九州地区の主要経済指標は、全国の10%前後を占め、「1割経済」地区といわれている。東アジア交易の立地条件がよく、製造業が盛んなことから自動車メーカーなどの進出が目立つ。こうした傾向は、九州地区のIT業界に好影響を及ぼしつつあり、九州地域外に案件を求めていたITベンダーの“地元回帰”を誘導しているようだ。地道に地元企業のIT利活用を促進しようとする九州地区のITベンダーは、徐々に頭角を現そうとしている。(谷畑良胤●取材/文)

製造業活況でIT業界“地元回帰”
九州地区案件の獲得に力入れる

■1割経済圏に好況の追い風 ベンダーらの戦略転換促す

 旧福岡シティ銀行のシステム会社が地場システム会社を合併して設立し、外販主体の受託ソフトウェア会社で九州地区最大規模(2007年3月期売上高は約82億円)となったシティアスコム(大内田勇成社長)。04年に福岡シティ銀行が西日本シティ銀行に移行して以来、「独立系ベンダー」として領域を拡大し、これまでの“主戦場”である金融システム開発に加え、製造、流通など、他業界にも案件を伸ばしてきた。

 全国にある地場ITベンダーと同じく、シティアスコムも売上高に占める「九州地区以外」の比率が6割と、首都圏など域外に頼る傾向があった。しかし、「元々の発祥が銀行系なので、地元に根づき、地元企業に貢献すべき」(福嶋正道・ソリューション推進部長)と、09年度(2010年3月期)までの「中期経営計画」では、方針を大転換。「福岡県に本社を置く企業を狙う」と“地元回帰”を鮮明にしている。

 同社は、福岡県内に本社を置く年商50─100億円の地元企業を主に、これまで受託ソフトウェア開発した案件などを基にしたパッケージを“横展開”したり、独SAPのERP(統合基幹業務システム)や内部監査支援システムなどで、取引先を増やすことに力を入れている。「次の展開として、自社データセンター(iDC)を活用した『ホスティング/ハウジング』『SaaS/ASP』案件を生みだし、継続的に収益を得て営業基盤の安定化を図る」(福嶋部長)考え。現在、売上高に占める割合は、その他業界の比率が増えて、金融と五分五分になりつつあるという。

 九州地区の主要経済指標は、全国の10%前後を占める。同地区が「1割経済」と概括されるゆえんだ。地理的に東アジアとの交易・交流環境がよく、ここ数年、トヨタ自動車など世界的な製造業の進出が著しい。地元IT業界には、その好影響が徐々に及び始め、一部の地元ITベンダーは「需要に対し供給が追いつかない」と嬉しい悲鳴をあげるほどだ。組み込みソフト開発などで開発人員が不足するなど、好況感をもたらしている。そのためなのか、システム開発などの案件を九州地区で獲得する“地元回帰”を打ち出すITベンダーが増えつつあるのだ。

 九州地区最大の富士通ディーラーであるエコー電子工業(小林啓一社長)は、「地域を守ることが原則」と、地元重視を打ち出すITベンダーの1社だ。オフコンや汎用機など基幹システムの構築を主軸に事業を展開し、九州地区に中堅中小企業を中心に約500社の顧客を抱える。だが、「地元企業を碁盤の目に見立て、基幹システムを碁石と例えると、碁石を置ける空白の升は、ほとんど無い」。基幹システムを導入する商機は、リース切れなどを機に5─7年に1回しか訪れず、安定的な収益基盤を基幹システムに頼ってきたこれまでの路線を転換し始めている。

 基幹システムの領域は、NECなどサーバー系列の販売会社と競合する。福岡県内に空白域が少ないこともあって競争が激しく、「当社は、全国区の大手ディーラーを押さえ、高い勝率をあげている。収支はトントンだが、この領域では地元貢献を優先する」(小林社長)として、地元企業に安価なシステムを提供するほか、現在、フロント系のアプリケーション開発やASP(アプリケーションの期間貸し)など、別領域に力を入れている。

■地方の中小企業が抱える悩みを解消するアプリケーション提供

 地方の中堅中小企業は、資金やIT担当者の不足に悩んでいることが多い。エコー電子工業は、こうした地元企業に対応するアプリケーションを自社開発するとともに、首都圏以外の富士通子会社が持つアプリケーションなどを活用し、受注案件を増やしている。ASPで提供するソフト資産管理サービス「Web iTDock119」は、現在のソフト資産を診断し、結果に基づき処置をしてセキュリティ対策を施し、OSのパッチ適用状況などを遠隔操作・監視する手軽さが受けてヒット商品になりつつある。また、事務所で受けた伝言を、外出先の営業担当者の携帯電話に自動的にメッセージ配信する「Web Support119」も、安定的に案件を生みだしている商材という。

 「ITサービスで地域の活性化に貢献する」。

 CSKホールディングスグループの福岡CSKの西岡雅敏社長は、大企業を相手にするCSKの他のグループ会社と一線を画していることをこう語り、地元の中堅中小企業にITを導入することをミッションに掲げる。企業の経営戦略立案からITを利活用し、継続的に費用対効果をみる「ITコーディネータ(ITC)ガイドライン」の手法を取り入れ、PDCA(計画立案、実行、モニタリング、是正・予防)のサイクルを回す「経営支援サービス」を立ち上げた。

 IBMのEIP「Notes」などを利用した仕組みで、福岡CSKの西岡社長は「IT導入は手段のひとつ。ITを有益に活用するための方法論をコンサルティングする。すぐに収益に結びつく事業ではないが、中長期的にみて、地元企業に貢献できる」と、年商20─200億円規模の中堅中小企業(福岡県内に約500社が存在)を攻める計画だ。

 安川電機の情報処理機能を分離し、設立された北九州市の安川情報システム(松本健一社長)は、上記3社と比べ、売上高約193億円に占める九州地区の割合が約20%と低く、域外を重視し続ける。それでも、「自社オリジナル製品の提供やSI領域(ビジネスソリューション)を“屋台骨”にしたい」(永野宏樹・経営企画室長)と、自社iDCを利用し、美容室向けCRM(顧客管理)「BuauStudio」など、サーバーを置けない中堅中小企業向けにASPサービスの提供を拡大しようとしている。「導入効率を高めて小さい企業の案件を増やし、地元企業のIT利活用に貢献する」(同)と、手離れのよい案件獲得を積極化する方針だ。

 福岡市のコンサルティング会社、ナレッジネットワークの森戸裕一社長は「経済産業局が置かれるエリアのなかで、IT利活用が最も遅れている」と、地元密着で活躍するITベンダーの奮起を期待する。