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<OVER VIEW>IT不況、米国業界はSMBに活路を Chapter1

2003/02/03 16:18

週刊BCN 2003年02月03日vol.976掲載

 長びくIT不況対策として米国有力ベンダーは、中小企業(SMB)市場開拓に注力している。SMBはエンタープライズと異なり、これまでネットブームに躍った過剰IT設備もなくしかも、eビジネスへの対応はこれからであるからだ。このSMBへの拡販支援者として従来のシステムインテグレータ(SIer)や販売会社などパートナーとは異なる、コンサルタントや会計士などプロフェッショナルを結集することが重要となった。これらプロフェッショナルはインフリュエンサー(影響力行使者)と呼ばれ、彼らを上手に活用するプログラムを多くのベンダーが設定した。(中野英嗣)

拡販にインフリュエンサーを結集

■ベンダー、SMB攻略にインフリュエンサー活用

 米国の価格変動を除く実質GDPは02年10―12月に1.3%と極めて低い伸びにとどまった(Figure1)。このような経済不況もあって米国のIT投資は00年ピーク時から大幅な減少を続けている(Figure1)。

 フォレスターリサーチによれば、ピーク時00年に5430億ドル(65兆円)もあった米国IT投資は01年に22.5%減4210億ドル(51兆円)、02年も7.8%減の3880億ドル(47兆円)まで落ちた。02年はピーク時に比べると28.5%という極めて大きな落ち込みだ。

 フォレスターは03年は5.7%増と予測するが、これが達成できてもピーク時比24.5%減の投資に過ぎない。これは特に中堅・大企業のIT投資が大幅に落ち込んでいるからに他ならない。

 こうなると全世界3000億ドル(36兆円)、米国だけで1200億ドル(14兆円)と考えられる中小企業(SMB)市場での拡販に注力せざるを得ない。これは米国だけではなく、わが国でも同じことが指摘できよう。

 米国ではIBM、マイクロソフト、サン・マイクロシステムズ、卸売りのイングラム・マイクロ、テックデータ、シネックスなどが一斉にSMB拡販戦略を打ち出した。

 米SMB市場へのIT販売のルート別比重はVAR/SIerが63.7%と圧倒的に高く、これにメーカー直販13.2%、リセーラ10.2%が続く(Figure2)。

 さらに、最近米国ではSMB市場でのIT販売支援者として、会計士、コンサルタント、業種特化のインテグレータなど、インフリュエンサー(影響力行使者)の役割の重要性がクローズアップしてきた。

 これらプロフェッショナルはSMB経営者に対し、ビジネス戦略策定、ビジネスモデル変革で強い影響力を発揮してきた。そして今や、これらのプロフェッショナル影響力が新ITシステムの採用、ITベンダーや商品の選択にも及んできた。

 このためIBM、マイクロソフトなど有力米国ベンダーは従来のパートナープログラムとは異なる、インフリュエンサープログラムを設定し、自社拡販戦略に合致する多数のインフリュエンサー結集に躍起となっている。

■ベンダーとの間の高い信頼感醸成を

 SMB社内に入り込んだインフリュエンサーは、次にどんなIT需要が顕在化するかを経営者より早く察知する立場にある。

 また、新しいビジネスモデルの展開時にどのような新システムが必要になるかを経営者に助言する立場から、具体的に社内システム像を描ける立場にある。

 これらの立場にあるインフリュエンサーはITベンダー選定時にも経営者に対し決定的な影響力を発揮し、これに経営者も反論できない。

 また、インフリュエンサーはベンダー、SIerの営業担当とは異なって、新システム導入のROI(投資対効果)を分析して、経営者を納得させる力をもつ者も多い。多くのコンサルタントは、不況時にSMB経営者の新IT投資の決断力が鈍り、それだけコンサルタントなどに相談するケースが増えていると報告する(Figure3)。

 また、売り手側から見るとインフリュエンサーから持ち込まれる見込み客案件は、競合も少なく獲注にいたる期間も短いので受注コストが大幅に削減でき、この削減コストの一部をインフリュエンサーに還元しても十分ペイする。

 このように役割が明確になった米国では、各ベンダーやSIerが個々のインフリュエンサーに個別条件で対応するのではなく、一定の応対基準を定めるインフリュエンサープログラムを設定している。

 しかし、インフリュエンサーはパートナーとは異なり、受注成果に一定率を乗じた報酬では、パートナーとの差別化が不明確で満足しない。コンサルタントの一部には受注報酬ではなく、その後のコンサルティングの継続を要求する場合もある。

 いずれにせよ、インフリュエンサーはクライアントとの長い付き合いで、高い信頼感を経営者から獲得している。このような高い信頼感をベンダーとインフリュエンサー間で醸成できるようなプログラムの策定が、その有効活用では重要となる。

■インフリュエンサーはベンダーへの顧客紹介者として期待

 現在、米国有力ベンダーやSIerは、従来のパートナープログラムと併存するインフリュエンサープログラムを設定している(Figure4)。

 これにともなって、売り手側にもインフリュエンサー支援組織が必要となり、SMB向け広告宣伝なども経営者重点から、インフリュエンサー向けが多くなっている。パートナーはベンダー系列を明確化しなければならないが、インフリュエンサーは表面上はベンダー中立でなければならない。

 特にインフリュエンサー活用に熱心なのはIBM、マイクロソフトで、それぞれ独自のプログラムを発表している。IBMは早くも99年に当プログラムを設定し、現在全世界で1200社が当プログラムに参加していると同社アンネ・スミス副社長は語る(Figure5)。

 現在、世界のSMBからのeビジネスソリューション受注の50%は、当プログラム参加者からの持ち込み案件だと同副社長は説明する。

 一方マイクロソフトは、03年から本格投入する世界のSMB向けCRMなど業務ソフトの拡販を狙ってインフリュエンサープログラム(MIP)を設定した。マイクロソフトはすでにコンサルタント・パートナー・プログラム(CPP)を有している。

 しかし、CPPとMIPではその参加条件に決定的差異がある。CPP参加には所定のトレーニングを終了し、技術認定を受けることが必要となるが、MIP参加にはIT技術レベルは全く問わない(Figure6)。

 プロフェッショナルが経営者への影響力さえ行使できれば、MIPに参加できる仕組みだ。同社プログラム参加第1陣は特定業種のCPA(公認会計士)13万人強であるが、これへの技術サポートは卸売りイングラムの取引先SIerが当たる。

 いずれにせよ、新しく組織化されるインフリュエンサーは、「顧客への商品紹介者」としてではなく、「ベンダーへの顧客紹介者」として期待すべきだとIBM、マイクロソフトは説明する。
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