WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第173回 侵食されるHP

2003/10/13 16:04

週刊BCN 2003年10月13日vol.1010掲載

 直近の米ビジネスウィーク誌は、回復基調が感じられる世界IT市場に関して次のように述べる。「IT業界の様相は全く変わりつつあり、少数の強いベンダーが支配するようになった。強いものが弱者を叩いてシェアを奪う。この積極的戦略を展開する資金的に富裕なベンダーだけが、健全な形で売上高や利益を伸ばせる時代となった」デルは、パソコンのヒューレット・パッカード(HP)市場を浸食し、現在はHP収益の中核であるプリンタ事業に対して自社製プリンタ(レックスマークのOEM)で攻撃をかけつつある。

デルとIBMの標的に

 このように、相手を絞って攻撃を仕掛けることで有名だったのが、IBMのサム・パルミザーノ会長だ。パルミザーノ会長はトップに就任する前、IBMの各事業責任者として相手を絞って攻撃し、成功してきた。これを米業界では、相手に痛みを与えるという意味の「パルミザーノのペインプロジェクト」と呼んでいた。現在IBMは新しい戦略「オンデマンド」普及に8億ドル(960億円)を投じ、世界中でキャンペーンを展開している。同時に現行ビジネスでもパルミザーノ会長の命で、いくつかのペインプロジェクトが進めている。 2002年後半から03年にかけてのペインプロジェクトの的はUNIXサーバー第1位のサン・マイクロシステムズだった。

 IBMは全米各地域に、サン叩きを得意とするパートナーを選定し、IBMがUNIXサーバーでサンと競合する際IBMセールスはこの商談をそっくり、サンキラー・パートナーに丸投げしてきた。この戦略が大成功し、縮小が続くUNIX市場で、サン、HPの出荷が2ケタも減るなか、IBMだけが台数、金額を20%も伸ばしている。ニューヨーク地区のサンキラー、サターン・ビジネスの幹部は次のように語る。 「当社は従来からサンサーバーの弱点を知りつくし、IBM製品が弱かった時代にもサンに勝ってきた。今やUNIXサーバーでIBM製は突出して強力だ。それはIBMが処理量増減時期に合わせて、プロセッサ数を従量制料金でオン、オフにできる『on-offキャパシティ・オンデマンド』サーバーの品揃えを豊富にしたからだ」

 IBMはサン向けに成功したペインプロジェクトの次の的を03年8月からHPの中堅企業向けソリューションとしたようだ。この対象はUNIX、Linux、ウィンドウズを含むサーバーソリューション全てで、IBMの「対HP勝利リベート」の対象となる。その中堅企業がこれまでHPユーザーであり、IBMがHPをリプレースして初めてIBMブランドが納入されるIBMにとって新規ユーザーであることが条件となる。リベートが支払われるのはIBMと契約している全パートナーである。IBM米ビジネスパートナー担当ダン・フォーティン副社長は語る。「当勝利リベートのミニマムは、通常マージンに加える10%だ。商談の規模や、HPユーザーであった歴史なども配慮されてさらにリベートは増額される。既に米国500社のパートナーがHPリプレースの具体的案件を進めており、03年末までに数千社のリプレース戦果を期待している」(中野英嗣●文)

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