週刊BCNは6月21日、仙台市内で地場のSIerやIT製品販売会社を対象にしたセミナー「週刊BCN 全国キャラバン2024 in 仙台」を開催した。IT資産管理、ERP、クラウド活用支援サービスをそれぞれ提供するソリューションベンダー3社が自社の製品・サービスを紹介したほか、SIビジネスの今後をテーマにした基調講演が行われた。
中小・スタートアップとの協業が革新につながる
セミナー冒頭の基調講演では、IT産業ジャーナリストでITビジネス研究会の代表理事を務める田中克己氏が、日本経済におけるIT産業の役割と、SI業界が今後目指すべき方向について見解を示した。ここ数年、SIer各社の業績は概して堅調な伸びを維持しているが、日本経済全体の成長は低い水準にとどまっていることから、田中氏は「IT投資の金額だけは増えているが、その効果はあまり出ていない」と指摘。また、好調に見えるSIerも、従業員一人あたりの売り上げは必ずしも向上していないケースが多いとし、“人月ビジネス”からの脱却が依然として大きな課題だと述べた。
IT産業ジャーナリスト
田中克己氏
従来は基幹系システムの運用・維持に多額の費用が費やされていたが、最近ではデジタル技術を活用した新たな価値創出が志向されるようになり、IT投資の中身が変化していることもSIビジネスの将来に大きな影響を与えるとみられる。田中氏は、新たなビジネス創出の領域においては、特定の技術や業務ノウハウに強みを持つ中小ベンダーやスタートアップに活躍のチャンスがあるとし、近年は大手ベンダーも社外との協業に積極的な姿勢を見せていることから、「両者が手を組んで新しいビジネス、サービスを創出していくことがイノベーションにつながる」とみる。ITベンダーが新たなパートナーシップの形をつくっていくことで、停滞していた日本経済に風穴を開けることができるとの考えを示した。
オンプレミス/クラウドの両方に対応するIT資産管理
IT資産管理ツール「SS1」シリーズを提供するディー・オー・エスの営業企画部の山本桂・課長は、IT資産管理業務を取り巻く環境と、ITサービス事業者がSS1を取り扱うメリットについて解説した。企業が利用するソフトウェアやサービスの中で、近年最も顕著な伸びを示しているのが「Microsoft 365」で、企業規模を問わず普及が加速している。ただ、素早く導入でき利便性が高いサービスである一方、アカウントの管理、情報漏洩のリスク、Teams上のコミュニケーションの統制など、スタンドアローンの業務ソフトにはなかった課題が顕在化している。
ディー・オー・エス
山本 桂
課長
同社のSS1は2000年にパッケージソフトとして発売された製品で、「Excel」感覚で操作できる画面を通じて企業のIT資産全体を一元管理できる。端末の管理に加え、オプションでWeb閲覧やメール、Microsoft 365の利用状況を可視化する機能を強化しており、セキュリティーの強化や情報システム担当者の負荷軽減が可能。クラウド版の「SS1クラウド」も提供しており、オンプレミス版と比較して台数や機能に制限はない。山本課長によると「商談の“足”がスピーディーになることからも、SS1クラウドへの問い合わせが非常に増えている」といい、ユーザー企業の要求に応じてオンプレミス/クラウドの両製品を同時に提案できる点は、販売パートナーとってもメリットが大きいと強調した。
サステナビリティー経営にも貢献するERP
ERP製品「GRANDIT」を提供するGRANDITの事業統括本部マーケティング室の高橋昇・室長は、同社がERP事業に取り組む背景や、ERPが企業の課題解決にどのように貢献できるかについて講演した。GRANDITは、国内の複数のユーザー系SIerが、各社の業務ノウハウを集約して開発に着手した「コンソーシアム型」のERPであり、製造・卸売り・商社・ITなど、それぞれのコンソーシアムメンバーの業種の強みが製品に反映されている点が特長となっている。高橋室長は「パートナー間の関係が良好で、横の関係ができている」ことも事業展開上有利で、パートナーが互いに技術やリソースを提供し合うことで幅広い案件を獲得できているという。
GRANDIT
高橋 昇
室長
販売管理、生産管理、在庫管理、財務・会計など、従来は業務ごとに独立していたシステムを統合し、一つのマスターデータをもとに企業全体の経営を管理することがERP導入の大きな目的だが、最近ではERPのデータをSDGs推進のために活用する動きも生まれている。高橋室長は「ERPは企業活動のほとんどのデータを管理するので、エネルギーをどれくらい使ったかを基礎データとして保持している形となる」と述べ、企業がサステナビリティー経営に取り組む際にも、ERPは重要な役割を果たすという見方を示した。
クラウドビジネスはあらたなストック収入になる
NHNテコラスは、「Amazon Web Services」および「Google Cloud」の最上位パートナーとして認定されており、パブリッククラウドの導入・運用支援サービスを提供している。事業企画室の佐々木厚司・CCPNアライアンス担当部長は、SIer向けに展開しているクラウドビジネス協業プログラム「Cloud Chorus Partner Network」を紹介し、これからパブリッククラウドの取り扱いを本格化するSIerに向けて、同社が提供可能な技術面・ビジネス面での支援内容を説明した。
NHNテコラス
佐々木厚司
アライアンス担当部長
多くの企業でパブリッククラウドクラウドの導入が進むほか、自治体情報システム標準化の実施により公共分野でもクラウドの活用が急速に拡大しつつある。その一方、長年にわたって事業を展開してきたSIerの中には、クラウドを基盤とした業務システムの開発にまだ踏み込めていない企業も少なくないとNHNテコラスではみている。同社のプログラムでは、クラウドサービスの契約の取り次ぎ(紹介)や再販などの形態でパートナーのSIerが収益を得られる仕組みを用意しており、クラウドに関する十分な知見がないパートナーでも、既存の顧客基盤を活かしてクラウドビジネスを立ち上げられるのが特長。佐々木担当部長は「移行や運用は当社に丸ごとお任せいただく形で、(パートナーは)クラウドに取り組んでいただける」と話し、同社プログラムはSIerが新たなストック収入を得る手段になるとアピールした。