週刊BCNは11月15日、大阪市内で関西地方のSIerやIT製品販売会社を対象にしたセミナー「週刊BCN 全国キャラバン2024 in 大阪」を開催した。IT運用管理、IT資産管理、ERP、業務プロセス管理、ネットワーク監視、セキュリティーの各製品を提供する6社が、自社の製品やサービスを紹介。また、かつて米Google(グーグル)日本法人の社長を務めた村上憲郎氏が基調講演に登壇し、新たなテクノロジーの登場による産業の変化を展望した。
大阪・梅田のセミナー会場に関西圏から
多くのSIerやIT製品販社が詰めかけた
AIで「超スマート社会」が実現し、人はクラウドにつながる
現在は自身の村上憲郎事務所の代表取締役を務める村上氏は、インターネット普及以降のテクノロジーの進化を振り返りながら、スマートグラスやスマートウォッチなど人体装着型のデバイスの普及に注目。村上氏は「ウェアラブルインターネットの時代に差しかかりつつある。VR技術はエンターテインメント向けに発展したが、ビジネスとして考えると、業務の現場に情報を重ね合わせることのできるAR(拡張現実)のほうがより重要だ」「生体情報をモニタリングするとなると、ウォッチ型の機器が果たす役割はさらに大きくなる」と指摘した。
村上憲郎事務所
村上憲郎
代表取締役
体内にデバイスを埋め込んだり、コンピューターと人間の神経回路を接続したりするシステムは過去にも提案されてきたが、村上氏は医療分野で研究されている脳接続型デバイスなどを紹介し、そのようなテクノロジーがコンセプト段階から実証段階へ進みつつあるとの見方を示す。IoTや生成AIで「超スマート社会」が実現した場合、「人類はいよいよ労働から解放される時代に入る」(村上氏)とし、これから人間が活力を持ちながら世界を生き抜くには、テクノロジーが社会に与える社会的・経済的な影響を熟知することが必要と呼びかけた。
IT部門の悩み解決には「まず可視化」
ゾーホージャパンのManageEngineマーケティング部の齋藤愛理・コンテンツクリエイター/エバンジェリストは、同社が提供するIT運用管理支援ソリューション「ManageEngine」を紹介。齋藤エバンジェリストは「情報システム部門の担当者は、機器の不調への対応や、繰り返される同じような問い合わせに疲弊している。人手不足の中で業務範囲は拡大しており、担当者を増やす以外の対策が必要」と話し、この課題の解決には、「IT運用業務の可視化」が有効だと説明した。同社のManageEngineはネットワークや端末の監視・管理、問い合わせの集約・可視化など、IT運用に必要な機能を提供するツール群で、必要な機能だけをスモールスタートの形で導入できるのが特徴。情報システム部門を悩ませる課題の原因究明や、未知の問題の発見に役立つとした。
ゾーホージャパン
齋藤愛理
エバンジェリスト
Microsoft 365を管理したい企業のニーズに対応
IT資産管理ツール「SS1」シリーズを提供するディー・オー・エスの営業企画部の山本桂・課長は、IT資産管理市場のトピックに触れながら、同製品がユーザー企業のニーズに合致しているポイントを解説した。「Microsoft 365」の導入や「Teams」の活用を拡大する企業が増えているが、山本課長は「Microsoft 365標準の管理機能はリテラシーの高いユーザーでないと使いにくく、インシデント発生時の対応にログを活用することも難しい」と指摘。同社のSS1は、PCやサーバーなどの管理に加え、Microsoft 365の使用状況の可視化機能も備えており、ユーザー企業のIT環境をトータルで管理できるのが強みという。オンプレミス版、クラウド版ともに製品開発に力を入れており、ユーザーの情報システムの構成に応じて両方を提案できることも、販売パートナーの「売りやすさ」につながっているとアピールした。
ディー・オー・エス
山本 桂
課長
新しいERPはITベンダーの事業変革にも有効
ERP「GRANDIT」を提供するGRANDITの事業統括本部営業統括部の伊藤篤志・主任は、ITベンダーが同社製品を取り扱うことでどのようにビジネスを変革できるかについて、製品の特徴を紹介しながら説明した。伊藤主任は「(企業のIT投資意欲の高まりを受け)ITベンダーへの引き合い自体は増えている。しかし、ベンダーにIT人材が集まらなくなっている」と述べ、クラウド型の製品やAIの活用により、ITビジネスは効率化・高付加価値化を図っていく必要があるとの見方を示した。同社ではクラウド型ERPの「GRANDIT miraimil」を3年前に提供開始したが、この製品ではデータと業務プロセスの統合といったERPのコア機能だけでなく、経営に必要な情報を即座に引き出せるようにするAI機能や、扱いやすいUIの設計にも力を入れたという。エコシステム拡大のため、新たな販売パートナーや提携パートナーを募集している。
GRANDIT
伊藤篤志
主任
外部も含め全員が情報共有できる業務管理ツール
業務プロセスやプロジェクトの管理を効率化できるクラウドサービス「Smartsheet」を提供するSmartsheet Japanの栗原絵里子・プリンシパル・パートナー・アカウントマネージャーは、手作業によるプロジェクト管理で発生しがちな問題の解決策を解説した。プロジェクトでは、社内外の関係者が必要な情報を共有して業務を標準化することが望ましい。一方で、栗原マネージャーは「『Excel』での工程管理に課題があるという声を多く聞くが、多くの有償の管理ツールは、協力会社など外部と情報共有する際にコストが問題となる」と指摘。Smartsheetは、社内ユーザー分のライセンスを購入するだけで、情報を閲覧・編集可能な社外ユーザーを追加可能となっており、最小限のコストで導入できるのが特徴。すべてのプロジェクト関係者が、工程やそれにひも付くファイルなどを一つのプラットフォーム上で管理できるので、作業のミスや時間的なロスを削減できるとした。
Smartsheet Japan
栗原絵里子
プリンシパル・パートナー・アカウントマネージャー
あらゆるサービスに高度で確実な監視が求められる時代
独Paessler(ペスラー)のネットワーク監視ツール「PRTG Network Monitor」の国内ディストリビューターであるピーエスジェイの杉山俊彦・代表社員CEOは、同社が取り扱う製品に関する事業機会の拡大について説明した。ピーエスジェイは2023年にPRTGの取り扱いを目的として設立。現在はPRTG以外の製品や、運用監視のマネージドサービスなどのディストリビューションも行っている。杉山CEOは「今やネットワーク監視の対象は社内LANだけではない。例えば、高齢者の見守りサービスでネットワークがダウンした場合は人命にもかかわる」と述べ、ITを活用したサービスの運営には確実なネットワーク監視が必要になると強調した。同社はツールの販売に加え、2025年からは海外のマネージドサービス事業者と連携した低コストの運用サービスも提供する予定。リセラーとなるパートナーを目下募集している。
ピーエスジェイ
杉山俊彦
代表社員CEO
EDRをすり抜けた脅威を見つけ出す
TeamT5の横田智成・シニアセールスエンジニアは、同社が提供する脅威ハンティングツールの「ThreatSonar」を紹介した。今年は国内でもさまざまな規模・業種の企業がランサムウェアの被害に遭ったが、横田シニアセールスエンジニアは「高度なサイバー攻撃に対応するには、まず敵を知ること。そして、対応のために適切なツールが必要になる」と話し、アジア圏にフォーカスした同社の高度な脅威インテリジェンスや、システムに潜んだ侵害を明らかにする脅威ハンティングツールの有効性を訴えた。昨今普及が進むEDR(Endpoint Detection and Response)ツールは、攻撃者がまさに今システムを侵害する際の検知には強いが、その目をすり抜けて攻撃のタイミングを待ち構えている脅威を見つけ出すことはできない。システムがクリーンな状態であるかを人の手だけで評価するのは困難なため、定期的なハンティングツールの利用が望ましいとした。
TeamT5
横田智成
シニアセールスエンジニア
ITスキル教育の需要がさらに高まる
セミナーの最後に行われたBCNセッションでは、「週刊BCN記者が聞く、関西エリアITビジネスの今とこれから」と題し、大阪に本社を置き、オープンソースソフトウェアを活用した制御系システム開発を行うリバティ・フィッシュの石丸博士・代表取締役を招き、本紙記者がITビジネスの現況と今後について聞いた。同社はシステム開発に加え、プログラミング言語「Ruby」を活用したIT人材育成・教育サービスも提供している。石丸代表取締役は「DXに取り組む企業が増えたことで、技術者以外の人々もプログラミングなどのITスキルが求められる場面が増えている」と指摘し、IT教育の需要が高まっている様子を紹介。ITベンダーの人材採用は年々厳しくなっているが、同社では教育機関と連携したイベントなどを通じて自社の知名度向上に努めており、そのような活動は営業面にも良い影響を与えているという。
リバティ・フィッシュの石丸博士・代表取締役(右)に
記者が対談形式で話を聞いた