福島県では、県をはじめ各市町村単位でも積極的にIT化に取り組む姿勢がはっきりしている。文書管理や電子申請システムの共同利用では、全市町村の90%以上が参加を表明しており、2004年10月からの本格稼動を計画中だ。しかし、人口規模の大きな福島市をはじめとする主要市では、現段階で共同利用への参加を表明していない。県全体のIT活性化に力を入れるのであれば、県が各市町村のニーズを吸い上げ、全市町村が参加する最適な方法を見つけ出すことも必要になってきそうだ。その一方で、各ベンダーは共同利用案件を受注しようと、激しい競争を繰り広げている。(佐相彰彦)

県市町村ともにIT化に前向き、90%以上が共同利用に参加へ 福島、郡山、いわきの主要市は検討段階

■急ピッチで地域インフラを構築

 菅野康男・福島県企画調整部情報統計領域電子社会推進グループ参事は、「ほかの県に比べてIT化の取り組みが遅かった。そこで、急ピッチでその基盤整備を進めた」と話す。

 IT化に着手したのは00年7月。2010年度までを目標に、ネットを活用したさまざまなシステムや電子情報サービスを「いつでも・どこでも・誰でも」享受できる「イグラドシル・プラン」を打ち出した。第1期基本計画として、有線系と地上波系・衛星系無線からなる基幹通信網と地域ネットワークで構成する「うつくしま新世代情報基盤(UNII)」を今年度中に構築する。

 昨年度は、まず県と市町村を結ぶインフラとして、約40億円を投じ7か所の地方振興局をアクセスポイントにする広帯域の基幹通信網「うつくしま世界樹-SEKAIJU-」を整備した。

 今年度は、市町村内公共施設などのネットワークを促進させるため、CATV網などの情報インフラの整備に一層力を入れる。

 加えて、災害に強い地上波系・衛星系無線を防災用とし、情報伝達のスピードアップを図るために公共施設や市町村への画像配信など、災害情報を分かりやすく提供できる防災情報システムを充実させる。

 内部の基幹業務システムについては、「汎用機が置いてある県庁舎をデータセンターとして機能させ、企業に基幹システムの構築から運用管理までを委託することも視野に入れている。来年度早々には稼動したい」(菅野参事)としており、今年度のできるだけ早い段階で結論を出す考えだ。

 文書管理や電子申請システムでは、市町村との共同利用を進めており、来年10月までに稼動する予定となっている。今年8-9月をめどに構築フェーズに入る。

 福島県では、県内90市町村の90%以上が共同利用への参加を明らかにしている。

 IT化に積極的に取り組んでいる会津若松市では、県の共同利用について、「住民サービスを充実させるために参加する方向」(宮崎正人・会津若松市総務部情報政策課情報管理グループ主事)と前向きだ。

 これに対して、福島市や郡山市、いわき市などの主要な市の場合、共同利用に参加するかどうかは微妙な段階にあるという。

 この3市の人口を合わせると福島県全体の50%以上を占める。

 システムの共同利用にかかる費用は、人口割で計算する方向であるため、主要な市が参加しなければ、1市当たりの費用負担が重くなり、各市町村で構築する場合と大差がなくなる可能性が高い。現段階では、これら3市が参加を表明していないため、この点が共同利用を進めるうえで今後の焦点になるだろう。

■激しい受注競争の可能性大

 ベンダーにとって、90%以上の市町村が参加する意向である共同利用システムを獲得することは、大きなビジネスチャンスだ。しかし、負ければ今後、福島県内の自治体ビジネスに参画するチャンスがなくなる恐れもある。

 NECでは、県に人事給与システムを納入した実績をもっており、今回の共同利用に関する調査や分析、設計を請け負った。今野英雄・NEC福島支店長は、「調査や分析、設計を受注する段階で、販売パートナーや地元企業など4社で構成するコンソーシアムを組んだ」と、地元とのスクラムを強調する。構築案件もコンソーシアムを武器に名乗りを挙げる。

「共同利用の受注で、参加した市町村にバックオフィスからフロントオフィスまで全方位で提案していく」(今野支店長)意向だ。

 一方、富士通では福島県に予算システムを納入。市町村の基幹業務システム納入シェアも約20%のNECに対して、同社は約40%のシェアを占めるという強みがある。

 もともと富士通の半導体工場もある会津地区については80%以上を達成している。橋本政幸・福島支店長(福島全県担当)は、これまでの実績をバックに、「地元企業を含めて1-2社と組む」と、共同利用獲得に向けた体制を整える。

 共同利用システムのポイントは、県がIDC(インターネットデータセンター)を県内に設置する意向を固めていること。NECのパートナーは、福島中央センター、福島情報処理センターの2社。富士通では、福島総合計算センターがパートナーとなっている。対抗する強力なIDCは、エー・アンド・アイシステムの「喜多方インターネット・プロダクションセンター」。喜多方市が同社に基幹業務システムをアウトソーシングしている実績がある。

 共同利用システム構築の予算額は8000万円。システム構築案件としてはむしろ小さいプロジェクトだ。しかし、この先に福島県全体のIT化、IDCをベースにした行政事務のアウトソーシング事業も見えてくる。


◆地場システム販社の自治体戦略

エー・アンド・アイシステム

■喜多方市のアウトソーシングを受託

 エー・アンド・アイシステム(岡良貴社長)は、福島県が取り組む市町村との共同利用システム案件を獲得することに力を注ぐ。

 同社は、喜多方市にIDC「喜多方インターネット・プロダクションセンター」を持っている。「県に対して、このセンターを活用してASPで提供するメリットを提案している」(菅野徹夫・常務執行役員経営企画室自治体ソリューション推進室)段階だ。

 同社の強みは、すでに喜多方市の基幹業務システムのアウトソーシング業務を請け負っていることだ。

 喜多方市では、基幹業務システムを委託することでシステムにかかるコスト削減や職員の効果的な配置、電子自治体推進に向けた拡張性の確保といった効果を実際に上げている。

 この実績が競合他社に対する最大のアドバンテージになる。

 「今年はグループウェアなど、情報系システムのアウトソーシングも手がける」予定という。

 福島県の共同利用プロジェクト獲得の一方で、「喜多方市のシステムの仕組みを応用し、複数自治体との契約に広げていく」意向だ。

 喜多方市のシステムを成功事例として、ほかの市町村とシェアする形になれば価格面などでメリットが出てくるというわけだ。

 ほかの県でのビジネス拡大については、「IDCでシステムを預かる場合、遠い地域ではサポートが難しくなる。そのため、各県の地元企業とパートナーシップを組むことも検討する」という戦略も立てている。