IT経営コーディネート 企業活性化にITCの妙手

<「IT経営」コーディネート 企業活性化にITCの妙手>82.「IT経営力大賞」シリーズ 第一交易(下)

2009/02/23 16:40

週刊BCN 2009年02月23日vol.1273掲載

「自己完結型」で意識改革を実践

 第一交易は収益重視のビジネススタイルへの転換を積極的に進めてきた。企業経営は「利益あってこそ成り立つ」(西能徹社長)と、従来の売り上げ追求型から利益とのバランスを重視する経営に転換。1999年に本格稼働した販売・工事管理システムやグループウェアなどITの活用方法も、利益を常に意識することに重点を置いた。コンセプトは「自己完結型」である。

 自己完結型とは、社員1人ひとりが自らの担当業務の損益を常に意識し、自律的に行動するモデルを指す。受注状況や業績などの数値は、販売・工事管理システムのデータを集計してグループウェアで参照できるようにして、「今、自分が担当している仕事の粗利がどれだけなのかを把握しながら仕事を進める」(西能社長)仕組みを強化した。ITで業務を回すのではなく、社員の業務改革を支えるツールとして位置づけたところが、結果的に「ITの有効活用につながっている」(梶野達也ITC)と分析する。

 売り上げ至上主義や成り行き管理的なプロジェクトマネジメントを排除し、粗利管理を徹底。さらに07年度からは梶野ITCの指導による事業計画書の作成を始めた。第一交易は以前から全社員参加で事業計画書を作っており、「第一交易には、事業計画を立ててPDCAサイクルを回す企業文化がある。したがって、計画策定指導では目標管理などの精度を高める点に力を入れた」(梶野ITC)と振り返る。03年頃から社員の動き方に変化がみられ、今では事業計画に基づいて整然と行動できる「実力がついてきた」(西能社長)と手応えを感じている。

 計画を確実に達成するアクションプランと粗利を意識した行動習慣はほぼ完全に定着し、オープンにされた数字を基に日々変化するビジネスを会社全体で共有する。他の部署や拠点のプロジェクトの粗利も分かるため、「自然と競争意識が働く」という。社員のなかには、粗利が低い仕事を敬遠する兆候もみられるが、「やるべきことをすべてやって、それでも適正粗利が確保できない案件はある。努力した分はしっかり評価する」と、救済策も併せて打ち出している。

 しかし、同社に再び試練が訪れようとしている。世界同時不況で09年は住宅の着工戸数が減ることが懸念されるのだ。建設需要も当面は厳しい見通しで、02年に落ち込んだ悪夢が頭をよぎる。西能社長は、「もし、ここ数年間の経営改革がなければ、危険な領域に踏み込んでいたかもしれない。今は社員1人ひとりの意識がまったく違う」と、不況の克服に自信を示す。梶野ITCも経営指導の面で支える。ITシステムをベースに社員の意識改革を実践した事例である。
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