中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>47.中国ブームは“昔来た道”か

2003/12/08 20:43

週刊BCN 2003年12月08日vol.1018掲載

 この連載も最終ラウンドに入り、話をまとめる段階になってきた。国内ソフト産業と中国の関係を改めて考えてみたい。先日、ソフト会社の経営者から「中国(の人件費)は本当に安いのか」と聞かれた。その上で、その経営者は過去に勤めていた会社の失敗をこう語った。その会社は1980年代、技術者の人件費を抑えるために最初に韓国企業と提携した。そこで人件費が高騰すると台湾へ渡り、さらにシンガポール、マレーシア、さらには中国の沿岸部、内陸部と転々とした。(坂口正憲)

 最終的に、その会社は経営難に陥り、大手電機メーカーに買収されてしまう。「本来は良い技術があったのに、コスト(の抑制)ばかりを求めて海外をウロウロしている間に競争力を失ってしまった」という。つまり、その経営者が言いたかったのは、今の中国ブームも“昔来た道”ではないか。すぐに人件費が上がり、中国の魅力は薄れてしまう。それより国内にしっかり根を張り、確固たる基盤を築く方が企業は永続する。実際、ここ数年で中国人技術者の人件費は高騰した。現在、沿岸部で月10万円、内陸部で同5-8万円が相場だ。現地企業と取引すれば人月の単価は20-30万円になると言われる。

 この賃金相場はさらに“緩やかに”上昇していく。一般職種と比べて技術者の賃金は5-10倍と異常に高く、高等教育を受ける学生数も急増しているので、技術者の人件費がこれ以上急騰するとは考えにくい。ただ、一方で人民元の切り上げなど外的要因を考えれば、緩やかな上昇は十分にあり得るはずだ。さて、それでも中国に魅力はあるのか。卑怯な言い方かもしれないが、企業の取り組みによって中国の魅力は違ってくる。

 単に人件費を抑えるだけならば、国内で日本人の技術者を使っていても手段はあるだろう。最近は雇用の流動化で、フリーランス技術者が増えている。また、副業を求めるサラリーマン技術者も多い。そうした技術者を登録制で大量に抱え込んで、必要に応じて活用し、人件費を抑えている企業もある。ならば、人件費の安さ以外で、中国の魅力はどこにあるのか。その点を次回考えてみたい。
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