大航海時代

<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第70話 エンジニア

2003/02/17 16:18

週刊BCN 2003年02月17日vol.978掲載

水野博之 高知工科大学副学長

 2003年は乱世となる、と前回に述べた。以下、しばらく、かつて乱世に生まれ、そのなかで自らを見つけた人達について語ってみることにしよう。なんだって?天才の話は厭だって?なーに、天才なんか出て来ようはないさ。そこらにいるオッサンの話だ。おっさん達の名前を「エンジニア」という。

 ゼネラル・モータース中興の祖といわれるアルフレッド・P・スローンは、「20世紀をつくったのはエンジニアである…」と言った。たしかに私達のまわりを見まわしても、テレビ、自動車をはじめとしてありとあらゆる生活用品がエンジニアによって作り出されている。しかし、ことエンジニアの評価となると、最近まであまりかんばしいものではなかった。

 米国の31代大統領フーヴァー(1874-1964)は若い頃、鉱山技師であった。ある時、大西洋を船旅中、教養豊かなイギリスの貴婦人と一緒になった。最後の朝食の席で夫人はまことに礼儀正しくフーヴァーに質問した。「ぶしつけな質問をすることをお許しくださいましな。あなたの御職業は一体何でございますのかしら?」

 フーヴァーは答えた。「私の仕事はエンジニアです」。このフーヴァーの答えを聞いたとき、婦人は大変なショックを受け、あたかも無法者でも見たように後ずさりしながら叫んだそうである。「エンジニアですって!!私はあなたを紳士だとばかり思っていましたのに」

 この小話が物語るように、20世紀初頭、いや、この間まで(いやいや、現在でもそうかもしれないが)エンジニアは紳士のなかには入れてもらえなかったのである。しかし、スローンが語るように、現代文明はエンジニア達によってつくられたのだ。彼らは決して学者ではなかった。評論家ではなかった。インテリですらなかったかもしれない。しかし、現実と闘い、変えていったのだ。

(発明会館にて)
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