視点

「砂漠へ行こう」

2003/04/28 16:41

週刊BCN 2003年04月28日vol.988掲載

  砂漠へ行こう――。バブル経済がピークを極めた1989年12月。大納会でつけた日経平均株価の過去最高値「3万8915円」を、証券関係者の間では語呂合わせでこう呼ぶそうだ。株価がバブルに踊ったその翌年8月、イラク軍がクウェートに侵攻。不穏な世界情勢と呼応するかのように日本市場の株価も下降線をたどり、ピーク時からわずか10か月後には2万円すれすれの水準にまで下落した。そして、翌91年1月に湾岸戦争が始まり、多国籍軍は実際に「砂漠に行く」ことになる。それに比べて今回の戦争は、米英軍が開戦からわずか3週間でイラク全土をほぼ制圧し、短期終結に至る見通しとなった。一方で、SARS(重症急性呼吸器症候群)という新たな懸念材料が頭をもたげているものの、戦争が長期化しなかったプラスの面は大きい。

 最近になり、証券関係者の中からは「株価自体は低迷しているものの、出来高はかなりきている。こういう時は一気に上昇に転じることもある」、「大型株が中心の日経平均だけを見ると低迷しているように見えるが、中堅の中には株価が大幅に上昇している企業もある。設備投資にも回復の兆しがある」――そんな声も聞こえてくるようになった。ただし、楽観は禁物だろう。日経平均が半年先の景気動向を示すシグナルだという見方からすれば、現在の株価が半年前の水準を依然下回っている現状は、政策に大幅な転換がない限り、少なくとも、この先まだ半年は景気回復は見込めないということになる。

 株価に象徴される経済の迷走は、「失われた10年」どころか、すでに14年目を迎えている。しかし、14年というのは、果たして長いといえるのだろうか。1929年、ウオール街の株価大暴落で始まった世界大恐慌。これを境に米国の経済政策は大きく転換することになるが、その後、株価が大恐慌直前の水準まで再び戻るのに、実に28年の歳月を要しているのである。この四半世紀余りの長さに比べると、14年はまだ道半ばなのかもしれない。数年前にネットバブルを経験したIT業界にとって、昨今の需要不振は受け入れ難い現実かもしれない。だが、淡い夢を追い続けるより、今の現実が当面継続するものとの認識に立ったうえで、ビジネスモデルを組み立て直す。自社の得意分野は何か。収益構造の軸は何か。そんな姿勢でデフレと正面から向き合ってこそ、生き残りへの切符も手に入る。
  • 1