今回のCESで、特に印象に残ったのが、主催者のCEA(民生用電子機器業界団体)が、「HDオーディオ宣言」を発し、記者会見を開催したことだ。筆者はCES取材の経験が長いが、主催者がオーディオについて会見を開くというのは、ここ10年以上無かったことだ。HDオーディオとは「CD以上に音質の良いオーディオ」という意味で、業界をあげて、ハイエンドの音を認識してもらおうというのがCEAの意向だ。

 世の中、携帯音楽端末が全盛で、あまりに音の悪い圧縮オーディオが流行りすぎているので、その対極の高音質の世界を見直そうという動きである。私は、記者会見に出ながら、これこそ世界的な潮流にしなければならない──と思った。圧縮しては音楽が可哀相だ。それは音質が単に悪いということのみならず、それを聴いているユーザーにとっても、「良い音で聴いていない」という機会損失をもたらす。

 私はMP3などの低音質を聴くと、いてもたってもいられないほど不安な状態に陥る。まるで拷問だ。しかし、HDオーディオのSACDなどを聴くと、心に安寧を取り戻し、心地よくなる。

 記者会見で傑作だったのは、iTunesでの配信の音との比較だ。音源はローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」。iTunesは128kbのAACだから、ボヤボヤの音だ。圧縮音声はハイエンドなシステムで聴くと、よりテリブルである。それに対し、88・2kHz/24ビットは、圧倒的な凄さ。帯域、ダイナミックレンジ、音の充実度……すべてが月とすっぽんであることが、皆の耳に実感できた。HDオーディオはすでにCESでは、かなりの勢力となり、今回のオーディオ展示では34社が「HDオーディオ」に名を連ねていた。

 今後、聴く人にストレスを与えない高音質化の動きは、あらゆる分野で広がると私は予測する。すでに音楽配信では圧縮による音質への打撃を嫌い、オンキヨーの子会社のe─onkyoがロスレス(圧縮/伸長で完全に元の符号に戻る)による配信を開始している。ソニー系のエニーミュージックは非圧縮リニアPCMでの配信を計画している。BD─ROM、HD─DVDの次世代DVDは、リニアPCMの5・1チャンネルをサポートする。

 音声圧縮が92年のMDで実用化されて以来、音質は下がり放しであったが、やっと反攻の動きがでてきた。そうでないと、音の幸せは遠のくばかりだ。