e-Japan最前線

<e-Japan最前線>53.e-Japan戦略IIへの期待

2003/07/21 16:18

週刊BCN 2003年07月21日vol.999掲載

 新しいIT国家戦略となる「e-Japan戦略II」が正式決定し、戦略を具体化していく「e-Japan重点計画-2003」もパブリックコメント募集を経て近くまとまる予定だ。e-Japan重点計画-2002を受けて昨年7月からスタートした連載企画「e-Japan最前線」も今回で一区切りすることにし、ここでe-Japan戦略の現状について考えてみることにしたい。

新たなIT需要の創造に向けて

 「e-Japan戦略は、どこまで進んでいると言えるのか。地方自治体でIT化が進んでいるところはどこか?」――先日、一般企業のIT担当役員から、そんな質問を受けた。これまでe-Japan戦略の動向を追いかけてきた人間にしてみれば、この2年間に戦略に基づいてさまざまな施策が展開され、着実に成果を生んできているとの実感はあった。

 しかし、直接関わっていない人たちにとってみると、e-Japan戦略によって何が変わったのかがまだ実感しづらいかもしれない。IT戦略本部では、年に2回程度、IT施策の推進状況をフォローアップしている。今月開催の会議にも「e-Japan重点計画-2002に掲げられた施策の推進状況の調査報告」が提出され、02年内に実施する計画だった132施策について「おおむね計画通り順調に推進」との評価を行った。インターネット人口普及率も2002年末には54.5%と初めて50%を突破、ブロードバンド加入数も02年度末で900万件を超え、1000万件突破も目前となっており、スタート当初に比べればインターネットの利用環境は飛躍的に向上した。

 ブロードバンド化も進み、第三世代携帯電話やIP電話などを含めて道具はどんどん進化しているのだが、ビジネスの現場や個人の生活がIT化によって大きく変わったという印象は確かに薄い。「e-Japan戦略はどこまで進んだのか」という反応も、そこに起因しているのだろう。先日、あるゼネコン幹部と話していると、元請け業者から下請け業者への工事代金の支払いについて、「工事の出来高(進ちょく度合い)を査定して代金を払うやり方は、査定作業も繁雑で双方にメリットがあるとは思えない」との反応が返ってきた。「売掛金回収リスクの軽減」は、e-Japan戦略IIで掲げられた「先導的取り組み」7分野のなかの「中小企業金融」の課題でもある。

 できない理由を並べて、従来のやり方を誰も変えようとしなければ、いくらITにBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を促す力があると言っても変わりようがない。e-Japan戦略IIでは、戦略の具体的な方策を示すとともに「民間に呼びかける行動」が初めて盛り込まれた。民間側に対しても、ITを積極的に導入し、利活用するように働きかけることにしたわけである。しかし、国が呼びかけても変えようとしない業界や企業も少なくないだろうし、一般国民は明確なメリットを感じなければなかなか利用しないだろう。それをどうやって乗り越えるかが知恵の絞りどころである。

 高速道路自動料金収受システム(ETC)も、昨年後半あたりから本格的に普及し始めてきた。普及しない理由を検証しながら対策を講じてきたことが、実を結んできたと言える。医療分野の電子カルテにしても最初にデータを入力する医師の負担をいかに軽減できるかが、利用拡大のカギを握っているという話も聞く。利活用が進まない問題点を具体的にどう解決していくか。技術だけでは解決できず、既存の法律や政策を動かさなければならないものもあるだろう。そうした難しい課題にもIT業界として積極的に取り組んでいかなければ、新たなIT需要を創造することは難しいのではないだろうか。(ジャーナリスト 千葉利宏)(終わり)

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