大航海時代

<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第83話 情熱

2003/05/26 16:18

週刊BCN 2003年05月26日vol.991掲載

水野博之 コナミ株式会社取締役

 さて、人類最初の機関車をつくりあげたリチャード・トレビシックの本職は何であったのか。皆さん、あててごらん。ちょっとむずかしいだろうな。実に彼の本職は「レスラー」であったのだ。彼がすぐ取っ組み合いをするのはまあ当然のことであったかもしれない。だからいったでしょう。エンジニアというのは何も大学を出る必要はないのだ、と。

 19世紀当時、U.Kにはたくさんの大学があって、学問を主とする学生、大先生方はいたのだけど、ほとんどは歴史のなかから消えてしまっている。一方学問も何もないが腕力だけは多分にもっていたトレビシックの名は科学技術史の中で輝いている。そうであろう。蒸気機関車の発明はまさに世界を変えていったのだ。

 馬車による運搬から機械による運送へと生産性は急激に拡大し、地球は急に狭くなっていった。人類が1つになりだしたのである。それがまあ、レスラーのオッサンの仕事に始まるとは!!しかし驚いたりおかしがったりする前に、よく考えてみたいものだ。このような人類の偉大なる進歩は、ワットといいトレビシックといい、普通のオッサンの仕事であったということを。

 ここでは普通のオッサン、といったが、ある意味では普通以下であったかもしれない。ワットは多少偏屈であったし、トレビシックは腕力が大好きであった。どちらもまかり間違えば、社会のアウトロー(脱落者)になる恐れすらあった。このような連中が産業革命を起こしえた理由というのはたった1つ、「熱意」による。情熱にもとづ いた「行動」による。学校の成績が良い悪いなんて大したことではない。何も悪いことをすすめるわけではないが、とかく勉強するうちに批判ばかりする頭デッカチに育つと、情熱というものが失われていくような気がする。 情熱は未知に対する挑戦なのであるから。(姫路城天守閣にて)
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