コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第7回 大阪府(2)

2005/05/23 20:42

週刊BCN 2005年05月23日vol.1089掲載

 「大阪の情報サービス産業は厳しい」とは、もはや挨拶のようになっている。市場規模の面で、首都圏に遠く及ばないのは事実だが、こうした挨拶はすでに何年も使い古されてきた言葉だ。各種の統計や調査を見ても、従業員数や事業所数が極端に落ち込んでいるわけではない。「大阪の商売人に、儲かっているかと訊ねて、絶好調ですと言う人間はいない」(関西財界関係者)という土地柄だ。しかし、実は言葉ほどにはネガティブでない面もある。(光と影PART IX・特別取材班)

“人の顔が見える”行動と施策で「ネガティブな発想」を突き崩せ

■「人材難は当てはまらない」の声も

 「エンジンを含めたコアの研究開発は、東京でなくとも全国どこでも構わない。開発に雑音が入らないという点では、東京より大阪に本拠があることのメリットは大きい」と語るのは、ネットワークセキュリティ管理ソフト大手・エムオーテックスの神戸仁取締役営業部長。

 同社は、1990年にネットワーク管理専門会社として創業して以来、ネットワーク管理ツール「ランスコープ」シリーズをリリースし、独自の地歩を固めてきた。96年にリリースした「ランスコープCat」は、05年3月に最新の「Cat5」に進化。これまでに1500社以上の企業が導入しているが、今年4月の個人情報保護法施行も追い風になり、3月末には導入ライセンス数が144万件に達している。 「風潮としての個人情報保護法対応は今春だったかもしれないが、実質的にはこれからが(ビジネス拡大の)スタート。少なくとも2、3年は右肩上がりの市場が続く」(神戸取締役)とみている。大手ベンダーとも連携し、これまで手付かずだった中小や小規模事業者の開拓に戦略の重点を置く方針。大阪に本拠を置くソフト会社として急成長を遂げている、いわば立志伝中の企業だ。

 大阪で新たなソフトハウスの活躍が低調なことは認識している。「ソフトハウス自体がきわめて少ない。そのために人材も東京に流れ過ぎる」(神戸取締役)という。しかし、一般的に指摘されている人材難については疑問を投げかける。

 「(大阪は)スキルの高い人材を集められないというが、当社の場合、社内で育成している。それでスキル不足を感じたことはない。スキルの高い人が品質の高いソフトを開発するとは限らず、斬新な発想を持つ人材を育てればいい。新卒から育成して2年で戦力化する方が、中途を採用するより、かえっていいこともある」(神戸取締役)という。「人材難」が「大阪の情報サービス産業の低調」を生むという図式は、必ずしも成り立たないということだ。

 もちろん、日本全国を相手にビジネスを展開する以上、ユーザーとの接点を増やす必要はあり、その機会が多い東京、あるいは首都圏に投入しなければならないマンパワーが増えてくるのは間違いない。しかし、コア部分の開発についても、東京でなければならないとは考えていないことも、また事実のようだ。

 人材難が大阪の情報サービス産業のボトルネックでないなら、対企業の営業力という点ではどうだろうか。神戸取締役は、大阪における対企業でのビジネスの特性について「音より、視覚」と指摘する。単に情報を提供するだけでなく、情報やサポートを提供する人の顔が見えることが重要というわけだ。

 同じような指摘は、他でも聞かれる。大塚商会関西支社の伊藤裕一・取締役兼上席執行役員支社長代理は、「コンペティターとして怖いのは、営業部隊の頭数が揃っている会社」という。

 同社の強みは、システムインテグレーションからサプライまでワンストップで顧客企業に対応できること。02年12月期から業績拡大を続けており、05年12月期の第1四半期(1-3月)も、連結売上高1090億円と前年同期比8.7%の増収となっている。

 その中にあっても、関西支社は統合型基幹業務パッケージソフト「スマイルアルファ」の営業体制の骨格を構築し、全国に水平展開した経緯があるように、着実に成功を収めている拠点。大阪のIT投資が低調ななかで、コンペティター各社が営業やサポート要員を東京にシフトした結果、逆に大阪エリアで営業を仕掛けていく体制が回復していない。特に隙間的なシステムについては、コンペティターがほぼいなくなった分野もあり、大きなアドバンテージを獲得している。それでも「営業部隊の頭数を揃えられること」が怖いという。

 大塚商会自体、間接要員は減らす一方で、営業要員は拡大させてきた。裏を返せば、きめ細かに顧客企業をフォローできれば、大阪のIT投資を掘り起こしていくことは可能ということができる。

■きめ細かい営業体制が不可欠

 大塚商会の場合、04年からSPR(セールスプロセスリエンジニアリング)を本格稼動させ、科学的な営業によるCS(顧客満足度)と効率の向上を図っている。今春から大阪をはじめ、関西地区でターゲットを絞った形でセミナーなどを開催すると、04年の同時期に比べて動員数が2割以上高まってきている。特に4月以降は中小企業でも比較的規模の小さい企業が動き出しているという。

 「中小企業の場合、1件あたりの投資額は少ないが、セミナーを開催した場合のヒット率は大手企業に比べ高い。大阪などの関西地区では、首都圏と異なり当社内の各部門も物理的に近いことがあって、連携も図り易い」(伊藤取締役)と、社内の有機的な連携も含め、きめ細かな対応で潜在需要の開拓に手応えを感じている様子だ。

 ただし、中小企業でも若手の経営者の間では、ROI(投資利益率)を意識する傾向が強まっている。「標準モデル的なありきたりの提案でなく、IT活用の必要性を納得してもらえる水準にまで高めねばならない」(伊藤取締役)。それができることが絶対条件となる。例えばユーザー企業がメーカーの場合なら、投資の優先順位はITではなく、製造装置などの方が高まってしまいかねないのが現実でもある。

 大阪の情報サービス産業市場について、「一般論」としてのネガティブな見方が根強いことは否定できない。しかし、その根本は、実は情報サービス産業の内にあることもまた事実だ。それを突き崩していくポジティブな行動や施策が、大阪の情報サービス産業に求められている。
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