OVER VIEW

<OVER VIEW>IT市場減速下の米メーカー決算分析 Chapter5

2002/04/01 16:18

週刊BCN 2002年04月01日vol.935掲載

 縮小するパソコン、インテルサーバーのウィンテル(Wintel)製品世界市場では、デル1社のみが出荷台数を伸ばす。競合他社が軒並み大幅な赤字に陥るなか、デルは減益とはいえ4.0%の売上高純利益率を誇る。不況下のウィンテル市場では、デル1社の独り勝ち状況となった。デルは適正利益を確保しつつ、自ら価格破壊の主導権を握って出荷台数を伸ばし、シェアで他社を引き離す。デルはこのモデルをネットワーク機器市場でも試みると同時に、ITサービス売上構成比を上げる戦略も強化し始めた。(中野英嗣)

ウィンテルで独り勝ちのデルコンピュータ

世界と米国でトップに踊り出る

 01年9月、HPはコンパックを買収して合併する計画を突如発表した。この時、HPのカーリー・フィオリーナ会長は、(1)IBMに肩を並べる規模のトップITメーカーの誕生、(2)世界/米国でパソコンのトップシェア奪回、という狙いを語った。パソコン出荷の世界的減少下にあって、デル1社のみが出荷を大きく増やし、00年の米国に次いで01年には世界のパソコン市場でもコンパックを抜いて、デルがトップシェアを獲得した(Figure25)。

 HPとコンパックを合算すると世界ではデルシェアを上回るが、米国では合併しても直ちにシェア逆転は起こらない。米国ではデルはコンパック・HPと2ポイントの差がある。デルはインテルサーバーでも世界トップのコンパックを急迫している。同社マイケル・デル会長は、「わが社はいかなる市場環境でも利益を生みながら成長する。インテルサーバー市場でも02年に世界のトップに躍り出る」と02年1月の年次決算発表時に宣言した。

 デルを除くと、米国の有力パソコンメーカーの直近年間決算は大幅な減収で軒並み大幅赤字に陥った。コンパックの売上高は前年比20.5%減で8億ドル近い純損失だ(Figure26)。

 アップルは32.8%の売上高減で3億4400万ドルの営業赤字、ゲートウェイは36.7%の減収で11億8300万ドルの営業赤字に陥った(Figure26)。

 これに対しデルの売上高は2.3%減、営業利益は67.5%減であるが17億8900万ドル、売上高比5.8%の営業利益を維持した。現在IBMやわが国のメーカーを含めて、パソコン事業はほとんど赤字といえる状況だ。パソコン出荷台数の減少よりも、価格破壊の勢いが強く、総利益率が極端に下がり、この事業で黒字を計上するのはきわめて困難となっている。

 このなかにあって固有のダイレクトモデルを確立したデルのみが出荷台数を伸ばし、適正な利益率を確保している。ウィンテル市場ではデル独り勝ちの様相が強まっており、競合者は見当たらなくなってしまった。

低い総利益率と販売費率

 90年代中盤からの世界パソコン市場が右肩上がりのなか、デルは売上高と純利益を毎年大きく伸ばしてきた(Figure27)。

 96年から01年のピークまで売上高は年平均43.4%増という勢いをもって世界のトップにデルは躍進した。02年は若干の減収となったが、「デルはパソコン不況の影響を受けなかった世界でも唯一のメーカー」という評価が定着した。

 デルの売上高312億ドルはコンパックの01年12月売上高336億ドルに急接近した。世界トップに躍り出たデルと、トップの座をデルに明け渡したコンパックを比較すると、売上総利益率と売上高販管費率に大きな差があることが判明する(Figure28)。

 デルもコンパックも、パソコンとインテルサーバーのウィンテル製品の価格破壊によって総利益率が下がっている。00年9月に23.9%であったコンパック総利益率は01年9月には4.1ポイント下がって19.8%になった。同社01年12月はパソコン出荷が大きく減ったため、サーバー比率が上がり当率が若干上がるという皮肉な現象も見せる。

 デルの総利益率は高い時は21.3%あったが、最近では17%台に低下している。総利益率は大型アルファサーバーも売るコンパックがデルを上回る。しかし販売費率ではデルはすでに9%以下の「アンダー9」を定着させているのに対し、コンパックは15%近辺でデルの倍近く高い。

 デルは総利益率低下にともなって販管費率を徐々に下げているのが大きな特徴だ。ここにデルが自ら価格破壊を仕掛けて、コンパック、HP、ゲートウェイなど有力パソコンメーカーを出荷台数で大きく引き離す戦略基盤を見つけることができる。デルは総利益率に合わせて販管費率も下げ、利益を確保しながら他社が追随できないような価格破壊を自ら演出する。

 また、仕様が定められたウィンテルメーカーは研究開発費率を大きく下げられるという利点がある。例えば自社アーキテクチャのサンの01年12月半期決算売上高研究開発費率は15.1%と極端に高いのに対し、デルの02年1月決算の同費率は1.5%とサンの10分の1だ。コンパックの同率は01年12月に3.9%、HPの01年10月決算時の同率は5.9%とデルよりはずっと高い。デルはこの面でもウィンテル専業のメリットを享受している。

デルモデルで他社を振り切る

 デルの在庫圧縮はきわめて有名だ。総合メーカーHPの年次決算時の在庫日数は40日以上できわめて高い。コンパックは19日から01年12月には15.3日まで下がった。デルと同じウィンテル専業のゲートウェイは7.2日である。これに対しデルは競合他社と比べて圧倒的に低い3日台を維持している(Figure29)。在庫の極減で在庫資金負担がなくなり、また価格が週単位で低下するパソコン部品を製品出荷直前にデルは調達でき、製造原価を下げられる。

 デルがウィンテル市場で独り勝ちできるのは、他社が真似できないダイレクトモデルと呼ばれるビジネスパターンを定着できたからだ。このダイレクトモデルの基盤は、(1)総利益率低下に合わせて販管費率を下げる、(2)在庫の徹底的削減、(3)注文仕様生産でユーザー満足度を向上することにある(Figure30)。

 これによって常に他社よりも大きな(総利益率-経費率)を維持する。そして他社が追随できないのを確認した時点で自社製品の価格を下げて、自ら価格破壊の主導権を握る。これによって縮小するパソコン市場でデル1社のみが出荷台数を伸ばしシェアを拡大する。

 デルはこのダイレクトモデルをウィンテル製品のみでなく、ルーターなどネットワーク機器市場にも参入してこれを試み始めた。これが成功すれば、シスコ、ルーセントをデルが苦しめることになる。

 しかし、デルの在庫、販管費率低減はもはや限界に近づいているのは間違いなく、デル会長もこれを認める。そこでデルはハード販売偏重からウィンテル製品ベースのITサービス売上構成比を上げるため、力のある日米SIerとの協業を強化する方針を打ち出した。
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