OVER VIEW

<OVER VIEW>不況からの出口見えなかった02年世界IT市場 Chapter4

2002/12/23 16:18

週刊BCN 2002年12月23日vol.971掲載

 わが国のIT市場各分野も陰りが目立ち、業界の不況感が強くなった。ITの利用がこれまでの「所有」からサービス「利用」へ移るのは間違いないが、その普及には時間がかかる。その間は伸びが大きい市場を見つけて積極的に取り込まなくてはならない。種々マーケット状況を分析すると国内にも市場規模は小さくても大きな伸びが期待される分野は多い。例えば、ハードではブレードサーバー、ITサービスではeラーニングや中小企業向けERP、SCM、CRMなどだ。IBMはパソコンソフトで従量制課金を開始した。(中野英嗣)

新分野の伸びが期待される国内市場

■小規模でも伸びる期待の新分野が多い

 国内IT市場も世界的IT不況とは、無縁ではあり得ない。国内の経済低迷も続くため、わが国IT市場各分野の伸びにも陰りが見られる。しかし、わが国の企業はこれまで、ネットバブルも起こらなかったため、米国のようにIT設備の極端な過剰に陥ることもなかった。また、わが国と米国の市場動向で大きく異なるのはテレコムだ。1998年から01年まで、米テレコム業界は有利子負債を5104億ドル(63兆円)も増やしてしまい業界全体が危機状態に陥った。わが国のテレコム負債増は、米国の10分の1以下の485億ドル(6兆円)にとどまっている。このため国内テレコム業界のIT・通信投資にも米国ほどの大きな落ち込みはない(Figure2)。

 しかし、わが国でも従来のようにパソコンやサーバーが、再び市場拡大の牽引力になることは期待できない。一方、市場規模は小さくても今後4-5年、大きな伸びが期待できる新分野も数多くある。例えば、ハードではブレードサーバー、ASP市場、ストレージサービス、eラーニングなどのITサービスには高い伸びが期待される。また、これまで大企業が積極的に導入したERP、SCM、CRMなどのインターネットアプリケーションも、中小企業市場(SMB)が開拓される。

 マイクロソフトもSMB開拓を狙って、SMB向け業務パッケージをわが国でも投入する。マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOは、自社業務パッケージの品揃えによって、米国600万社、日本150万社のSMBが顕在需要先になると説明する。例えば、ブレードサーバーの国内出荷台数は01年6000台に過ぎなかったが、06年まで伸び続け、同年には01年の約20倍、12万1000台になるとガートナーは予測する。同年インテルサーバー全出荷に占めるブレード構成比は21.2%になる(Figure19)。

 ブレードが伸びるのは単に1台のラックに数十台、数百台収納できるという単純な理由だけではなく、同サーバーは1サーバーラックを多数サーバーに分割できるという意味で、サーバーパーティショニングと同一概念とも捉えられるからだ。あるいは、1ラック内の限定規模のグリッドコンピューティングだとも考えられる。

■市場拡大の牽引車は広義のITサービス

 IT不況下でもわが国のITサービスは、05年まで年平均8%の伸長が期待できる(Figure20)。しかし、ITマネジメント・サービスのように12%以上の伸びが期待される分野もある反面、ハード保守サポートなどはハード価格の下落もあって僅か1%程度の伸びしか期待できない。勿論、次世代ITサービスの主流はネットを介してITインフラとその上で展開される電子商取引や電子調達など、eビジネスプロセスを従量制料金でサービスするユーティリティコンピューティングだ。

 しかし、IBMが「eビジネス・オンデマンド」と名付けた当サービスが、国内市場で本格的に普及し始めるのは05年以降だろう。従って、00年代中盤までは既に芽を出している分野のITサービスに期待せざるを得ない。長い間期待されながら目立った伸びが見られなかったASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)や、これを支えるインターネットデータセンター(iDC)も規模は小さいながら大きく伸びるITサービス分野だ。特に01年ASPのSMB対象市場は実質的にゼロに近かったといえる。

 しかし、この市場も06年には219億円となり、全ASP市場も569億円と予測される(Figure21)。

 また、今後ネットITサービスのインフラ、iDC(首都圏)面積も06年には01年の2.4倍にも膨らむ。しかしサーバーコンソリデーションや高性能ブレードサーバーの出現により、iDC利用面積は80%しか伸びないため、空きがさらに大きくなることが危惧される(Figure21)。

 市場規模は未だ極めて小さいが、ストレージサービスプロバイダ(SSP)市場は今後、年平均45%もの伸びが期待される(Figure22)。

 この大きな伸びは、現在、SSPサービス利用企業が全ユーザーの数%と低いからだ。従って利用企業数が増えることで市場伸長率が大きくなる。

■規模も伸び率も大きいeラーニング、ERP市場

 多くの調査会社が国内eラーニング、特に企業向け市場が大きく伸びると報告する。矢野経済研究所は、企業向け市場は01年の280億円から05年には8倍近い2100億円になると発表した(Figure23)。

 この間の年平均伸び率は65.5%と大きい。同研究所によると、個人向けでも同市場は01年の14億円から05年に120億円まで伸びる。企業向けは大手SIerや通信事業者の約50社が既に参入し、今後も参入事業者は急速に増加する。教育はネット上で完結するビジネスプロセスであるからだ。

 また、これまでも期待されてきたERP、SCM、CRMなどインターネットアプリケーションはパッケージの内容やサービス体制の拡充により今後も大きく伸びるだろう(Figure24)。

 01年から05年まで年平均伸長はパッケージではERPが9.0%、SCMが16.1%、CRMが18.1%、またパッケージサービスも14.8%、そして当市場全体も13.8%と高い。

 しかし、わが国同様、欧米でもこれら新アプリケーションは、中堅・大企業を中心に市場を拡大してきた。ここに目をつけたのがマイクロソフトだ。同社はソフト会社の米グレート・プレーンズ、デンマークのナビジョンなどを巨額買収し、これらが開発した業務パッケージをベースにSMB向け「マイクロソフト版パッケージ」を品揃え中だ。同社は全世界81万社のチャネルを総動員し、業務パッケージを売り、「. NET」上の基幹ビジネスに育てる。

 わが国は米国と異なり有力旧オフコン販社系パッケージが先行しており、競合激化による市場活性化も期待される。さて、IBMは国内で意外な分野で従量制料金のユーティリティコンピューティングを開始した。02年12月、日本IBMはパソコンソフトで使った分だけ課金するプリペイド式販売を開始した。ユーザーは利用期限や期間が限られる場合、ソフト買い取りでなく、ソフトを使った量だけ支払えばよい。IT不況下にはメーカーも新しいサービスを開始して市場の反応を観察する。
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