視点

根本問題を解決しないコピーワンス対策

2007/08/06 16:41

週刊BCN 2007年08月06日vol.1198掲載

 大問題となっていたデジタル放送のコピーワンス方式が、HDDから9度のコピーができる「コピー9度」で決着の方向が示されたが、私はこれではコピーワンスの問題に対して、根本的な解決にならないと思う。「9度のコピー」とは、9つのメディアに、一回ずつコピーできるにすぎないからである。

 「9度」の根拠は、HDDにエアチェックされたオリジナル信号を、携帯電話や携帯映像プレーヤーなどのデバイスにコピーすることを考え、一世帯における視聴者の数の平均3人で、3×3で9度となるということだ。

 しかし、これはコピーワンスの本質的な問題解決にならない。コピーワンスの問題とは、二つ。(1)HDDからパッケージメディアへのムーブ時に、失敗し、どちらの信号も消える事故が続発している(2)パッケージにムーブしたら、それ以後はコピーできず、HDDに戻すこともできない、という点にある。

 (1)の事故の問題は、新しい方式で果たして解決するのか。パッケージにコピーするのを失敗して、オリジナルのHDDが消える事態はなくなるのか。これは不明だ。(2)は、時代とともに変わるパッケージメディアの乗り換えや、それ以後の編集ができないことを意味する。これまでビデオシステムを新しくしたとき、旧メディアから新メディアへのコンテンツの移行は当然のごとく可能であった。これができないと、コンテンツを新システムで楽しめない。

 しかしコピーワンスでは、ダビングしたパッケージメディアからは、どこにもコピーできないわけで、せっかく記録した宝物のような番組は、そのパッケージのシステムでしか再生できない。録った記録機がいつまで使えるかは、誰にも分からない。世代間コピーができないのなら、一代限りの儚い命である。

 というと、9度コピーができるから9枚、パッケージメディアをつくればよいではないかという声が聞こえてきそうだが、いくら9枚にコピーできても、(2)のコンテンツ継承はできないのである。もうひとつ家庭での放送録音の楽しみとして、あるコンセプトでまとめたディスクをつくるコンピレーション編集があるが、ディスクに移したコンテンツでは、それは不可能。今回の答申の方向の最大の問題は、「世代管理」を拒否したことだ。これでは単に、コピーワンスのディスク(そこからはネバーコピー)が9枚できるに過ぎない。コピーワンス問題の本質的解決には、何にもなっていないのである。
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