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<OVER VIEW>サービス&ソフトに転換したIBM・ガースナー戦略の総括 Chapter4

2001/12/24 16:18

 ルイス・ガースナー会長が就任以来採ってきた戦略は、市場戦略と技術戦略を車の両輪としたもので、技術戦略の成果が市場戦略で直ちに効果を発揮し始める。当面IBMの製品戦略はサーバーを中核としたもので、下位のインテルサーバーから上位UNIXサーバーまででの領域で覇権奪取を狙っている。IBMは、中期技術開発のプロジェクト「eLiza」によって、世界のeソーシング市場の中核サーバーでメインフレーム全盛時代のような独占的シェア確保を狙ったものと米国では考えられている。(中野英嗣●文)

再度IT市場で技術的覇権を

●中核ポイントを押える技術戦略

 IBMの業績的復活を果たしたガースナー会長の戦略においては、その市場戦略ばかりが目立つが、IBMは98年より再びIT市場での技術的覇権を狙う技術戦略を次々と発表し始めた(Figure19)。

 IBM技術戦略の多くは、05年ぐらいまでに市場に定着しそうな開発が多い。従って、ガースナー会長技術戦略の開花は次のトップ、サム・パルミザーノ会長時代になると考えられている。

 まず、Linuxを自社OSの中核に捉えることを決断し、全サーバーにLinuxを搭載して、エンタープライズ市場にマイクロソフト、インテルの覇権が及ばないような防御壁とする。

 IBMの技術戦略で最も短期的狙いを明確にしているのは、eビジネスITインフラの中核となったUNIXサーバーでサンの独走を阻止することだ。

 パルミザーノ社長は「02年から03年にかけて、UNIXサーバー市場でトップの座をサンから奪う」と繰り返し述べている。

 同時に、次世代サーバーで独走的地位を築くため、サーバー事業部門の研究開発費の半分以上を長期的に注ぎ込む開発プロジェクト「eLiza(イライザ)」を発表した。Elizaの技術の一部は既に01年10月発表の同社最上位UNIXサーバー「Regatta(レガッタ、通称)」に採用されている。

 eLizaの真の狙いは次世代eソーシングの中核サーバーとなる1000台ものノードのクラスタ接続による超エンタープライズサーバー開発や、バイオインフォマティクスで要求される何年間も無故障で計算し続けられるスーパースパコンや、多数のコンピュータをネットワーク接続して高速演算を実現するグリッドコンピュータ開発である。

 ガースナー会長は「世界のeソーシング事業者は巨大ITメーカーと通信事業者の数社に絞られ、IBMはすべてのeソーシングセンターに基盤ITを独占的に提供すると同時に、IBMもその1社になる」と宣言した。

 さらにIBMは、世界で最も販量されているインテルサーバーでの世界標準仕様を狙う「エンタープライズX-アーキテクチャ」を発表した。

 一方、ワイヤレスコンピューティングでの全方位戦略を発表し、ThinkPadなどもワイヤレスLAN対応とした。ワイヤレス技術は生物化学兵器攻撃によるセンタービル閉鎖にも、ワイヤレスでサーバーを制御できる。そのため、テロ対策としても米国では急速に注目され始めた。IBMはワイヤレス技術の一環として、モバイル機器チップ開発など、ユビキタス(遍在)時代の対応を強化している。

 また、IBMは銅配線やSOIなど省電力、高速半導体技術でも先行し始めており、、これからのIT市場の中核ポイントを押えた技術戦略を展開する。

●ハードビジネスの中核はサーバー

 ITサービス市場での力を一層強めるため、IBMはハードビジネスの中核をサーバー事業としている。ユーザーからのITサービスは、そのサーバーメーカーが最も獲注し易いポジションにあるからだ。IBMは「サーバーにはそのハード金額の5-6倍のITサービスが付帯する」と説明している。短期的狙いはサンからのトップシェア奪回、インテルサーバーでの標準仕様確立だ。

 IBMはサンが最上位サーバー「Starcat(スターキャット)」を発表するのを待ちかねていたかのように、サンよりパフォーマンスで2倍、価格で半分を標榜する自社UNIXサーバーの最上位モデル「Regatta」を投入した。既にIBMはUNIXサーバー世界市場で第2位の地位をHPから奪い、上位サーバーのシェアでサンを追い上げ始めた(Figure20)。

 UNIXサーバー世界市場はわが国を含め大きく伸びている。同時に、下位UNIXサーバー市場にはインテル64ビットサーバーも参入するようになると考え、ここにメインフレームで培ったエンタープライズ技術を移転する「エンタープライズX-アーキテクチャ」を発表した(Figure21)。

 サン市場をIBMは上位のRegattaから下位のインテルサーバーで狹撃する戦略を採ったと米国では理解されている。

●Linux全面採用をベースに戦略展開

 IBMは当面の技術戦略として中核OSにLinuxを採用した。短期的にはLinuxをエンタープライズに普及させること、そして中期的にはあらゆる電子機器がインターネットに接続されるユビキタス時代に、Linuxが主流になると考えている(Figure22)。

 このため堅牢なUNIX上でLinuxも使える兼用OS「AIX5L」を発売した。AIX5LはIBM独自チップだけでなく、インテルIA-64でも使えることに留意すべきだ。IBMはLinux搭載のメインフレーム、ミッドサーバーで設置済みの多数のサーバーを1台に統合する「サーバーコンソリデーション」を積極的に推進し成功している。

 IBMのワイヤレス戦略の狙いは、屋内でのLANケーブルを排除することだ。また、サーバーなどをワイヤレス機器で集中制御できることで、TCO(所有総コスト)の削減ができることを強調する。ワイヤレスでメインフレームを制御する銀行や、ワイヤレスフロントを実現したホテルなどをIBMはユーザー事例として公表した(Figure23)。

 一方、IBMの技術戦略は、その市場戦略や短期事業計画とも密接に絡んでいる。同社当戦略担当副社長のスティーブ・ソラッゾ副社長は次のように語った。「IBMで最も利益率の高いのはDB2、Websphereなどミドルウェアを中心とするソフト事業である。これらはすべてLinux上に移植済みなので、IBMの全サーバーがLinuxを搭載できるようになって、IBMミドルウェアの市場が一挙に拡大し、利益に多大な貢献をする。このため、チャネルに対してミドルウェア販売で最高18%ものリベート支払いを開始した」。

 IBMはメインフレーム技術、上位UNIXサーバー技術、そしてeLiza技術を集約して次世代サーバーで突出した開発力を発揮できることを狙う(Figure24)。

 「IBMは60-80年代のメインフレーム時代のように、次世代サーバーで再度独占的地位獲得を狙っている」と米ITアナリストのティム・バジャリン氏は解説している。IBMはサンやウィンテルの独走にストップをかけられるかどうか、その短期戦略の成果がまず問われているといえよう。
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