み合わせることによる新たな価値創造の場へと変わるとみる。「その変化が起きたときにビジネスは大きく変わる。これを知らないと、携帯電話が出たときに『こんな小さな画面で商取引はできない』と言っていたのと同じになってしまう」とし、現実空間が無限に拡張できるようになれば、新たな産業が生まれると強調。今年1月には新潟市が、同市のデータに即したAR/MRコンテンツの配信プラットフォーム構築でPsychic VR Labと協業した例があるとし、地方創生でもメタバースには大きな可能性があると説明した。
マイクロ仮想マシンで脅威を隔離
日本HPは、仮想化技術によってPC上のアプリケーションを分離するセキュリティソリューション「HP Sure Click Enterprise(SCE)」を紹介した。SCEは、メモリ内に単一のアプリケーションだけを隔離して実行するための「マイクロ仮想マシン」を作成する仕組みで、アプリケーションが終了する際には仮想マシンを削除することで、脅威動作が継続するのを防ぐことができる。一定の要件を満たせばHP製以外のPCにも導入可能だ。
日本HP
千葉直樹
サービススペシャリスト
SCEは、セキュアブラウザーを使用した安全なWeb閲覧や、インターネットからファイルを取り込むためのファイル無害化が可能で、総務省が定めた「地方自治体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に適応可能なため、同社は自治体向けの提案に力を入れている。パートナー営業統括の千葉直樹・サービススペシャリストは、過去に国からの補助金で構築したセキュリティの仕組みが更新時期を迎えても、「(予算の都合で)今まで通りの構成が組めない自治体が増えている」と指摘。従来、HP製品の取り扱いがなかった販売店もパートナーとして取り込み、高まる自治体需要に対応する考えを示した。
ウイルス対策ソフトとUTMは別の役割
ソニックウォール・ジャパンは、「中小企業向け『はじめてのセキュリティ対策』の提案の仕方」と題し、営業部の木口知英・アカウントセールスマネージャーが、中小企業や拠点が最低限取るべきセキュリティ対策とそれに適した商材を紹介した。同社は小型ファイアウォール・UTM(統合脅威管理)市場でシェアを拡大しているほか、SSL-VPN装置などでも実績を伸ばしている。木口アカウントセールスマネージャーは、情報処理推進機構(IPA)が毎年発表している「情報セキュリティ10大脅威」を紹介しつつ、ランサムウェアやサプライチェーン攻撃、内部不正などが脅威トレンドとなっているものの「一般企業がこれらの脅威に対して一つ一つ対策するのは難しい。ランサムウェアが登場したからといって、そのための対策製品を導入できる企業は少ない」と指摘する。
ソニックウォール・ジャパン
木口知英
アカウントセールスマネージャー
これらの課題に対し、同社はさまざまな脅威に対応し、1台の製品を導入することで多層防御を実現できるUTMを提案している。ただ、木口アカウントセールスマネージャーによると、中小企業からは「うちはPCにウイルス対策ソフトを入れているから大丈夫」という反応が寄せられることが少なくないという。木口アカウントセールスマネージャーは、「出入り口の対策」であるUTMと、1台のPCを保護するウイルス対策ソフトは別の役割を持つ製品であり、両方備えることで最低限対策すべき範囲をカバーできることを理解してもらうのが、成約に至る第一歩だと説明した。
成長が期待できるSaaSデータ保護製品
オープンテキストは「エンドポイント保護の新常識:WebrootとCarboniteによるクラウドベースのソリューション」と題し、AIを活用して端末を保護するセキュリティソフト「Webroot Endpoint Protection」と、クラウドを利用してデータをバックアップ/リストアできる「Carbonite Endpoint Protection」などを紹介。セキュリティ・データマネジメント事業本部ソリューションコンサルティング部の柿本伸吾・マネージャーは「1ユーザーあたり月額ワンコインで利用できる製品なので、販売パートナーが中小企業ユーザーに提案しやすい製品」とアピールした。
オープンテキスト
柿本伸吾
マネージャー
同社は今年4月、複数のSaaS上のデータを単一のコンソールでバックアップできる「Carbonite Cloud-to-Cloud Backup」の提供を国内で開始した。SaaS上のデータはサービス事業者によって保護されていると思われがちだが、操作ミスやランサムウェアによる暗号化など、ユーザーの過失によるデータ損失は補償されない。柿本マネージャーは「オンラインストレージのようなアーカイブツールとは別に、ユーザー企業にはバックアップの仕組みが必要」とし、SaaS向けデータ保護ソリューションの需要は今後、拡大が期待できるとの見通しを示した。同社のサービスは、パートナーが自社のブランドで提供することも可能になっているとし、パートナーは再販だけでなくマネージドサービスとして収益を得ることも可能とした。