ITジュニアの群像

第62回 岐阜県立東濃実業高等学校

2007/11/12 20:45

週刊BCN 2007年11月12日vol.1211掲載

 経済産業省や文部科学省などからなる情報化月間推進会議主催の第28回「U-20(アンダー20)プログラミング・コンテスト」で、岐阜県立東濃実業高等学校が初出場ながら団体部門最優秀賞の栄冠を獲得した。4年前まではコンピュータ部とは名ばかりで、コンテストへの出場経験も乏しかった部活動が、経験豊富な指導者を顧問に迎えて大変身を遂げ、この2年間は全国商業高等学校協会(全商)主催のプログラミングコンテストに、岐阜県代表として出場するまでに成長。その勢いをかっての受賞であった。(佐々木潔●取材/文)

「猫の司書さん」で初応募

U-20団体部門最優秀賞に輝く

図書館業務を分析し、携帯への通知を実現

 全国から108作品の応募があった今年のU-20で、団体部門最優秀賞を獲得した「猫の司書さん」は、可愛い猫のキャラクターといっしょに図書館の管理業務を簡単なボタン操作で行うソフト。この作品を作り上げたのはコンピュータ部3年生の秋山貴俊さん、岩井勇太さん、野村将也さん、小栗しほさん、加納愛実さんの5人(全員がビジネス情報科)。

 同校では2年生で全商プロコンに応募し、3年生でもう一段上のレベルに挑戦するという目標を掲げて活動してきたが、昨年はU-20への応募を予定していながら作品を完成させることができず、結果的に応募を断念したという経緯があった。今年の3年生たちは、いわば「先輩たちの無念さを晴らすためにどうしてもU-20に応募しよう」(秋山さん)と決め、春休みの最中から企画を練り、4月中旬からプログラム開発に取り組んできた。

 学校でみんな(教員・生徒)に利用してもらえる実用的なソフトを作りたい。そう考えたときに真っ先にイメージとして浮かんだのが図書館の管理業務システムだった。図書館システムはすでに存在していたが蔵書管理がメインで、貸し出しや返却といった日常の業務は司書が行うことを前提としていて、図書館の利用者が触れるものではなかったそうだ。そこで、部員たちは「貸し出しと返却が簡単にでき」(加納さん)、「利用者側からも図書館に積極的に関わることができるシステム」(秋山さん)を作り上げようと、司書の先生にヒアリングを重ね、時間をかけて図書館業務の分析を行った。

 その結果、独自のアイデアとしてメール通知機能の搭載を決定した。これは、貸出期限の超過を知らせて督促するだけでなく、誰かに貸出中の本を予約した場合、その本が返却されて貸出可能になったことを通知する機能で、PCはもとより各自が保有する携帯電話に飛ばすことができる。また、メールマガジンの発行機能があることから、新入庫やおすすめ図書などの情報、図書館で開催されるイベントなどについても携帯からのアクセスで知ることができる。一方、管理者サイドの機能としては蔵書データベースはもちろん、バーコードを読んで蔵書を管理する機能などを備えている。

 このソフトを使うことで、これまで配布プリントによって通知していた内容をメールによる通知に置き換え(メールアドレスを持たない人向けに、プリント出力機能も付いている)、図書館に足を運ばなくとも貸出予約ができ、図書館への要望を司書に伝えることができるようになった。作品の仕上がりが応募期限前日の深夜に及んだため、事前に運用するには至らなかったが、審査の結果は「非の打ち所のない完成度の高い作品」(審査講評)。実際に図書室で利用される日も近そうだ。

参考書で学びながら機能を一つ一つ実装

 東濃実業のコンピュータ部は部員14名(男子8名・女子6名)の小世帯。4年前まではコンテストへの出場経験も乏しかったそうだが、昨年と今年は全国商業高等学校協会(全商)主催のプログラミングコンテストにおいて、岐阜県代表として全国大会への出場を果たした。顧問の久保利光先生は、企業でSEとして働いた後で教員採用試験を受け、県立高校の教諭となった異色の経歴の持ち主で、その実践的指導に生徒たちも信頼を寄せる。

 部活では、コンピュータ言語への関心を持たせるため、2年生まではVBとACCESSを学ばせ、3年生になったら「現在、実社会で使われている主流の言語を習得させる」という方針を立て、PHPやMySQLの指導に力点を置いているそうだ。今年の3年生は、C言語をほとんど学ぶ機会がないままにPHPやMySQL、Javaスクリプトなどでプログラムを書いたため、実装にはずいぶん苦労したが、「先生に参考書を買ってもらって、それを全員で参照しながら機能を一つ一つ加えていきました」(秋山さん)。

 部員の多くは情報処理の資格取得を目指して入部する。もともとグラフィック志向の強い加納さんを除けば、全員が基本情報技術者の資格を持ち、秋山さんはさらにソフトウエア開発技術者を取得している。「家族みたいに仲良し」(加納さん)というメンバーが、将来どんな花を咲かせることになるのか楽しみだ。

創造性に富む実践的な人材を育成 足立司郎校長

 東濃実業高校は大正10年に岐阜県可児郡立実業学校として設立。その後、県立移管や戦後の学制改革、東濃高校との統合・分離独立を経て、昭和35年から現在の校名となった。県内加茂学区で商業科を備えた唯一の公立高として地域社会から期待され、「勤労・責任・進取・創意」の校訓のもと、「すぐれた知識と技術を兼ねた創造性に富む実践的な人材」の育成を目標としている。近年は進学率も高く、生徒の65%が進学を選択する。

 平成17年の学科改編によって商業科はビジネス管理科とビジネス情報科に集約され、ビジネス情報科はプログラミング、エンドユーザコンピューティング、ネットワーク管理の3類型から構成される。コンテストの出場母体であるコンピュータ部員は、全員がネットワーク管理類型に属し、ソフトウェア開発技術者試験の合格を目指している。

 同校は地域社会の要請に応え、長期休暇や週末を利用した中高齢者向けのコンピュータ教室を開いている。足立司郎校長によると「コンピュータ部員が中心となり、講師としてマン・ツー・マンでコンピュータの使い方を教えるなど、地域社会への貢献も大きい」とか。今回のU-20プロコン団体部門の最優秀賞受賞については、「黙々とテーマに取り組む部員の努力が報われて本当にうれしい。部員たちは一つのことを成し遂げたという自信を持てただろうし、学校としても名誉なこと」と喜びを語った。

BCN ITジュニア賞
 BCNは、IT産業に多くの優秀な人材を招き入れるために、毎年、IT技術に取り組む優秀な若者たちを表彰する「BCN ITジュニア賞」を主催しています。

技術は市場を創造します。
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BCNは、未来に向けて技術の夢を育む人たちを応援します。

今年1月26日に開催されたBCN AWARD 2007/
BCN ITジュニア賞2007表彰式の模様

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外部リンク

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