コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第58回 栃木県

2004/01/05 20:29

週刊BCN 2004年01月05日vol.1021掲載

 栃木県では、これまでの「栃木県地域情報化基本計画」を、「とちぎITプラン」へと2003年10月に改名した。計画内容を抜本的に見直し、施策展開を急ぐ。県民との接点になる電子申請システムは、「施策展開を急ぐなかで、計画を遅らせるわけにはいかない」と、市町村と足並みを揃えず、県単独で04年4月から先行して一部稼働させる。一方、市町村はNTTコミュニケーションズなどにコンサルティングを委託し、今年度中に電子申請システムの在り方を決める。(安藤章司)

「とちぎITプラン」で情報化戦略を刷新 市町村は足並み揃えに注力

■「栃木県地域情報化基本計画」を大幅見直し

 栃木県では、01年度から05年度の5か年の情報化計画である「栃木県地域情報化基本計画」を立てて情報化を推進してきた。だが、01年度に予想していたよりもはるかに早くブロードバンドが普及し、どちらかといえば「ITの基盤整備」に重点を置いてきた基本計画は、現状にそぐわないものになった。

 これを受けて、栃木県では5か年計画の中間に当たる03年10月に基本計画を大幅に見直した。栃木県の高瀬一宏・企画部情報政策課課長補佐は、「政策全般ではなく、戦略そのものを見直した」と話す。

 具体的には、これまで、県庁内に「1人1台のパソコン環境を整備する」など、県側の課題解決が中心に据えられており、県民生活や地域産業といった地域全般の視点が少なかった。

 だが、ブロードバンドが急速に普及し、県内においても49市町村のうち47市町村でADSLなどのブロードバンドネットワークを家庭で利用できるようになった。人口カバー率で95.5%に達する。

 このため03年10月に刷新するとともに名称を変更した「とちぎITプラン」では、行政側の課題解決を縦軸に、県民生活の高度IT化という戦略を横軸にとらえる構図にした。行政と県民の両方で、より総合的で迅速なIT化を推進する。

 05年までの計画終了時の目標は「いつでも、どこでも、だれでも必要な情報やサービスを手軽に活用できる高度情報通信ネットワーク社会の実現」を掲げ、中期目標として「ユビキタスネットワーク社会の形成~IT活用型社会の構築~」を目指す。

 県民との接点でもっとも重要となるのが「電子申請システム」である。栃木県では、04年4月から、まず約50項目の申請をインターネットで受け付けられるようにする。その後、順次、受付可能な申請種類を拡大し、当面は200項目まで拡大する。このシステムは、富士通に2億数千万円で発注した。

 富士通は、70年代から栃木県の基幹系システムを請け負っている実積があり、入札の結果、03年6月に富士通が受注することになったという。

 現在、県の申請書式はおよそ4200種類。このうち利用頻度順に上位200種類を電子化し、申請件数に占める割合の約95%をカバーする。200種類のなかには、事務手数料や複数の添付書類が必要なものもある。これらの問題を解決するため、04年度に決済システムを導入し、事務手数料部分の問題を解決する。

 高瀬・情報政策課課長補佐は、「オンラインバンクからの引き落としやコンビニエンスストアでの支払いなど、複数の決済システムを04年度中に導入する。これで約100種類までの電子化のめどが立つ」と話す。残りは、「とちぎITプラン」の最終年度である05年度末までに、申請業務を簡素化するなどして、電子化を完成させる。

■電子申請システムのカギを握る宇都宮市

 県が単独で電子申請システムを立ち上げるのに対し、県内市町村は早くても05年度の立ち上げになる見通しだ。

 現在、県内市町村が参加する「栃木県市町村情報化推進協議会」のなかの「電子自治体推進部会」で、市町村の電子申請システムの共同利用を協議している。この協議会の積立金のなかから約1000万円の予算で、電子申請システムの共同利用に関する調査・コンサルティングをNTTコミュニケーションズに発注し、今年度末(04年3月)までに結論を出す。

 約44万人と栃木県最大の人口をかかえる宇都宮市では、この調査結果を待って、電子申請システムの共同利用への参加するかどうかを決める。宇都宮市の古泉卓・総合政策部情報政策課長は、「3月末の結論を待ち、その後、04年度上期末までに宇都宮市としてどうするのかの結論を下す。下期中には開発を終えて、遅くとも05年度中には一部稼働に漕ぎ着けたい」と話す。

 宇都宮市では、06年度の早い段階で、電子申請システムの本格稼働を目指しており、県よりもおよそ1年遅れのスタートとなる。宇都宮市の古泉・情報政策課長は、「県が先行しており、宇都宮市としてもこれ以上の遅れは許されない」と、焦燥感をあらわにする。

 県では、市町村の電子申請システムの導入にあたり、(1)市町村が共同で電子申請システムを独自に開発する、(2)市町村が共同で、ASP(アプリケーションの期間貸し)サービスや既存パッケージを利用する、(3)各市町村が個別で電子申請システムを開発する――という3つのシナリオを想定している。

 このカギを握るのが、人口の多さで共同利用の負担金の比率が最も高くなる宇都宮市である。宇都宮市では、「今年度末には共同利用に関する調査結果が出る。それまでは何も言えない」としながらも、「負担金や利便性などを考え、宇都宮市民にとって最も利益のある方法を選択する」と話す。

 市町村の足並みを揃える障害となっているのが合併問題だ。栃木県の予測では、合併特例法の適用期限である05年3月末までに、県内の市町村数は半分以下に減ることもあり得るとみている。市町村にとっては、「電子申請システムどころではない」というのが本音のようだ。しかし、市町村が共同で電子申請システムを導入するタイミングが遅れると、「05年度からの一部稼働」を目指す宇都宮市との利害が合わなくなる。万が一、宇都宮市が共同利用に参加しないとなれば、各市町村の費用負担の増加は避けられず、悩みの種となっている。


◆地場システム販社の自治体戦略

TKC

■自治体へASPサービスを

 TKC(飯塚真玄社長)は、2003年11月から栃木県内に延べ床面積5280平方メートル、サーバー室面積3300平方メートルのデータセンター「TKCインターネット・サービスセンター」を、総額約34億円を投じて開設した。二重化された通信網、3日間以上の連続無給油発電の無停電電源装置、免震構造など最新の設備を導入した。

 このデータセンターの主要目的の1つに、自治体へのASPサービスがある。同データセンターは、03年11月末に、地方自治情報センター(LASDEC)から、民間事業者としては初めて「アプリケーションおよびコンテンツサービス」、「ホスティングサービス」を提供する事業者として認められた。

 これにより、LASDECが運用する総合行政ネットワーク(LGWAN)への接続が認められ、LGWAN経由で全国の自治体に向けたASPサービスが可能になる。

 TKCでは、すでに「市町村課税状況等の調べ」、「公共施設案内・予約」、「第2次バックアップサービス」などのASPサービスを開発済みで、04年1月からは「ウイルス対策サービス」、4月以降には「電子申請・届出」のASPサービスをそれぞれ新しく始める。

 自治体向けのビジネスを担当する角一幸専務取締役は、「例えば3つの市町村が合併しても、それぞれの市町村の情報化予算を合わせた金額にはならない。当然、コスト削減が求められる。LGWANを使った自治体向けASPサービスなど、これまでになかった手法を採り入れることで、自治体の需要に合ったサービスを増やす」と、自治体へのASPサービス普及に期待をかける。
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